もうお婿にいけない。
頭をアキラに洗ってもらい、さて次は身体なのだけど。
「じゃあ背中は私が流そう」
そう言って立ち上がったのは愛花だった。
「えっ、いいって愛花……任せとけって」
「……さっきは楓太には迷惑をかけたからな。せめてそれくらいはしたいんだ。交代しよう、アキラも湯につかるといい」
さっき、というのはあのバッタ事件のことだろうか。確かに驚きはしたがそんなに気にしなくてもいいのに。
「……わかったよ」
何故か渋々といった様子で愛花と場所を代わる。図らずも3姉妹全員から身体を洗われてしまった。だからどうしたというわけではないが、なんとも言えぬ気持ちになった。
「ふむ……」
俺の背中で何やら顎に指を当てている所が、鏡越しに見えた。何か背中にあるのだろうか。
「どうかしたか?」
「いや、思ったよりも背中が大きくて驚いただけだ」
そうかな、とは思ったがよくよく考えれば同級生の男子の背中をこんなに間近で見ることなんてないだろう。
俺自身は特にそう思っていたことはないが、身長のことを考えるとそう感じるものなのかな。
「楓太の身長はどれくらいなんだ?」
「俺か……最後に測ったときは171だったかな」
「結構あるな」
「愛花の方こそ結構身長高いよな」
他愛もない話だが、入浴中にする雑談なんてそんなものだ。
「よし、楓太。あとはゆっくりと湯船につかるだけだ」
「うぅん、そうかもだけど……」
この湯船にまさか四人で入るつもりなのだろうか。無理ではないけどかなりつめてじゃないと厳しいし、例え入っても常に隣と密着してしまう。
「叶もうちょっとつめてくれ」
「うん〜」
叶、アキラ、俺、愛花の順に入る。
……いや、待て。これ今までで一番危険な状況かもしれない。俺の情緒的な意味で。
両方の二の腕に、愛花とアキラの二の腕の感触が伝わる。この筋肉質でもない、柔らかいだけのふにふにの腕からどうしてあれだけのパワーが出てくるのか、今世紀最大の謎だった。
緊張で身体が熱くなる。まだ入ったばかりだけど、もう上がりたかった。
「い、いや〜、い、いい感じに温まってくるすね……」
「そうだな……って、アキラすごく赤いぞ? のぼせてるんじゃないか?」
「そ、そんなことないすよ? まだ、もうちょっとこのまま……」
「そ、そうか。……じゃあ俺はあがろう、かな」
やはりこれは俺には刺激が強すぎる。悶々とした気分がどうにも拭えず、なんだか3人に申し訳なくなってきた。
だから俺は逃げ出すように立ち上がろうとしたのだが。
「えっ! だ、だめすよ、ほらもうちょっと入っておかないと……!」
「いや本当に……! 大丈夫だから!」
手を掴まれて阻止される。その反動で俺は少し体制を崩してしまう。普段ならば両手が自由だから問題はないが、今はそういうわけにもいかない。倒れるにしても、右腕だけは死守しなければならない。
身体をひねって、俺はなんとか背中から倒れた。膝裏が湯船にひっかかって、衝撃もそこまで強くはなかったことは幸いだった。痛いことは痛いけど。
問題はそんなことではなかったし、倒れたことに気を取られてソレに気付くのに一瞬間が空いた。
「お、おいおい大丈夫か楓太……え」
「す、すんません楓太さんっ! 怪我とか……へっ」
「わぁ……」
「いてて……あ」
はらりと。
倒れる途中で解けてしまったのか、俺の下半身を守っていた一枚の布は、役割を放棄していた。
「「ひゃぁぁぁああああっ!?」」
「うわっーーー!?」
「わぁ〜……」
愛花とアキラは叫びながらもガン見。叶は一応は手で目を隠しているがチラチラと指の隙間から覗いている。
「見ないでっ! こんな姿を見ないでえぇぇっ!」
俺は、もうなんか。泣きそうだった。
いや……ちょっと泣いた。
今回もここまで読んでいただきありがとうございます!
もうそろそろ日間ランキングからは消えてしまいそうですが、復活できるようにがんばります!
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