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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第20話:揺らぎ

瓦礫がれきの山に囲まれた仮初かりそめの休息地には、重苦しい沈黙が横たわっていた。

 ナナイは少し離れた場所で、闇の向こうをにらみ据えている。その背中は、負傷者を出したこの現状を冷徹れいてつに受け止めているようだった。

 マイアは、佐藤の寝息に合わせて動く胸元をじっと見つめながら、自らの無能さをのろっていた。


(……なぜ、もっと早く気づけなかったのか。不適合者ふてきごうしゃが潜伏している可能性は、あの扉が開いた瞬間から予見できたはずだ)

 リーダーとしてのプライドが、じりじりと焼かれる。もし自分がもっと冷静に周囲を索敵さくてきしていれば。もし自分がもっと早く指示を出していれば。

 佐藤の背中を裂いたあの傷は、本来、自分の未熟さが負うべきものだったはずだ。

(あの子は、戦闘要員ですらない。なのに……)

 あの瞬間に耳元で聞いた、必死で荒い息遣いきづかい。自分を抱え込み、盾となって転がった時の、細い体のどこに隠されていたのかと思えるほどの力強さ。

 看病をしながらその寝顔をじっと見つめていると、不意に、心臓の奥が小さくうずいた。

(……サトウ。貴方は一体……)


 その時、空気の温度が一段、下がった。

 それまで石像のように沈黙していたクロが、音もなく動いたからだ。

 クロは佐藤の横に滑り込むようにして寝転ぶと、まるで外敵から守るように彼を抱きかかえた。そして、黄金色の瞳をかつてないほど鋭くとがらせ、マイアを真っ向から射抜いぬく。


「……ヒロは、私のものだからね」

 その声は、これまでのような子供じみたわがままではなかった。

 マイアは弾かれたように我に返った。クロの視線に宿る、き出しの拒絶。それは、マイア自身も自覚していなかった「女としての色香」を、クロの猫的な本能が敏感に察知した結果だった。


(……今、私は何を考えていた? 感謝? それとも……)

 マイアは激しく鼓動する胸を押さえ、慌てて視線をらした。

「な、何を言っているの……。私はただ、今後のリーダーとしての振る舞いについて考えていただけよ」

 そう。あり得ない。相手はつい先日、爺さんの紹介で加わったばかりの少年だ。今は何よりも、この先の「漆黒の通路」をどう攻略し、この窮地を脱するか。それを考えるのがリーダーとしての責務だ。

 だが、否定すればするほど、自分の中の「揺らぎ」が重くのしかかってくる。

(……マイア。貴方は何を、恐れているの?)


 一方のクロは、佐藤の腕に頭を預けながら、内心で激しい警戒の爪を研いでいた。

(この女から、今までと違う匂いがする。ヒロを見る目が、ただの仲間じゃなくなってる……)

 それはまだ漠然とした予感に過ぎなかったが、クロにとっては、自分の生存圏テリトリーを脅かす、不適合者よりも恐ろしい侵略者の予兆だった。

 深い眠りの中で、まだ何も知らない佐藤だけが、二人の女の間に漂う張り詰めた火花の中、静かな息を繰り返していた。

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