第17話:地下の洗礼
戦闘の余韻が冷めやらぬ通路に、獣の死骸から漂う独特の獣臭が立ち込めていた。
佐藤は肩で息をしながら、自分が投げた音響弾の燃えかすを拾い上げた。爆発の衝撃でひしゃげたスチール缶は、その役割を十分すぎるほどに果たしていた。
「ふぅ……なんとかなったな」
「アンタにしては上出来よ。少しは見直してあげてもいいわ」
クロが血のついた爪を無造作に服で拭いながら、佐藤の隣に並ぶ。
だが、安堵したのも束の間、佐藤の視界に信じられない光景が飛び込んできた。
ナナイが、倒れたばかりの巨大ネズミの死骸の前に屈み込み、手際よく短刀を振るっていたのだ。
「……あの、ナナイさん。何をされているんですか?」
佐藤が戸惑いながら声をかけると、ナナイは振り返りもせず、迷いのない手つきで獣の厚い皮膚を裂いていく。
「何って、解体だよ。サトウこそ、ぼーっとしてないで手伝ってよ。この腿の肉、脂が乗ってて一番美味しいんだから」
ナナイは事もなげに言い放ち、切り分けた赤黒い肉塊を掲げて見せた。
その顔には嫌悪感も迷いもなく、まるで趣味の工作でも楽しんでいるかのような、淡々とした好奇心が宿っている。
「解体って……それを食べるんですか? こんな、目がなくて鼻が割れた化け物を」
佐藤が顔をしかめて絶句すると、ナナイはようやく手を止め、不思議そうに首を傾げた。
「化け物? 違うよ、これは『食料』。地下じゃ当たり前でしょ? 食べられる時に確保しておかないと、次にいつ獲物に会えるか分からないんだから」
その言葉には、この世界で生き抜いてきた者特有の、冷徹なまでの合理性があった。マイアもそれを止める様子はなく、周囲の警戒を続けながら静かに頷いている。
「サトウの言うことも無理はないけれど、ナナイの言う通りよ。地下の資源は限られているわ。見た目はアレだけど、しっかり火を通せば貴重なタンパク源になるの」
マイアの言葉に、佐藤は改めて自分の置かれた環境を思い知らされた。
ここは8500年後の、AIに捨てられた人間が這いつくばって生きる場所なのだ。自分の常識を押し通す余裕など、どこにもない。
「……そうでしたか。わかりました」
佐藤は自分を納得させるように深く頷くと、リュックからナイフを取り出し、ナナイの隣に腰を下ろした。
ナナイはそれを見て、ニヤリと口角を上げた。
「あは、物分かりがいいね、サトウ。じゃあ、アンタはこっちの皮剥ぎをやって。この毛皮、硬いけど加工すればいい防具の材料になるから」
観察眼の鋭いナナイは、佐藤の手つきをじっと見つめながら、新しい「素材」を手に入れた子供のように楽しげに作業を再開した。
食料と資材の確保。それは地上を目指すための、泥臭くも切実な準備作業だった。
やがて解体を終えた一行は、ナナイの案内でさらに奥へと歩を進める。
すると、佐藤の「方向感覚」が、ある異変を察知した。
「……待ってください。風の向きが変わりました」
佐藤が指差した先には、これまで見てきた錆びた配管や瓦礫とは明らかに質の異なる、巨大な「人工の隔壁」が闇の中にそびえ立っていた。




