僕らの一日だけの戦争 Part5
──楓太が目を覚ますと、そこは見知らぬ空間だった。
椅子に縛り付けられていて、お世辞にも綺麗とも清潔とも言えぬその場所は、映画のセットのようだった。
「あれ……俺、たしか……」
今に至るまでを思い出してみる。そうだ、日用品などを買うために街へ出向き、背後から何者かに襲われたのだ。
その後気絶して、ここまで連れてこられたというわけだ。
しかし誰に?
「気がついたか」
「誰だ……?」
楓太の目前に足を組んで座る男がいた。
小田切だ。彼の周りにはペンチや釘、ハンマー……これからDIYでも始めるわけでもあるまい、状況と展開に嫌な汗が滲み出す。
「俺は小田切。まあ自己紹介とかはいいだろ」
「……どうして俺をこんなところに」
「さぁな。お前に恨みはねえけど、必要なことなんでね」
とにもかくにも情報が足りない。
ここはどこで、なんの目的で監禁されているのか。ドッキリの気配もない、正真正銘、楓太は本当に拉致監禁されてしまったのだ。
「お前がすぐに開放されるかは、お前ンとこの長女次第だ」
「愛花……?」
小田切が釘とハンマーを持ち近寄ってくる。これから始まる事にまさかと思いつつも、想像したくない事ほど鮮明に頭に浮かび上がってくる。
まさか、そんな。
固定された手足、人差し指に釘を仮置され、その上にハンマーを振り下ろした。そうすれば、どうなるかなど火を見るよりも明らかどころか、それは痛みとなって嫌でも思い知らされた。
「うぐぁぁぁっ!?」
ドクドクと貫通した指が震えている。
痛みに悶える楓太だが、小田切はそれも当然だろうと言った様子で気にも止めない。ただ、淡々と次の指へと釘を叩き込んでいくだけだった。
「いい声で喚けよ、居候くん」
(くそったれ……!)
★★★
「楓太……遅いな」
楓太が買い物に出かけてから2時間以上が経っていた。
少しくらいなら気にはしなかったが、さすがにこれは何か異常があったのではないかと胸がざわめき出す。携帯も繋がらず、不安が胸いっぱいになりかけたときだった。
我が家のインターホンがなる。一瞬楓太かと早とちりしたがよくよく考えれば楓太ならわざわざ押しはしない。
何かを警戒しつつ、引き戸を開けると、そこには小さな女の子。知り合いでもない、本当に初対面の子だった。
「……なにか用かい?」
「これ、へんなおにいちゃんたちがわたせって」
「なに……?」
その封筒を受け取り、女の子は走り去っていった。
中には、SDカードと手紙。
手紙には『映像については何も口に出すな。我々の仲間になれ。そうすれば宮下楓太を開放してやる』と。
その文章を見た瞬間、愛花はSDカードの中身を確認した。
「──」
椅子に縛り付けられて、血を流す姿を見て愛花の頭の中には、一つの目的が産まれ、家を飛び出した。
必要なものは何もない。
今から必要なものは……
「──ぶっ殺す」
たった一つの、純粋な殺意だけだった。
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