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彼岸花、英名リコリス

「お花を摘んできたよ」


 親愛なる僕のマドモアゼル、と跪き差し出された花束は、毒々しい程鮮やかな、赤い色をしている。

 愛すべき我が恋人の奇行は今に始まったことではないが、誕生日等の記念日でもない、平凡な今日この日に突然の花束プレゼントとは。


 さらに言えば、植物に対して浅薄なあたしが思う、不吉な花ランキング、ナンバーワンに輝くこの花をチョイスしたのは、一体どういう了見であるのか。ちなみにナンバーツーは菊の花という、個人の見解と偏見に満ちたランキングに過ぎないのだが。


「……この花、なにか知ってるの?」

「もちろんさ、ハニー! リコリスだろう」


 キラーンという効果音が似合いそうな笑顔に嘆息する。確かにこの花は色んな名で呼ばれているけれど、そんなカタカナ名で呼ぶ奴――というか本当にそんな名で呼ぶのかすら疑わしいが――は初めてだ。


「これ、有毒なんですけど」

「えっ」


 やっぱり知らなかったのか。

 あまりにも期待通り過ぎるリアクションの彼に、沸々と加虐心なるものが湧いてくる。


「知らなかったの? 根っこの方に毒があるのよ。

 そもそもどこに咲いてたのを摘んできたの? まさか墓地じゃないでしょうね。この花、よくお墓に咲いてるのよね。だから死人花とも呼ばれてるんだって、うちのお祖母ちゃんが言ってたっけ。

 あ、そうだ。この花が咲いてる家は火事になるとも言われてるのよ。こんなにたくさんあったら、うち、大火事になっちゃうかも」


 ねぇ、この花のこと、本当に何も知らなかったの。

 

 嬉々として捲したてるあたしの言葉に、真っ青になって泣き出しそうな彼を認めて、少しいじめすぎたかと我に返って反省した。彼の捨てられた子犬のように震える姿に、罪悪感を刺激されながらも、可愛い奴、なんて呑気なことを考えるくらいには、この男が好きなんだけど。あれだ、好きな子程、いじめたくなるみたいな小学生男子みたいなメンタルなのだ。

 

 謝るのが先か、励ますのが先かと迷いつつ声を掛けようとした途端、声を微かに震わせながら、彼がぽつりぽつりと話し始めた。


 本当にそんな恐ろしい花だって知らなかったんだ。


 見た目も鮮やかでキレイだし。花屋さんも、僕の想いを伝えるのに一番良い花だって教えてくれて。


 摘んできたのは墓地じゃなくて、この花を育ててたご婦人の花畑で摘ませてもらったんだ。


「でも」


 気分を悪くさせてしまったね、ごめんと先に謝られて、何も言葉が紡げなくなってしまった。


「捨ててくるから」


 困ったように微笑むのは、彼の癖。傷ついて悲しんでいるのを、あたしに悟られないように浮かべる表情だって知っている。


 ねぇ、貴方があたしに伝えたかったことって、何?


「捨てなくて、いい」


 驚いている彼の手から、燃えるように赤い花をすべて奪い取った。

 ばつが悪いあたしは睨むように彼を見つめ、

 

「ちょうど部屋に飾る花が欲しかったの」

 

と、意味不明な弁解を口走り、そんなあたしを見て彼は優しく笑って言った。


「あのね、リコリスの花言葉は『想うは貴方ひとり』なんだって」


 そんな歯の浮くような気障な台詞を聞いたあたしの頬は、眼前の彼岸花に負けないくらい真っ赤に染まった。

ご覧くださりありがとうございました。

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