マグロ。
峰十郎さんが再び旅立った日の、お昼頃。
「……で、これはなんだよ」
「私が知るか。今開けたらあったんだ」
「わー、おっきぃ〜。これ食べられるの?」
理由は全く不明だが……冷凍庫にマグロの頭かしらがぶちこまれていた。
そんなはずはないのだが、ぎょろりと目がこちらを覗いている気がした。
「なんか紙も入ってるぜ……『仲良く食べろ』……えっ、父さん?」
「いつの間にこんなものをいれていたんだ?」
「というかなんでマグロ?」
「わからん……」
そういえば朝方、何かガサガサと物音がすると思ってはいたが……まさかこんなものがあるとは夢にも思わない。
俺たちは冷凍庫を前に立ち尽くしていた。正直喜ぶには少し難易度が高い。
「まぁ……食えってんなら食ってみようぜ」
「しかしどう調理する? こんなもの、素人に調理できるのか?」
至極真っ当な疑問に意外にも叶が答えた。なにやらスマホを使ってマグロの頭の調理方法を検索していたようだ。
「頭をアルミホイルで巻いて、両面を一時間ずつ焼いて、最後に一斗缶を被せてまた一時間くらい蒸し焼きにするんだって」
「結構時間かかるな……」
この真夏の暑い中じっくりとマグロの頭を焼いていく。
なかなか無い事だろうが、それに見合った食べ物なのかと、俺たちはすぐに実行に移そうとは思えなかった
「……まぁ時間はたっぷりあるんだ。そうだ、せっかくだしマグロだけじゃ味気ない。思い切ってバーベキューでもしようか」
そう提案すると、叶が「バーベキュー!?」とはしゃいだ。いい食いつきだ。
もう完全にやる気の叶にアキラも「やるかぁ」と承諾。愛花に関しては既に網の用意を始めていた。切り替え早いな。
「よし、それじゃあ買い物班と準備班にわかれるか。誰か付いて来てくれるか?」
俺のこの腕じゃ準備は難しいだろうから、買い物班へ。それについてくると手を挙げたのはアキラだった。
「あ、じ、じゃあアタシ行くっす!」
★★
真夏の太陽がギラギラと俺たちを照らしてくる。
「あっついなぁ〜……」
「帽子被ってきて正解すね」
「だな」
これだけでも顔の日焼けを防げるが、この日差しだ、帰ってくる頃には肌の見えている部分は少し焼けるかもしれない。
「足あち〜……」
キャップを直しながらアキラが小声でぼやく。
ハイカラーのトップスと、デニムのホットパンツにハイカットの誰もが知るあのシューズ。
アキラらしい活発なスタイルだ。しかし確かにさらけ出された足が熱に焼かれている。
「日焼け止めとか塗ったか?」
「いや、特には」
「大丈夫か? 足、真っ赤になりそうだけど……」
そう言って健康的なふとももに視線を落とす。その視線に気付いたアキラが「えっち」と尻を蹴ってきた。
「わっ! ごめんそういうつもりじゃないって……!」
「はは、わかってるすよ」
再びキャップを深く被り直している。
冗談だと言うが、少しデリカシーが無かっただろうか?
「はぁ〜……ほんと、あついっすね」
パタパタと顔を手で扇いでいる。
アキラの言う通り、確かに暑い。アキラのその顔も赤くなっていて、温度が更に上がったような気がした。
「この格好で正解だったな……」
「ん? なにか言ったか?」
「なんでもないっす」
誤魔化すように走り出して、一足先に冷房がよく効いたスーパーに駆け込んでいった。
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