僕らの一日だけの戦争 Part4
「そうか、アキラも叶もか」
「はい、アタシは華子のとこに。叶は皆で勉強会だとか」
とある日の夕食、会話はそんな内容。
アキラは土曜日に華子の家に泊まり、叶はクラスメイトたちと受験に向けての勉強会で泊まり。
偶然が重なったが、明日は二人共に家を留守にする。
「じゃあ明日は私と楓太だけか」
真奈美が出張から帰ってくるのは月曜日。
確かに土曜日に関してはその通りだった。
「……楓太さん、変な気起こしちゃだめっすよ?」
「なんだよ変な気って」
何を心配しているのかそんな事を注意する。そもそも起こしたところで何もかも返り討ちにされるとしか思えなかったが……。
「まぁ、でもそういうことなら、明日の晩飯は愛花の好きなものでも作るか」
「チキン南蛮で頼む」
食に関心のある愛花は即答した。
それがなんだかおかしくて、楓太は「わかったよ」と笑いながら承諾して、明日は玉ねぎやら買いに行かないとなと、頭のメモ帳に記した。
★★★
「おいっーす」
「遅いぞ御剣。いつもいつものんびりしやがって」
「まあそう怒んなって。で、今日は何の話?」
珍しく今日は金田と小田切に続き、御剣も集会にやってきていた。というのも、しびれを切らせた花谷が釘を差したからだ。
あくびをしながら不真面目な態度を見せる御剣。こんな集会に来ている時点で真面目も何もあったものではないかもしれないけれど、御剣の根は真面目な青年なのだ。
本人談でしかないが。
「御剣、あんた。そろそろ喧嘩したい頃じゃない?」
「おぉ、なんだよ。花谷が相手してくれるのか?」
「馬鹿が。なんでお前と花谷さんが喧嘩するんだ……お前も知ってるやつだよ。八月朔日愛花だ」
「なにぃ?」
その名を聞き、御剣はふんっと腕を組み堂々とした態度が己の意思を示した。
「俺は女とは喧嘩しない。女ってのは弱ぇから守るもんなんだよ」
「そう言うと思ったけどよぉ、お前。あいつの強さを知らねぇんだろ。20人程度で襲いかかっても無傷で切り抜けるらしいぞ」
金田の言葉に眉がぴくりと動く。御剣は「いやだが」と続ける。それは、まるで見栄というか、対抗心を燃やしてしまったのか。
「俺なら30人相手でも問題ねーから」
「そいつの妹は『風雷』を一人で潰したらしいぜ」
「なに!?」
風雷は今では壊滅したが、アキラに潰される前まではかなりの勢力を持っていた軍団には違いなかった。実際花谷も雷を勧誘したこともあり、風雷がアキラによって崩壊したことを知った時はひどく驚いた。
そして、同時に欲した。
それだけの強さを、我が手にと。
「八月朔日三姉妹、噂にゃ聞いてたが揃って化け物レベルだ。そしてその長女は、妹たちでも勝てないって話だ。どうだ御剣。お前、これでも八月朔日愛花が弱い存在だと思うか?」
もう小田切の声は御剣には届いていなかった。
届いていなかった、というよりも聞きながらも別のことを考えていた──戦ってみたいと。
様々な娯楽を探す御剣だが、結局のところ、彼にとって最も快感になり得るものは。
殴り合いと、勝利だ。
「いいぜ、おもしれぇやってやらぁ!」
気分を良くした御剣はそのまま験担ぎに、安直に豚カツを食べに行った。
「……単純だなアイツ」
「あれくらいが一番使いやすくていいわよ。それよりも、金田。宮下楓太を拷問すること、それを餌に八月朔日愛花を誘き寄せること、そして開放と条件に仲間に入れること……絶対に漏らすんじゃないわよ」
「わかってますよ。御剣はそういうの大嫌いですからね。バレたら八月朔日サイドに寝返りかねない」
「ったく、なんで俺らがよぉ、前座みてーな扱いされなきゃなんねんだ」
金田が吐いた前座の意味。
今回花谷が立てたゲームの内容はこれだ。まず楓太を拉致監禁、その後ある程度の拷問を行い、その一部始終を録画し、その動画を愛花に送りつける。
それを見た愛花は怒り、まっすぐに指定された場所までやってくることだろう。
そしてここからは、花谷にとっても不安な要素が混ざるが、まず返してほしいのならば仲間に入ることを伝える。
おそらく拒否し、武力行使によって無理矢理にでも取り返しに来るだろうが、少しでも動けば殺すと脅しをかける。
……と、素直に目の前で言えればいいが。
御剣恭弥。
仲間であり、最大の戦力である彼が、この作戦の最大の壁だ。御剣は卑怯な手段を嫌っており、彼がいる場で人質だのなんだのと騒げば、この作戦はほぼ破綻する。
ではその場に呼ばなければいいじゃないか、と?
それもそうだ、だが御剣は愛花を抑えるためには絶対に必要な存在なのだ。
「そこは上手くやるわ、あんたたちは八月朔日愛花を倒せるように少しでも体を休めておきなさい」
日が沈む。
何が起ころうと、戦争は始まる。
たった一日だけの、戦争が。
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