1・アッコ工房
ぼちぼち書いていきます。
不定期アップになります。
「はぁ・・・和光君さあ、この色は無いわぁ」
「うーん・・・形もちょっとね。新しいトレンドを狙ってるのかな?でもね〜地味過ぎるね〜」
「市場は求めて無いのよねぇ、こーゆー色合い」
まったく散々な言われようだ・・・
うちの会社はアッコ工房は剣士の外装・拵をデザイン・注文制作する工房だ。
一流の剣士では無く三軍クラス以下が対象だ。
いわゆる一軍は世界戦を戦う、二軍は全日本クラス、三軍は地区戦、四軍は県レベル、五軍は市の大会となる。
世界大会で3回優勝すると“剣聖”と呼ばれ世界的アイドルだ。
工房として主に三軍の剣士を扱う事が多いので、工房としては中の上に位置している。
三軍の客はスポンサーのついている一軍・二軍とは違い、そこまでの予算は無いので宝石や金箔はあまり使わない。
将来性を買われてスポンサーを持っていれば別だが、普通の剣士はもっぱら形状とカラーリングで個性を出している。
そんな中でうちの工房は千段刻と言うツルを巻いた様な鞘加工や、千段の間隔を広くした蛇腹の加工の機械を所有している為、安価で対応出来るのでなかなか人気がある。
社員は社長を含め5人と少ないので、全てのスタッフがデザインから加工まで全てを担当する。
29歳の美人社長の厚子さんは面倒見が良く社員からは尊敬されている。
そして何と、世界の超一流剣士のデザインを担当するエムオス社の社長夫人だ。
そんな人が何の為に?こんな小さいデザイン工房をやっているのかは?
よく分からない・・・
夫や家族関係は非常に良いらしいから、もしかしたら趣味かも知れ無い。
最近は慣れたが入社したての頃は厚子さんと旦那さんがウチの工房の隅っこで、一緒にお茶を飲んでたりお弁当を食べていて心臓が止まるほどびっくりした。
この世界の頂点の人がいるんだからそりゃ驚きですよ!
そんでもって俺はセンスが無いのか?とにかくニッチ過ぎるデザインらしく、自慢でないが未だ一度も俺の案が取り入れられた事は無い!
高校を卒業し専門学校で2年、桃じいちゃんのツテでここに就職して4年経ち今年で24歳だ。
その4年間デザイン画の採用は1度も無い!
工房の上司や先輩はダメ出ししながらも、1番歳下の俺を応援してくれている。
「まぁぼちぼちね和光君、今日はこれからセミオーダー用の途中加工木地を削っといてよ。でもデザインする事はあきらめちゃダメだからね!」
いつものように?チーフにダメ出しをされ工作機械の部屋に行く。
セミオーダーが入った時にすぐに取り掛かれるように、下地の途中まで外装を加工しておくのだ。
手先が器用でこっちのセンスはある為、ほぼこの担当になりつつある。
この加工技術の件では工房で大絶賛されているのが何とも複雑な心境だ。
セミカスタムはベースとなる定番系を何パターンか作ればいいのだが、フルカスタムオーダーはデザイン図を元に立体化する。
まぁ、これがなかなかに難しい。
デザイン画より使える木を選び、頭の中で加工後のイメージを持ちながら削って行くのだ。
これがとにかく自分に合ってるらしく大絶賛なのだ!
最近はエムオスの社長にお願いされて、エムオスで手に負え無い複雑なデザインの下地加工をする事も多くなってきた。
因みにエムオスの社長は俺の事を”魔法の手”と呼んでいる。
先日の世界戦でも何人か俺が削った下地で、外装を施された拵を使っていた。
(宝石でいっぱいデコってた!)
あれ?俺って加工職人の方が合ってるんじゃねぇ?っと薄々感じている今日この頃である。
(まぁ、そっちもかなり好きだから良いんだけどね!)
朴の木を取り機械にセットし黙々と削り出す。
「さて!今日もちゃちゃっと加工しちゃうか!」
4時間ほど機械に向き合っていると・・・
“ほーたぁーるのぉー♩ひかぁーりー“っと定時間15分前の歌が流れる。
この歌が流れたら作業をやめて、掃除をするのが決まりだ。
家路が流れ放送が入る。
『本日の作業は終了です、気をつけて帰りましょう!』
「さて、帰るか」
基本的に急ぎの仕事が無い時は全員定時で上がる。
社長とチーフは30分遅く出てきているので、戸締りをして我々より30分遅く帰る
工房の駐輪場から愛用の電動3輪自転車を出す。
後ろカゴに弁当箱を乗せ電動アシストをオンにすると、グンっとペダルを踏み出した。
神田の古本屋街のビルを通り過ぎると、ぽつんと1軒だけ古い日本家屋が現れる。
隣りは空き地だが、周りはビルなので違和感がある。
空き地の車の横に自転車を停めると、重厚感のある石門を通り玄関は続く飛石を進む。
「ただいまー」
「おかえりなさい!」
2年前に結婚した同い歳の幼馴染、小桃が夕食の支度中らしく台所から首を出す。
セミロングおかっぱの髪が揺れている。
「お風呂わいてるわよー」
「じゃあ先に入って来るね、ずっと削ってたから粉っぽいよ」
「えーちょっと!玄関の外で粉は落としてね!」
この家は小桃の祖父の家だ。
俺と小桃の親は4年前事故で他界した。
その後、許嫁だった小桃と結婚しこの家に住んでいる。
この古い日本家屋に祖父と小桃と俺の3人暮らしだ。
古いがなかなかホッとするこの古い建物を和光は気に入っている。
今は更地になって居るが、和光の家が隣りだったのでここには子供の頃から出入りして居た。
もはや第二の我が家でもある。
そしてこの家の雰囲気や色味が自分のデザインの根幹だと思う。
よく分からないが“侘び寂び”と言うらしい。
お寿司に入ってるやつはワサビなので、ちょっと違うようだ。
春の祖父の桃じいちゃんは神田で古本屋をやって居る。
月・火・水曜日の3日間、夕方の17時オープンの21時閉店の5時間だけ営業する。
店の名は成桃堂。
桃じいちゃんの名前が成桃だからだ。
なかなかの老舗らしく、なんと一見さんお断りの会員制の古本屋だ。
実は小桃の両親とウチの両親も成桃堂で働いていた。
その頃は2店舗あり、土日休みの14時から21時までの営業。
もちろん完全会員制。
本店は小桃の両親、支店はウチの両親が店長でやって居たそうだ。
桃じいちゃんは今でも出来る事なら2店舗にしたいらしい。
(そんなに儲かるのかな?)
身体を洗い登別の湯の素が入った湯船に浸かる。
「うぇーーーい」
思わず声が出る。
じじくさいと言われようが、出てしまうのだからしょうがない。
温まったところで、身体を拭き作務衣に着替える。
テーブルに着き夕飯を頂く。
香りでわかっていたが、今日は小桃のドライカレーだ!
パリパリに焼いた鳥もも肉のピリ辛の塩スパイスが乗っている。
これをがじりながらドライカレーを食べると、あまりの美味さで倒れそうだ。
そして最後に温玉を混ぜて食べると、ガーン!っと言う感動の嵐が吹き荒れる。
頭の中で坊さんがリズミカルに鐘を鳴らして居るのか?っと思うぐらいガーンと来る!
このドライカレーの時に出る、鰹出汁と鯖ぶしのわかめスープも美味い!
薄切りダイコンのサラダも合う!
美味しいご飯は疲労感も吹き飛んで行く。
「はぁ〜、美味しかったぁ〜ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
食後のほうじ茶を自分の分と小桃の分を淹れる。
お茶を飲みなから今日の話をする。
「やっぱりダメだったよ」
「うーん、良いと思ったんだけどなぁ」
「みんなの反応から伺うと、やっぱ地味過ぎるらしい」
「えぇ?でも戦う為の装飾だから、キラキラしても出っ張っててもダメじゃ無いの?」
「キラキラしないとダメらしいよ」
「テレビに出てる侍アイドルの人達のみたいな、あの刀だと持ちにくく無いの?持つところにあんなでっかい装飾付けて?でっかいポメルだっけ?とか付いてて」
「そう言う風に個性と、更には品格が無いとダメらしいよ?」
「絶対持ちにくいじゃんアレ。はあ〜品格ってのも良くわからないわぁ、旦那様の仕事は難しいのねぇ」
小桃と俺とは大体同じ感覚だ。多分、桃じいちゃんも一緒だと思う。
「色じゃ無くて模様とかの方が良のかな?」
「日本で昔から使われて居る模様一覧とかは、じいちゃんの古本屋を探せばあるんじゃ無い?」
「そうだねー、明日休みだし探してみるか」
「じいちゃんを迎えに行った時に聞いてみれば?」
「うん、そうするか!」




