表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/6

ダチュラ、またの名をエンジェルストランペット


「どうぞ」


 勧められたカップには、なみなみと黒い液体が注がれている。その色に、今更ながら自分の置かれている状況を不安に感じてしまい、それを打ち消す為に慌ててミルクを入れてかき混ぜた。


 あたしは記者だ。こんなことくらいでびびっていては駄目。新米だからといって甘えは許されないんだから。


 そう自分を奮い立たせて、意気込みと共に珈琲を半分まで喉に流し込み、漸く真正面に座る相手を見据えた。


「谷原さん、本日お訪ねしたのはですね。貴社が贈賄買収によって無理な」

「折川さん」


 まぁ、そう焦る必要ないでしょう。


 極めてのんびり牽制されただけで、あたしは二の句が継げなくなる。その笑みから与えられる威圧は半端じゃない。


 そんなあたしに気付いているのかどうかわからないが、まさに貼り付けたという形容が相応しい笑顔のまま、取材相手の社長は立ち上がり、机上の植木鉢ごと飾られた花の隣に並ぶ写真立てを手に取った。


「この花をご存知ですか」


 薄黄色の垂れ下がり下向きに咲く花の写真。こんな花は見たことがない。


 知りません、と正直に答えようとして口を開きかけたと同時に、彼は再び愛おしそうに見つめる件の花の説明をするべく話し始めた。


「ご存知ないですか。ダチュラと言うんです。この花、先日ようやく咲きましてねぇ。エンジェルストランペットとも言いますが。ほら、トランペットみたいな形をしているでしょう」


 美しい、でしょう。


 そう言った彼の笑顔に寒気を感じ、ここはひとまず退散すべき、という本能に従って立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。


「たに、はら……さ……」

「ダチュラにはね、折川さん。こんな逸話があるんです。


 ある男女二人の子供が神々の会議を目撃し、それを事細かに母親に話してしまう。そのことで神々の怒りに触れた二人は、ダチュラの花に変えられてしまった。


 それ以来、ダチュラを口にした者は何でも話してしまうようになったのです。と、まぁ、あくまで逸話ですけれど。


 だからと言って敬遠することはありませんよ。確かに、言語障害などを引き起こすアルカロイドを含む有毒花ではありますが、取り扱いにさえ気をつければ問題ありません。


 昔はともかく、今は自白剤なんてナンセンスなものではなく、麻酔薬なんかのクスリとして使われるのが主のようですがね。

 おや、どうかされましたか、折川さん」


 しまった。やられた。しくじった。

 ニヤリと笑う目の前の男に、一服盛られたに違いない。


 悔しさに唇を噛み締めるあたしに、哀れむような、揶揄うような声色で、


「ああ、今ダチュラを口にさせたいのは、貴女の方ですね」


なんて、ぐらりと反転する世界の片隅で、笑っている。


 嗚呼、どう、しよう。逃げなけれ、ば。

 けれども毒がまわる。


 彼がくれた、あの赤い花が持つのと同じ毒物が。


『神々の怒りに触れた二人は、ダチュラの花に変えられてしまった』


 歪む視界に迫りくる男は、もう笑ってなんかいない。


「いらぬことを話してしまう貴女も、ダチュラに変えなければいけませんね」


 人の形に変装していた神の、秘めやかなる怒りに触れてしまったあたしは、ただ力なく瞼を下すしかなかった。

ご覧くださりありがとうございました。


ダチュラの花言葉

「愛嬌」「偽りの魅力」「変装」「夢の中」「あなたを酔わせる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●その他の読み物●

#中編(連載中)

#中編(完結済)

#短編

#詩

※いずれも薔薇、百合、ノーマル入り雑じってますのでご注意を。
(中編は薔薇率高めです)

゜●。お品書き。●゜
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ