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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第13話:連携の鼓動

暗闇の中でうごめく、おびただしい数の節足。1メートル近い漆黒しっこくの甲殻が、カサカサと不気味な音を立てて壁や天井を埋め尽くしていく。「ブラック狩人ハンター」――その名の通り、彼らは個の力ではなく、組織的な連携れんけいで獲物を追い詰める、地下最悪の捕食者だった。


「……来るぞ! サトウ、背中を合わせろ!」

バイアスの地をうような怒号どごうが響くと同時に、天井から一匹の巨体が弾丸だんがんのような速さで佐藤に向かって降ってきた。

「くっ……!」

佐藤は手に持った鉄パイプを咄嗟とっさに振り上げる。

かつて長距離トラックの運転手として、雨の夜の高速道路や雪道での急なスリップを何度も経験してきた。あの時、脳がスローモーションになり、体が勝手に最適なハンドル操作を行っていた感覚――積み上げてきた「経験値」が、いま、若く鋭敏な肉体と直結リンクする。


ガキン、と硬質な手応えがあり、漆黒の脚が火花を散らす。鉄パイプ越しに伝わる衝撃は重かったが、佐藤はそれを力で押し返さず、受け流すようにして怪物の体勢を崩した。だが、一匹をはじいた隙を逃さず、死角しかくからもう二匹が左右同時に飛びかかってきた。


「させないってば!」

その横面よこづらを、クロの鋭い「爪」が一閃いっせんした。

鋼鉄を切り裂くような音が響き、緑色の体液をき散らしながら怪物が転がっていく。クロは着地するなり、猫特有の柔軟なバネを活かして、壁をりながら次々と黒い影を叩き落としていく。そのひとみは、佐藤を死なせまいとする必死な輝きを帯びている。


一方で、バイアスとナナイのコンビは、熟練の動きで群れの中央を支えていた。

しかし、敵の数は減るどころか、闇の奥から次々とき出してくる。足元を流れる汚水が、怪物たちの体液でどす黒く染まっていく。

「キリがねぇ……! このままじゃ囲まれちまうぞ!」

バイアスの声に、隠しきれないあせりが混じる。

佐藤は荒い息を整えながら、冷静に周囲を観察した。年輪を重ねた男の精神は、こうした最悪のトラブル現場において、パニックに陥ることを許さない。彼は戦場の「流れ」を俯瞰ふかんした。


(……おかしい。こいつら、ただ空腹で突っ込んでいるわけじゃない。どこかに『目』があるはずだ)

佐藤の視線が、瓦礫がれきかげを走る。

そして見つけた。十数メートル先、崩れた大型コンテナの上に、他の個体よりも一回り小さく、しかし異常に長い触覚しょっかくを激しく震わせている個体がいる。その触覚の動きに合わせ、周囲の「黒い狩人」たちが一斉に左右へ展開していた。


「バイアスさん! あの奥、左のコンテナの上にいる触覚の長い奴だ! あいつが触角の振動音で命令を出してる!指揮官リーダーだ!」

「なんだと!? ……チッ、遠すぎる! 雑魚ざこが邪魔で届かねぇ!」

バイアスのパワーでも、あの距離まで棍棒を正確に投じるのは難しい。


佐藤は自分の足元を見た。そこには、先ほどの「閃光虫せんこうちゅう」との戦いでき出しになった、高圧の光ファイバー束と、ひしゃげた蓄電ユニットが転がっている。

「……直せるか? いや、直すんじゃない。『壊す』んだ」

佐藤は鉄パイプを地面に突き刺し、ひざをついてガラクタの中に手を突っ込んだ。

かつてドライバー仲間が言っていた。「道具は使いよう、壊し方も使いようだ」と。

道端で立ち往生した際、手持ちの工具と針金だけで応急処置をして朝まで凌いだサバイバル能力が、異世界の技術と火花を散らす。


「クロ! 三十秒だけ、俺の周りに一匹も入れないでくれ!」

「えっ……!? わかった、信じてるからね、ヒロ!」

クロが佐藤の名前を呼び変え、その身をさらに低く沈める。彼女が周囲で黒い影を次々と肉塊にっかいへと変えていく内側で、佐藤はき出しの導線を、半ば強引に蓄電ユニットの過負荷回路オーバーロードにバイパスさせた。

「……指先が震えるな。肉体は正直だ」

自嘲気味じちょうぎみに笑いながらも、佐藤の手は止まらない。


「よし、できた! バイアスさん、これを受け取って、棍棒こんぼうの先に巻き付けてくれ!」

佐藤が放り投げたのは、パチパチと青白い放電を繰り返す「即席の電磁スタン・ユニット」だった。バイアスはそれを空中でつかみ取り、荒々しく棍棒の先端に叩きつける。

「よくわからんが……しびれるような贈り物じゃねぇか!」

バイアスが大口を開けてえ、帯電した棍棒を

足下の邪魔者たちに次々とお見舞いしていく。帯電した棍棒に弾かれたものは「電気の炎」に焼かれ異臭を放ちながら左右に消えていく。

指揮官に届く距離まで近づいたバイアスは大きく振りかぶり咆哮ほうこうと共に振り下ろす。

巨漢の剛腕ごうわんから放たれた一撃は、青い雷光を引きずりながら、指揮官個体の脳天に直撃した。

凄まじい閃光と放電。

キィィィィンという悲鳴と共に指揮官が崩れ落ちると、群れの動きが一瞬で崩壊した。

「今だ! 突破トッパするぞ!」

バイアスの号令とともに、一行は混乱した群れを蹴散らし、闇の回廊を全力で駆け抜けた。


……どれくらい走っただろうか。

安全な区域で古い防壁のハッチをロックしたところで、全員が泥のようにその場へ崩れ落ちた。

「……ハァ、ハァ……サトウ、お前……」

バイアスは肩で息をしながら、しばらく佐藤をじっと見つめていた。

これまでは「怪しい余所者」として厳しく目を光らせる「監視者」でしかなかった彼の顔に、初めて、一人の戦友を認めるような、信頼の笑みが浮かんでいた。

「……ただの運が良いガキじゃねぇのは、分かった」

「……現場で覚えた、ちょっとした修理の応用ですよ」

佐藤は苦笑いしながら答えた。


「ヒロ、すごかったよ!」

クロが、まだ火照ほてりの残る佐藤の腕に、そっと自分の手を重ねた。

その瞳に宿る光は、地下世界のどの発光植物よりも強く、佐藤の心を温めた。

「『ヒロ』って俺のことか?」

そうたずねた俺にクロは少し赤くなった顔をそむけながら

「サトウなんて長くて呼びづらいし、アンタの名前は『ヒロノリ』っていうんだから『ヒロ』の方が短くて呼びやすいからよ!」

「そうか。好きに呼んでくれ。」

そう言いながらクロの頭にそっと手を置いて軽く撫でてやった。クロは目を軽く閉じ、のどの奥をゴロゴロと鳴らした。


佐藤の持つ経験値と、彼を取り巻く仲間たちの絆。それが、絶望に満ちた超高度文明の遺構の中に、確かな希望の灯を灯し始めていた。

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