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107 秋薔薇の咲く日に・・・

無事に最終章まで書き終えました。最後まで読んで下さった方々に感謝します。

こんなに長くなるとは思っていませんでしたが、描きたい事が全部書ききれて嬉しかったです。自己満足で申し訳ありません。

 べルークの卒業の日、俺は宰相補佐見習いの仕事を休んで式に参列した。そして昨年の俺同様に首席で卒業したべルークは、校長から記念のゴールドのメダルをかけてもらい、卒業生代表の答辞を読みあげた。

 その堂々とした態度と光り輝くような美しさに、式の参列者は皆感嘆の溜息を漏らした。確かに今日のべルークは世界一凛々しく格好がいい。

 しかし、明日は世界一可憐で、可愛くて、愛らしくて、美しい俺の花嫁になるのだ。

 

 今年の首席は当然べルークだったが、次席は俺達の友人となったアンドレアで、三位はセブオンだった。弟はこの三年間本当によく頑張った。さすが俺の弟だ。

 俺は弟のセブオンの頭を撫でた後、わざわざ祝いに来てくれた親友のエミストラ、そして彼の婚約者となったサンエットに手を振ると、愛しい愛しいべルークと馬車に乗り込んだ。


 俺はべルークとカスムーク邸へと向かった。彼女は一ヶ月前から結婚準備の為に実家から学校へ通っていたのだ。

 

「明日が待ち遠しいよ。ようやくお前と夫婦になれる。この三年、長すぎて辛かったよ」

 

「わ、私もです」

 

 相変わらずスムーズに出てこない『わたし・・・』のフレーズにおかしさをこらえながら愛しい婚約者に口づけをした。

 

「では明日ね。今日は父上と兄上と最後の夜を過ごしてくれ」

 

 俺はベルークの手をとって馬車から下ろしながらそう言って、俺はまた馬車に乗り込んだ。俺達は明日結婚式をあげたら、新しい屋敷で新婚生活を送る事になっている。だから、べルークが家族と共に過ごせるのは今日だけなのだ。もちろん俺もだが。

 俺の心は早くも明日の結婚式へ飛んでいた。

 

 ジェイド家に戻ると、玄関ホールで妹のイズミンが出迎えてくれた。最近ではあまり着なくなっていたピンクのドレス姿で。

 

「お帰りなさいませ、お兄様。べルークお兄様は如何でしたか? 勇ましく、凛々しく、王子様のようにキラキラと輝いていましたか?」

 

 俺達が婚約してからイズミンは、べルークが男装している時は『べルークお兄様』、女装している時は『ジュリエッタお姉様』と呼んでいる。

 

「ああ、まさしくあのお二人よりもよっぽど王子然としていたな」

 

 俺はべルークと友人の皇子二人を思い浮かべ、比較しながら笑った。

  

「まぁ、お兄様、それって不敬罪になりますわよ」

 

「お前が婚約者にばらさなゃ大丈夫さ」

 

 俺がこう言うと、イズミンは笑った。なんと、イズミンは先月ローソナー殿下と婚約していた。まだ九つなので、公にはされていないが、婚約証明書は教会に提出済だ。

 十二歳も年が離れているが、二人で話をしているのを聞いていると、目を瞑ってさえいたら全く違和感がない。

 ロリコンでも可愛いもの好きでもないのにローソナー殿下がイズミンを好きになったのは、妹の精神年齢の高さと人の心がよく読めて思いやりのあるところだそうだ。殿下は俺の婚約パーティーの時に妹を見初めたそうだ。

 

 結婚は当分先になるだろうが、殿下の年齢を考えると、イズミンは成人前に嫁ぐ事になるだろう。

 普通皇族の結婚は跡取りの事があるので、二十代前半で身を固める場合が多いのだが、セブイレーブ皇太子殿下とエミリア皇太子妃との間に、既に双子の皇子が生まれていたのであまりうるさく言われなかった。

 

 既に妃教育は始まっているが、教育係も舌を巻く程出来がいいらしい。

 

「お兄様、お忙しい所を申し訳ないのですが、少しだけお時間を頂けませんか? とても大事なお話があるんですが」

 

 いつになく真面目な顔でイズミンが言ったので、俺は頷いた。

 俺が自室で部屋着に着替え終えた直後にノックの音がした。どうぞと俺が返答すると妹が入ってきた。

 

「お兄様、明日はいよいよ結婚式ですね。私、この日が来るのを本当に心待ちにしていました」

 

 イズミンは澄んだ黒い瞳で俺を見つめながら、本当に柔らかな美しい微笑みを浮かべてこう言った。

 

「この日を迎えられるのはあの日、お前が俺の背中を押してくれたからだよ。本当にありがとう。心から感謝しているよ」

 

 俺は心からの謝意を述べた。自分に自信がなくていつまでも行動を起こせなかった俺を、悪役を買ってまで背中を押してくれたのはイズミンだ。あの時、べルークに告白していなければ今の幸せはなかったかも知れない。

 

「本当に私はお兄様のお役に立てましたか?」

 

「もちろんだよ。お前がいなければ、俺はこんなにも幸せにはなれなかっただろう」

 

 俺がこう言うとイズミンは大きく目を開いたまま、ポロポロと涙をこぼした。俺は驚いて妹の傍に駆け寄って抱き締めて、昔のように背中を軽く優しくトントンと叩いた。

 

「私ね、本当は自分の手でお兄様をお幸せにしたかったの。でも、悔しい事に妹に生まれ変わってしまったでしょ。だからそれは無理だったので、お兄様が本当に愛している方と結ばれるお手伝いをしたかったの。本当に良かった」

 

 俺はイズミンの言葉に驚いて、彼女から体を離して顔をのぞき込んだ。涙で溢れたその顔に何故か既視感を覚えた。何処かで、こんな苦笑いをよく見ていた気がする、何処かで・・・

 

「まさか、桃子・・・・・・?」

 

 俺は前世の幼馴染みの名前を呟くと、イズミンはコクリと頷いた。桃子は家族との軋轢で苦しんでいた時、いつも支えてくれていた大事な幼馴染みだ。何故? あいつも俺同様にこの世界に転生していたのか?

 

「私のせいで、私を庇ったせいで死なせてしまって、私、申し訳なくて、ずっと謝りたかった」

 

「謝るのは俺の方だ。お前は全く悪くない。俺を殺したのは強盗犯だ。そして俺を、ずっと苦しめていたのは俺の家族だ。あの当時俺は桃子のおかげでなんとか暮らしていけたんだ。それなのに・・・

 俺はそれまで人を憎んだ事はなかったが、お前を責めるあいつらには本当に腹が立った。

 桃子、俺が死んだ後大丈夫だったのか?」

 

「私だけじゃなくて、松本君も酷いショックを受けてたの。いつも助けてもらってばかりで親友の為に何も出来なかったって。私達互いに慰め合って、助け合って・・・

 元カノのあの人には恨まれたけど、二人で完全無視したわ」

 

 そうか、俺の大事な幼馴染みは、俺の親友と結ばれて幸せになったのか。良かった。前世の記憶を思い出してから、ずっと桃子の事は気になっていたのだ。

 

「私は幸せだったけど、死ぬまでずっと後悔してたの。何故亡くなる前に好きだって言わなかったのかって。もし生まれ変われたら、今度はちゃんと告白しようって。

 でも生まれ変わってみたら妹でがっかりしたわ。それでも今度は妹として、お兄様に幸せになってもらいたかったの。良かった。今度はちゃんと役に立てて」

 

 イズミンはそう言って笑った。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 べルークとジュリエッタの生まれた日は、亡くなった義母上(ははうえ)が大好きだったという秋薔薇が一番美しく咲く季節だった。

 俺と今日成人の十八歳の誕生日を迎えたジュリエッタは、慣れ親しんだイザーク教会で結婚式を挙げた。

 レストー=グラリス教会からはうちで式を挙げて欲しいと言って頂いたが、まだ爵位もない身分ですからと、有り難い申し出を丁重にお断りした。俺が侯爵を授与されるのは一ヶ月後だ。

 しかし、お断りしたにも関わらず、現在はレストー=グラリス教会の教会長になったロイホト神父様が、大切な友人だからと個人的に参列して下さった事には恐縮した。

 

 俺は神父様の前に立ち、カスムーク氏の腕に手を添えてしずしずと進んで来るジュリエッタを待った。静かな音楽が流れる教会内がざわついた。ジュリエッタの美しさに一斉に驚嘆の声が上がったのだ。

 やがて俺の隣にジュリエッタが並んだ。聖なる本の挿し絵に描かれている女神よりも美しい、まるでお日様の下で光り輝く、凛とした赤い秋薔薇のように美しい花嫁だった。

 

 誓いのキスをして教会から出ると、一斉に色とりどりの薔薇の花びらが空高く舞い上がった。教会の庭だけでなく、通りにも人々が溢れ、拍手と声援で覆われた。

 俺はジュリエッタの耳元に口を付けて囁いた。

 

「愛している。これからもずっと一緒だよ」


「私も愛しています。これからもずっと一緒にいます。ジュリエッタとして、そしてべルークとして」

 

 花嫁はそう言って花のように笑った。

後でこの話のスピンオフの短編を投稿するつもりですので、よかったらそれも読んで頂けると嬉しいです。

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