7.眼鏡をかけたシンデレラ
最終話です。お付き合い下さりありがとうございました。
「ちょっと!履けたからって、その人が探している女性とは限らないんじゃありません?」
野次馬に来ていたどこぞのご令嬢達から、ブーイングが起こった。まぁそりゃそうなるわよね。だって靴のサイズって、同じ人はたくさんいるもの。でもねぇ。これはなぜかわたしの足にしかピッタリ入らないのよ? 亡きお母様が特注で作らせた、魔法のかかったものでもあるから。
ポケットからぐるぐる眼鏡を取り出して掛けて、ぐるりと周囲を見回した。
わたしを見つめる殿下の本音は相変わらず見れなかったけど、まぁ見える見える野次馬のみなさんの打算や下心や欲望の数々が。
ーーあの令嬢は『アルフレッド様の妃になればドレスも宝石も好きなだけ手に入る』だし、向こうの令嬢は『ゆくゆくは王妃となって、国の女性のトップとして君臨して従わせてやるわ!』ですって。
アルフレッド殿下は王位継承権第一位。皇太子の宣旨も近いんじゃないかって言われているの。
その他彼女たちの周りにいる男性たちも、やれ『娘が殿下の息子を生めば思うがまま操れる』だの、『王家の威光を利用してやる』だの、ろくなものじゃない。
「殿下のことを好きだからっていうのじゃないのね、みなさん」
思わずボソッと呟くと、それが聞こえた殿下は黙って苦笑した。寂しそうな、悲しそうなその表情を見ると、胸がキュッと悲しく痛くなった。うん。ここまできたら腹をくくらなきゃね。だって……。
「わたしもチョビ髭の鼻眼鏡紳士も、空色の瞳の皇太子殿下も、どっちも好きになっちゃったみたい」
「ローズ・マリーベル嬢!」
そう殿下に言うと、雨上がりの太陽みたいな満面の笑顔を見せてくれた。わたしはおもむろにもう片方のポケットから、残ったガラスの靴を取り出す。
さあ野次馬さんたち、よく見てね。印籠よろしく、ガラスの靴を掲げてやった。ポケットが大きいと何かと便利でしょ。
「ここに同じものがありますわ。王家の財産を自由に使えなくて、残念でしたわね」
全く。国民の血税をなんだと思ってんのかしら。
「うん。いいな、貴女は。やっぱり押し倒してもいいですか!」
「きゃっ、今はダメッ!」
変態鼻眼鏡王子にトリモチでとらえられたお妃さまは、ぐるぐる眼鏡を掛けて嫁いだとか何とか。『シンデラ』ならぬ『メガデレラ』とかなんとか、そんな事がおとぎ話として伝えられるのは、もっと後の事。
ーー月夜にダンスを踊りましょう。
お屋敷の誰もいない裏庭で。
グルグル渦巻き眼鏡のメイド姿のわたしと、ハの字のチョビ髭鼻眼鏡のあなた。
社交界の開かれている、絢爛豪華な会場ではないけれど。
わたしとあなた、2人だけのダンスホール。月の光のスポットライトを浴びながら、ガラスの靴で踊りましょう。
「どうしてチョビ髭鼻眼鏡を付けてらしたの?」
今はもう夫となった殿下と、ダンスを踊りながらずっと不思議だった事を訊いてみる。口調もずっと砕けて、お願いしてその丁寧な口調をやめてもらったの。
だって他人行儀じゃない? アルフレッド殿下って、元々は敬語キャラじゃないっていうし。他の皆には親しげでわたしには敬語なんて、寂しいから嫌だってお願いしたの。
「貴女が眼鏡を掛けていたから、それに合わせたんだ。新月のあの夜は、掛けてなかったので外して会いに行ったんだよ」
まぁ、何とすべてはわたしに合わせていたなんて。
「どうしたの? 苺のように真っ赤になって」
クスクス笑って耳元で囁いてくるから、恥ずかしくなって俯いた。
「貴女の継母から裏庭にいる理由を聞いていたんだ。その眼鏡のことも」
「え?お継母さまが」
思わぬ言葉に驚いて顔を上げると、彼に眼鏡を外された。
「“伯爵家夫妻からお預かりした大切な娘です。どうか幸せに”って。そう言ってたよ」
彼が顔を寄せて来たので、わたしもそっと鼻眼鏡を外してあげる。
『愛する人を見つけられる魔法の道具よ』
ママの言葉を思い出し、大好きな彼の柔らかな感触をくちびるに感じるのでした。
~メガデレラ!!~
タイトルの意味がやっとでました~♪