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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第39話 変人の巣窟

 説明するまでもないが、葵は今までキノコを初対面の人間に勧められた経験はない。

 茶色っぽい、網傘のようなものがあるキノコだったが、毒があるかどうか判断できるほどキノコに詳しいわけでもない。なにより相手の意図がまるで読めない。

 困惑した葵はとりあえず五月の方に首を向けた。

 そうすると五月はぶんぶんと首を振っていた。表情の見えない葵でさえ、必死さは容易に伝わった。

「すみません。もう食事は済ませているのでお断りします」

「ひひ、残念です。ボーノさんも食べられたがっていると思ったのですが」

(この人、キノコに名前を付けて……まさか)

「あの、ポルチーニさん? あなたのギフテッドって……」

「ええ、私の相棒はこのキノコです。ボーノさんと名乗っていますよ」

 愛おしそうにキノコを撫でる。同性である真子や葵から見てもどこか蠱惑的な仕草だった。

 だがそんなことよりも。

(こいつ、自分の相棒を他人に食べさせようとしたの?)

 常軌を逸している。例えば愛猫のさつまが誰かに食べられるところを想像して。

(食べようとしたやつ殺しそうね。というかアポロちゃんも殺す気で戦ったし)

 もちろん相手に食べられることで発動するギフトを持っているという可能性もあるのだが、それでもギフテッドを他人に食されることをよしとする精神性は理解できない。というかしたくない。

「あ、あの、五月さん……この人、いえ、き、キノコ……? ってか、会話できるんですか?」

 これは真子の疑問だったが葵も似たようなことは考えていた。以前植物のギフテッドもいたことは知っているが、直接会ったことはない。

「ポルチーニさん曰くシャイでなかなかしゃべりたがらないそうです。……私はキノコ……ボーノさんが会話しているところを見たことはありません」

 つまりそれは。

 あくまでも会話できているとポルチーニが主張しているだけなのでは?

 さすがにそれを声に出すことははばかられた。

 そしてポルチーニはキノコにほおずりしていた。もうこの変な女性をどう扱っていいのかわからなくなっていたが。

「こらこら。ポルチーニさん! 新人の女の子たちが困ってるじゃないか!」

 どこからかさわやかな男性の声が室内に木霊した。


 またしても現れた人間はたくましく、アスリートのような男性だった。

 葵にはわからないが、金髪碧眼で、町を行く女性が何度も振り返りそうなほど整った顔立ちをしていた。

 それだけならば完全無欠な男性としてモデルや俳優として食っていけると確信できるだろう。

 だが。

 問題なのは彼の服装だ。それを指摘するよりも先に男性は会話を続けた。

「僕はアレクサンドル・ログノフ。長いからサーシャでいいよ。日本人には女性の名前のように聞こえるらしいけど、僕は気にしてないからね!」

 きらりと白い歯を見せるように笑顔を作るサーシャ。とても様になっている動作だ。ひとまず全員自己紹介をしてから、葵は尋ねずにはいられなかった。

「あの、サーシャさん」

「ん? なんだい?」

「どうして水着なんですか?」

 そう。彼の服装はダイバースーツであり、しかも今まさに水から上がったようにやや湿り気を帯びていた。


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