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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第38話 敵か味方か

 重大な危機に瀕した時、人の反応は主に二種類。

 固まって動けなくなるか、慌てふためき叫ぶ。

 今回の場合、葵は前者、真子は後者だった。ちなみに猫は意外にも驚くと動けなくなることが多いらしい。自動車事故にあう猫の原因はこれだ。

 微動だにしない葵とさつまとは反対に、真子は大太鼓の爆音さえかき消すほどの大声をあげた。

「く、くくくく熊ああああああ!?!?!?!?!? ししし、死んだふりしちゃだめですよおおおおお!?!?」

 そんな大声をあげた真子にむしろ葵は感心した。

 目の前に褐色の熊が現れても他人に忠告する判断ができるとは思わなかったのだ。そして慌てふためく真子を見て葵も少しだけ冷静になった。

 この目の前にいる猛獣が見た目通り凶暴であるのなら、こんな街中にいられるはずはないのだ。

 それでもらんらんと光る眼は月光のように鋭く、その舌は炎のようだった。全く恐怖を感じないなどできるはずもない。

 ゆっくりと……少なくとも葵の体感時間においてはそのように思えた……ヒグマの口が動く。

「あらあら! ボスが新しく来るって言ってた子たちね! あらやだ。おばちゃん驚かせちゃってごめんね!」

 目の前のヒグマは右手を器用にぱたぱたと動かしている。

 芸を仕込まれた熊と大阪のおばちゃんを足して二で割ったような仕草だった。敵意ゼロのその行動に葵と真子は毒気を抜かれた。

 それに対して全く動揺した様子がなかった五月がヒグマに話しかける。

「お久しぶりです、ベアさん。こちらは皆本葵。彼女のギフテッドのさつま。そちらが南野真子。蛇がククニです」

「もー、五月ちゃん。堅苦しい挨拶はなしって言ってるじゃない。あ、おばちゃんはベアトリクス。グリズリーのベアトリクスよ。ベアって呼んでね」

 ベアトリクスと名乗ったヒグマの足元にアポロが駆け寄り器用にベアの体を支えにして立ち上がり、そのまま顔を舐める。

「あら。アポロちゃんも。久しぶりね」

「は! そちらもお変わりなくワン!」

 内情を知っていればほほえましい異種友好関係だったが、ドーベルマンとヒグマが相撲を取っているようにも見える。

 おとぎ話か、はたまたは怪談か。

 どちらにしても葵と真子はようやく正気を取り戻しつつあった。そこに新たな混乱をもたらしたのは鳴き声だ。

「びえええええええ!」

「あらあらあら! いけないわ! どうしたの! ベン!」

 ベアはアポロをそっと地面に置くと風のごとく奥の部屋に去る。

「……ねえ。何が起こってるの?」

「それは……」

 葵の疑問に五月が答えようとすると、横からぬるりとした声がした。

「ひひ……ベアさんのオーナーは幼児なんですよ。彼女は子守をしているんです」

 今まで全く人の気配がなかった場所からした声に驚いて振り返ると、白衣の女性がいた。


 すらりとした長い鼻に、透き通った白い肌。葵たちより一回りほど年上に見えるその顔は欧州系の美人で間違いがない。ただしやや猫背でうっすらと浮かんでいる隈と、白い頭巾をかぶっている様子から連想する彼女はまるで。


「ひひ……魔女のよう。そう思いましたねえ?」

「そ、そそそそ、そんなことありませんよ?」

「……」

 真子はしどろもどろになっていたが、他人の顔が認識できない葵は黙っていた。だがまあ口調や声からそういう印象があったのも事実だ。白衣もなぜか魔女の黒いローブのようにも見える。

「ひひ、お初にお目にかかります。わたくし、ポルチーニと申します。本名ではありません。まあ、愛称のようなものです」

 ちなみにポルチーニはキノコの一種で、そのあだ名の通り、彼女が手に持つ籠にはキノコがあった。

 黒い手袋をつけたすらりと伸びた指が滑り、籠からすっとキノコを取り出したポルチーニは。

「ひひ、まずはおひとつ、いかがです?」

 当然のようにキノコをすすめたのだった。


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