第28話 愛の炎
「これなら……『コール』」
松本のアクションに対して五月もアクションを返して、お互いに何らかの情報が公開された。
(っていうか、他人のカードの内容って見えないのね。じゃあ、五月も弱点が炎って知らないわけか。こういうところだけ細かいっていうか……)
「皆本さん! 相手のギフトの家族の情報が公開されました! 父親は創造神、または法律の神。妻は愛の神だそうです」
全速力で頭を回転させる。
(法律の神で、妻も愛の神なら魔物や悪魔の線はほぼゼロ。創造神はともかく、法律の神なら絞れるはず)
「父親が複数あるのは諸説ありってことよね!?」
「おそらくそうです!」
「多神教なら父親のパターンがいろいろあるのは珍しくな……」
「『フロス・オルトス』」
会話が終わる前に、松本がどこかから新たなスキルを発現させた。
部屋の床どころか、壁、天井にさえ色とりどりの花が咲き誇る。あまりにも美麗な光景を前に、一瞬心がどこかにいった。
それこそがこのスキルの効果だったのだろう。身動き一つとれない無防備になってしまった。
「きゃうううううううん!?」
「アポロ!?」
アポロの鳴き声が気付けとなり、正気を取り戻す。
アポロの背にはミツバチが群がっていた。
「っ! 『ルーガム』!」
遅ればせながらアポロを援護するために五月もスキルを発動させる。しかしルーガムは破壊力を大きくさせるタイプのスキルであり、群れであるミツバチには有効ではなかった。
(落ち着け私。今のスキルから考えると花とも関連がある。花と火。そして法律とも近しい神)
頭の中の辞書を必死でめくるが文字が滑るように逃げる感触しかない。
(何か勘違いしてる? いや、そもそも……本当に炎の神なの?)
体温を上げるという能力なので炎の神だと思っていた。
しかし炎の神が、火で傷つくことなどあるのだろうかと自問する。例えばカグツチなどは母親を火傷で死なせたせいで自分も殺されることになるので火の神だが弱点は炎だと言えなくもない。
「ねえ! ギフトってどの程度までカバーしてるの!? 例えば、神様の乗り物とか、他人から借りたものまでギフトになるの!?」
「なります! 特に悪側は! 適当ですから!」
五月も余裕がなくなってきている。
明らかにアポロの動きが鈍くなっているせいだった。ミツバチの毒と、ギフトによる体温の上昇のせいだろう。
しかし、それを無視してようやくかみ合い始めた歯車を葵は全速力で回転させる。
(炎を使う神じゃない。焼かれて死んだ神だ! そしてそれが自身のアイデンティティにつながる……自分の神話の中核になってしまった神!)
「『オールイン』!」
葵は自信をもって叫んだ。




