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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第40話 委員長

 サーシャはダイバースーツを着ているだけでなく、掃除用具のようなものと、片手で小さな水槽を持っていた。しかも水槽の中には熱帯魚らしき生き物が泳いでいる。青い体に黒い線が入っていて、ヒレが黄色かった。

 ここが水族館ならまだしも、もともとは公民館だった施設でそんな格好をしているのは控えめに言って変人にしか見えない。

「うん! それは今までこのヘファイスティオンの水槽を掃除していたからさ!」

 右手の水槽にいる熱帯魚を掲げる。

 それほど大きくないとはいえ水槽を軽々と持ち上げるその膂力はたいしたものだ。

 そしてその熱帯魚からは予想通り、少年と少女の中間のような声が聞こえてきた。

「ギョ! 掃除がすんだならさっさと新しい水槽に運ぶギョ!」

(……ギョ?)

 ちょっと意味が分からない語尾に困惑していると五月から解説が入った。

「サーシャさんは熱帯魚のギフテッドのオーナーです。ちなみにグループ型。趣味は水槽の掃除と水泳。すべての熱帯魚に名前を付けているそうです。あとそのしゃべり方はボスとの契約の結果だそうです」

「……解説どーも。グループ型ってことはギフテッドがいっぱいいるのよね。名前はアレキサンダー大王の部下縛り?」

「らしいですね」

 アレクサンドルはアレキサンダー大王のロシア語呼び。そしてヘファイスティオンは彼の腹心だった男性だ。

 歴史に詳しいのだろうか。

「いやあ、ここは本当に僕にとって天国だよ! みんなの家を毎日掃除できるし、そこで泳いでも平気だからね!」

 家、というのはおそらくこの施設ではなく、熱帯魚の水槽をさすのだろう。ペットの住処を家と呼ぶ気持ちは葵にとっても理解しやすかった。

 ちなみにサーシャの勢いや、大きな体にびびったのか真子は葵の袖をつまんで背中に隠れている。

「もしかしてここにでっかい水槽があるの?」

「はい。水棲のギフテッド用ですね。それも複数。それでも手狭な場合は外の池を利用する算段のようです」

 つまりサーシャは甲斐甲斐しくギフテッドのお世話ができることに喜びを感じている。それ自体はとても理解しやすい。

 問題なのは初対面の相手に平然と水着で話しかける神経だ。

「あらあら! ちょおおおおと、なきやんでねえ、ベンちゃあああああん!」

 奥の方からはベアがオーナー、おそらくはベンという名前、を宥めている様子。

「ひひ……ボーノさん、素敵です」

 いまだにポルチーニはキノコにほおずりしている。

「ちょっと待ってねヘファイスティオン! 挨拶が済んだら早くもっとおおきな水槽に移すからね!」

「御託はいいギョ!」

 なにやら口げんかしているヘファイスティオンとサーシャ。

 そんな光景を眺めつつ葵は呟いた。

「ここには変な奴しかいないの……?」

「「……」」

 五月と真子は何も言わなかったが、同じことを思っていた。

 お前も同じようなもんだろう、と。


「みんな楽しそうだな!」

 楽しそうな少年の声にまた何か変な奴が来たのかと思わず身構える。

 が、首を向けると予想に反してごく普通の小学生高学年くらいの男子がいた。放課後にサッカークラブにでも通っていそうな活発な格好で、ある意味この場で一番浮いていた。

「……どちら様?」

 どこか疲れた様子で葵が尋ねる。答えは五月から返ってきた。

「……目的の人物ですよ」

「ええと。ここに来た目的ってなんだっけ」

 いろいろあったせいで記憶があいまいになってしまっていた。

「た、確か特害対の委員長によ、呼ばれて……え?」

 真子の言葉に、葵もまた驚愕のまま、少年に再び目を向ける。

 少年は誇らしそうに胸を反らしてこう叫んだ。

「そう! 俺が特別獣害対策委員会委員長、草野一寿だ!」


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