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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第5話 ご褒美

「そうなると……この家にずっといれる人はいないねー」

「そうですね。人は」

 この家の住民は人だけではない。

 猫と、犬。

 ちらりと葵はさつまを、五月はアポロを見た。

「さつまはダメね。どうも忠一ちゃんっていうかネズミを獲物として認識してるみたいなのよね。もともと野良猫だったらしいし」

「アポロは……どうでしょうか。言い聞かせれば……いえ、きちんとしつければ襲い掛かるようなことはないでしょうが……」

「忠一ちゃんが受け入れてくれるかどうかだねー」

 こればかりはどうしようもないことだが、ペット同士の相性というのはやって見なければわからない部分が多い。

 思いがけず仲良くなることもあれば大丈夫だろうと確信があってもなぜか破綻することがある。

「私たちがあんまり行ったり来たりしなかったのも人を怖がってないかどうか不安だったからだし……どうしたものかしら」

「うーん……やってみるしかないんじゃないかなあ」

「そんな簡単に決めていいんですか?」

「多頭飼育は先にいる子を優先しないといけないけど……何もしなかったらいつまでたってもよくならないしねー」

「「……」」

 ほわほわした印象の佳穂だが、ことペットに関しては現実的かつ的確な判断を行うのだ。

「そうね。ひとまずアポロちゃんと何度か顔合わせしてみようかしら」

「何日かここにいるなら臭いとかはもうわかってると思うよー」

「ケージ越しに対面ですね」

「おやつとかあげるとリラックスしてくれるかもねー」

 ペットを想う飼い主たちの会話は和やかに進んでいた。

 もっとも、一度ならず生死のかかった戦いを潜り抜け、場合によっては敵対しあっていた葵と五月の関係からすれば嵐の前の静けさのようにも見えた。




「っと、そろそろいい時間ね」

 しばし話し込んでいた三人だったが、時間を思い出した葵がふと呟いた。

「ありがとね、佳穂。お礼に何かしてほしいこととかある?」

「あ、それじゃあねー、もしよかったらでいいんだけど、ここでお昼食べてもいい?」

「へ? 昼ごはん? え、なんで?」

「だって葵ちゃん、料理うまいよね」

「うまいかどうかはわかんないけど……なんでそう思うの?」

「前の調理実習の手際よかったし」

 ここで二人の会話に五月が口をはさんだ。

「確かに、皆本さんはお料理というか家事全般がお上手ですよ。いつもお世話になっています」

「あんたまで……まあ、いいけど。二人分作るのも三人分作るのもあんまり変わらないし」

 やったあ、と小さな歓声を上げる佳穂。

「んー、それじゃあ二人で買い物行ってきてくれる? わたし、下ごしらえしとかないとだめだし。あと、一応アポロちゃんと忠一ちゃんの顔合わせもやってみるわ」

「おっけー」

「え? あ、そうですね私は料理のお手伝いができませんし」

 五月は火に対してトラウマを持っており、その影響で熱いものが苦手だ。特にガスコンロの火はかなり苦手で料理も不得意だった。

「佳穂は自転車でここにきたわよね。五月、私の自転車貸すわ。買ってほしいものは……いいわ、後で連絡するから」

 てきぱきと家事は自分の庭だとばかりに指示を飛ばす。

 口を動かしながらも頭の中では昼食の献立を組み立てている。

「うん! それじゃあ行こっか、五月ちゃん」

「はい。それじゃあよろしくお願いします」

 佳穂は朗らかに、五月はやや緊張した声音で、同様に表情は岩のように固かった。


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