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原型

本日3話更新です。よろしくお願いします。

「サーシャ、おめでとう!」「おめでとう」


 部屋付きの仕事にも徐々に馴染んできた頃、サーシャの休日に家族が祝いの席を設けてくれた。

 王都の一等地にある高級料理店の個室で、ローディック家の四人が久々に顔をそろえていた。


「上級侍女だなんて姉さんはすごいや。僕らの学校から官吏になる人は時々いても、平民はなかなか出世しないらしいのに」


 弟ソーマの言葉に、サーシャはカイを思い浮かべる。

 ロランツの話では、カイも相当に苦労をしたらしい。自分と一緒に仕事をした日々が、彼の中に『苦労』ではなくいい感情を残してくれていたらいい──ふとそう思った。


「上級侍女じゃなくて、臨時の侍女よ。仕事だってまだまだ先輩たちと同じようになんてできないし。ところでソーマ、私のこと『姉貴』って呼ぶの、やめたの?」


「うっ……あれは若気の至りだから忘れて! そ、そんなことよりもさ、姉さんはその臨時が終われば商会に戻るんでしょ? じゃあ姉さんが商会を継ぐの?」


「私は服飾部門の運営に携われればそれでいいの。でもソーマがあんまり頼りないと……わからないわよ?」


 サーシャがわざとらしくニヤリと笑ってみせると、ソーマは顔を引きつらせた。


「あらあら、お父さんの前で次期商会長の話なんて気の早いこと。ねえ、お父さん」


「ははは。ま、頼もしくていいんじゃないか」




 家族水入らずの楽しい祝いを終え、みなで自宅へと戻る。こういう時、散策と言うよりも市場調査として見てしまうのは、家族全員の癖のようなものだ。


 ソーマが、最近学校の友人たちに人気の店があると教えてくれた。

 その店は、流行りの文具や服飾小物を扱う庶民向けの雑貨店で、店構えが特徴的なのだそうだ。


「いつもド派手な服が飾られててさ、舞台衣装の流れ品を買い付けてるらしいよ。売り物じゃないんだけど、とにかく目立たせるために置いてるんだって。ああほら、遠くからでもすぐわかるでしょ」


 大通りを曲がるとすぐ、その店は目に飛び込んできた。


 洗練からはほど遠い、舞台映えのためだけに作られたような極彩色のドレス。同じく何かの舞台の払下げ品であろう奇妙な看板やいびつな家具たち。

 それらの隅で場違いに佇むその品物。


 見つけた瞬間、息が止まった。


 そこにあるはずのないもの。

 それは、王宮のお仕着せに似ていた。 




「ごめん、みんな先に帰ってて!」


 サーシャは駆け出して、まっすぐにその店に飛び込む。


 ──違う。


 けばけばしい陳列の中にあると一見それらしくは見えるものの、生地も形も違う、まったくの別物だとわかる。



「お嬢さん、その衣装が気になるかね?」


 まじまじとお仕着せのようなものを見ていると、店主の男に話しかけられた。


「それはね、王宮で評判のお仕着せの、なんと原型なんだよ」


「これ、どこで手に入れたんですか」


「それは言えないねえ。そのうちたくさん作って売るかもしれないから、欲しけりゃまた店に来ておくれよ」


 そう言って店主は店の奥に行ってしまった。




 無意識に足を動かしながら、先ほど見たもののことを考える。


 質の悪い模倣品、それ自体は防ぎようのないことだろう。

 けれど、王宮の名を出し原型と称して飾るなど、あってはならない。

 縫製室も仕立てを請け負う店も、みな誇りを持って作っているというのに。


 関わっている者がいるはずだ。


 誇りも矜持もなく、規定を軽んじる作り手──

 思い当たった瞬間、歩調はさらに速くなった。


 ひとつひとつ確かめよう。推測だけで済ませていい話ではない。

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