第22話:白の衝撃
「漆黒の通路」の内部は、外の瓦礫の山とは完全に切り離された異空間だった。
道幅は、大人三人が肩を並べれば埋まってしまうほどに狭く、そして不気味なほどに整っていた。床は平坦で、一行の足音だけが硬い材質の壁に反響し、どこまでも奥へと吸い込まれていく。佐藤が掲げるランタンの小さな灯りが左右の壁をなめるように照らすが、そこには配管ひとつ、ガラクタひとつ落ちていない。ただ、暗闇と、冷徹なまでの直線の通路が続いているだけだった。
「……気持ち悪いわね。まるで、誰かがさっきまで掃除していたみたい」
マイアが小声で呟く。その声すらも、通路の静寂にすぐにかき消された。
どれほど歩いただろうか。やがて一行は、行き止まりの壁に突き当たった。佐藤が壁の半球状の突起に掌を当てると、地響きのような「ゴゴゴ……」という重厚な駆動音と共に、目の前の壁が上へとせり上がっていく。
その隙間から溢れ出したのは、地下の住人たちが生涯一度も経験したことのない、狂暴なまでの「光」だった。
「っ、何!? この眩しさは!」
ナナイとマイアは、咄嗟に腕で顔を覆い、その場に崩れ落ちるようにして視界を拒絶した。扉の先に広がっていたのは、サッカー場が丸ごと収まるほどの大広間。すべてが混じりけのない純白で構成された、影のない世界だった。
扉の先に広がっていたのは、サッカー場が丸ごと収まるほどの大広間。天井、壁、床……そのすべてが混じりけのない純白で構成され、空間全体が発光しているかのような、影のない世界だった。
目を細めながら、佐藤は広間の中央を見据えた。
そこには、一人の人影がたたずんでいる。
一行は、視界が慣れるのを待って、広間の中央へゆっくりと近づいた。
それは人間に酷似していたが、金属の質感も油の匂いもしない。全身を滑らかで無機質な「真っ白な人工皮膚」に包まれた、生命感の欠落した人型だった。
「サトウ……あれは、一体何なの……?」
遠巻きに立ち止まったマイアが、掠れた声で問いかける。
「マイアさん、ナナイさん。落ち着いて聞いてください。これは、かつての人類が造り出した『動く人形』……精巧な自動機械のようなものです。今は眠っているようですから、安全ですよ」
佐藤は彼女たちが理解できる言葉を選び、穏やかに伝えた。
佐藤はクロと共に、その白い人形の至近距離まで歩み寄る。首筋を覗き込んだクロが、黄金色の瞳を細めた。
「ヒロ……ここ。ここから、何か『波』のようなものが出てる気がする……」
クロは今までに感じたことの無い「波動」のようなものを感じ取り、その場所――首筋の小さな突起に、吸い寄せられるように指を伸ばした。
――カチリ。
『スリープモードを解除しました。システムの起動準備中』
突如、広間に響き渡った無機質な音声。
「ヒロ、下がって!」
クロは反射的に佐藤の前に飛び出し、彼を背中で庇うようにして白い人形の正面に立ちはだかった。鋭い爪を剥き出しにし、黄金色の瞳を光らせて人形を睨み据える。
『システム、正常に作動しました。生体反応を検知。識別スキャンを開始します』
人形の瞳に赤い光が灯り、一本のレーザー光が立ちはだかったクロの頭頂からつま先までをゆっくりと移動していく。
『スキャン完了。種別:ホモ・サピエンス変異種。性別:女性。骨格および細胞密度から推定年齢14歳と定義。――人類種として暫定承認しました』
(ホモ・サピエンス変異種……? それに14歳?。⋯⋯クロ、君は『人類』として認められたんだな)
スキャンの内容に驚愕する佐藤に対し、白い人形は優雅に一礼した。
『私はSW2000。人類の皆様、当施設にようこそいらっしゃいました。ご要件をお申し付けください』
静寂が戻った広間の中で、マイアとナナイは呆然と立ち尽くしていた。自分たちの信じていた世界の常識が、今、目の前の「真っ白な人形」によって根底から覆されようとしていた。




