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夕暮れと目玉。

 いろいろとあったが水遊びもほどほどに、ついに今回のメインが焼き上がった。


「よいしょっ、と……お、いい感じかな?」

 

 アルミホイルが脂でテラテラと輝き、あのマグロからどれだけ染み出しているのかと想像させられる。

 ぺりぺりとアルミホイルを剥がしていき、こんがりと焼き上がったマグロの頭がついに俺たちの前に現れた。


 表面はまるでゼラチンのようにプルプルしていて触ると崩れる。可食部はどこだと探しているが、いかんせんこんなものを食べたことがないから中々見つけ出せない。


「あっ、こことか良さそうだよ!」

 

 叶がエラの下あたりからほぐれた身を探し当てた。ホクホクとあがる湯気が、じっくりと熟成された事を表しているようで食欲をそそられる。


「はふっ……」


 叶が最初の一口を放り込む。何度か小さな口が動いたあと、口角があがり「めっちゃ美味しい!」と今日一番の笑顔を見せた。

 それに続いて俺たちもマグロの身に箸を伸ばし、口へ運ぶ。


 味付けは特にしていないのだけれど、マグロの身から染み出す旨味が全てを物語っていた。 

 なにもいらない、素材の味で最高到達点に達していた。


「うっわコレうめぇ〜」


 思わず声も出てしまう。ただ焼いただけじゃこれほど上手くは出来ないと思うと、時間がかかっても良かったと思えた。


「こことかすごいな」

「ここも肉厚だぞ。部位によって弾力も違うのだろうか?」

「わっー! ここ絶対美味しいよ!」


 今の時点でも十分過ぎるほど美味なのだが、俺は一度家の中に入り、冷蔵庫からあるものを持ってくる。

 醤油と生姜、塩など。


「あ、楓太さん。それ最強」

「だろ? どれどれ……」


 一口お先に生姜醤油でいただく。

 いろいろと言いたいことはあるが、俺は黙って親指をグッと力強く立てた。


「ねぇ〜、楓太兄ぃ〜。これご飯も欲しくなる〜」

「はははっ、確かにな。よし、叶、ご飯よそうのを手伝ってくれ」


 茶碗に白米が盛られていく。これは絶対に間違いないやつだ、合わないわけがない。


「は〜、こりゃたまらんな」

「最初はどうなることかと思ったが、大成功だったな」


 あまりの美味しさに夢中で食べ続けて、三十分後には身がスカスカになってしまった頭だけが残された。


「そういえばよ、目玉も食えるんだよな?」

「結構美味いらしいぞ。俺は良いから、3人で食べな」


 とは言ったものの、当然だが目玉は2つしかない。


「そうだな。アキラ、叶。二人で食べるといい」


 長女の優しさか、愛花は当然のように二人に譲る。アキラも叶もそれをありがたく頂戴した。


「わっ、トロっとしてる」

「得も言われぬ感触。でも、美味いな」


 最後の可食部も平らげてしまい、ついにマグロは全て俺たちの胃の中へ収まった。


「終わっちゃったねー」

 

 叶が少し淋しそうに言う。もう焼くものもなく、力無くパチパチと燃える炭にも哀愁が漂う。


「またすればいいさ。な?」

「うん!」


 元気いっぱいに頷く叶に、俺の笑みが溢れる。さぁ、これからは後片付けだ。


「よし、じゃあ出てしまったゴミとかは俺が片付けるから、網とかビニールプールを片付けてくれるか?」

「そっすね。……てかちょっと冷えてきたすね」


 アキラが両腕で体を抱きしめている。確かに風も出てきて、水に濡れた体を冷やされている。こんな夏だというのに、風邪を引いてしまいそうだ。


「今日は湯船にお湯ためちゃうか。冷えた体も温めないとな」

「あっ! じゃあ楓太兄ぃ、また一緒に入る?」

「え? あー、いや……」

「えっ、楓太兄ぃ、嫌……?」

「う……」

 

 上目遣いでその言葉は効く……。

 

「……そうだな。そうするか」

「わーい! じゃあまた背中流して──」

「ちょっと待て」


 アキラが叶の肩を掴んで言葉を止めた。

 理由はわからないが……顔が怖かった。


「何?」

「何じゃねぇ。お前らの前科を忘れたのか」

「前科って。あれはアキ姉ぇがむっつりスケベって事で終わったじゃん」

「むっつりスケベじゃねぇ! つか実際あんなのは審議不可能だ! もうひとり監視の目をつけるべきだ。だから──アタシも入る、風呂に」

「へ?」


 予想外の展開になってきた。

 こう言っちゃなんだが、この家の浴室は狭くはないが広くもない。三人だと中々に、どうしても密着が増えてしまうような。


「なんすかその目は……叶は良くて、アタシはだめなんすか」

「そういうわけじゃないけど……」

「じゃあいいすよね! はい決まり!」


 そんな流れで、3人で一緒に風呂に入ることに。いやどんな流れだ、そもそも俺はまだ着衣したまま入らなければならないのか。

 今後、風呂用の水着を買う必要があるかもしれないな……。


「ふふ、なら先に入ってくるといい。完全に体が冷えてしまう前に、ちゃんと──へくちゅっ!」


 そのくしゃみが響いた瞬間、全員が愛花を見ていた。愛花は鼻元を抑えているが、それは赤くなる顔を隠す動作に変わっていった。


「愛花姉ぇ、全国可愛いくしゃみ選手権あったら優勝狙えるよ」

「やめてくれ……穴があったら入りたい……」


 本当に穴があったら入りそうな勢いだ。しかしこの空気と流れ、何か予感がする。

 そう、さらなる波乱が巻き起こる予感が。

 そしてその予感はわずか3秒後に的中するのだった。


「そうだ! 愛花姉ぇもいっしょにお風呂入ろう! きーまり!」

今回もここまで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ハーレム確定コースじゃん うらやま~
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