幸せになれる力
「……!」
携帯電話のアラーム音で、私は目を覚ました。
いつもは夢なんかみないのに。はっきり覚えている。
「神……か……」
私はベッドの上で、神の手を握った右手を開いたり、閉じたりした。
でもあれが神なのか、そうでないのか、そんな事はどうでもいい。
だって、あれは夢なのだから。
……でも。
もし、あの力が本当だったら……?
「……お母さんの、オムライスが食べたいな」
ぼそっと、呟いてみる。
数秒して、ため息。
「……何言ってんだろ、私」
手料理なんて、ずっと食べた事ないじゃないか。
ありえない。
第一、 先程見た光景こそが夢、なのだろう。
現実に変わる事なんてない。きっと今日も、つまらない一日が始まる……。
私は黙って着替えを済まし、一階へと降りた。
一階に着くと、いい匂いがした。
そして、私は驚愕に目を見開いた。
「おはよう月子、今日はオムライスよ」
「え?」
いつもの朝とは大きく異なる光景。
テーブルの上に、オムライスが乗っていた。
「最近、ずっとインスタントだったでしょ? たまには、月子にも何か作りたくなっちゃって」
「あ……ありがとう」
私はまだ夢を見ているんじゃないかと思った。
しかし、現実として具現化されているのだ。
『言霊の力を持つ者は、発した言葉通りの結果を現す事が可能だ』
夢の中での、神の言葉を思い出す。
「まさか……本当に……」
「ほらほら、早く食べないと学校遅れちゃうわよ?」
「い、いただきます」
私はスプーンを握って、オムライスを食べる。
ちょっと味が濃いチキンライスも、ちょっと焼き過ぎの卵も。
全部、お母さんの味だった。
「美味しい……美味しいよ、お母さん」
「月子が喜んでくれたなら、お母さん良かったわ」
母は微笑みながら、私が食べ終わるまでじっと椅子に座っていた。
こんな時間、何年ぶりだろう。
いつも父にしか料理を作らない母が、私が大好きなオムライスを作ってくれて。
こんなに優しく、笑いかけてくれて……。
「……神様、ありがとう」
「ん、月子なんか言った?」
「なんでもないよ、お母さん。オムライス、ご馳走様」
「お粗末さまでした」
母はにっこりと笑って、食器を下げに行った。
私は神様に感謝して、両手を合わせて心の中でお礼を言った。
幸せになれる力をありがとう、と。




