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SS:みさきと将来の夢

 ある日の朝、俺は何者かの視線を感じて目を覚ました。

 何者って、みさき以外に居ないけどな。


「……いくか」

「……ん」


 軽く背伸びをして、俺達は昨晩のうちに用意しておいた荷物を持って部屋を出た。

 時刻はまだ6時前、早朝と呼べる時間だ。


 肌寒い空気に身を小さくしながら、俺達は静かな道を歩いた。


 みさきの朝は早い。眠りが浅いのか、いつも俺より早く起きている。早起きしたみさきは何をするでもなく俺の寝顔を見ているそうだが……そんなに面白い寝顔をしているのだろうか? 少しだけ不安だ。


 俺達の目的地は近所の公園だ。あのボロアパート、電気はもちろん水道も通っていないから、顔を洗うだけでも外に出る必要がある。


 非常に面倒だし寒くて嫌なのだが、みさきの美容を考えると欠かすことは出来ない。

 だってこいつ、将来は絶対美人になる。

 だから俺には、みさきのお肌を守る義務がある……あるのだ。


「……つめたい」


 蛇口を軽く捻って、チョロチョロと水を出した。みさきはそれを可愛らしい両手にためて、これまた可愛らしく顔を洗う。


 やべぇな、これCMとかに使えるんじゃねぇの?

 オファーとか来たらどうする!?

 

 子役、子役か……いやでもあの業界悪い噂しか聞かねぇしな。水へ溶けて流れて何処へも行けないって話だ。グロリアスデイズなんて無いんだよ。グロテスクなアフターデイズだけが待っているんだよ。そんな危ないとこにみさきを行かせるワケにはいかねぇ!


「……ん?」


 なに? と首を傾けるみさき。天使だ、天使としか形容できねぇ。


「いや、なんでもない」


 俺は気持ちを静める為、水道から出る残酷なくらい冷たい水に頭を突っ込んだ。

 

「くぅぅぅ、つめてぇ」


 あまりに冷たくて、思わず笑いが零れた。

 ハッとしてみさきの方を見ると、俺と同じように水に突っ込む準備を済ませていた。


「待て、はやまるな!」

 

 果たして、俺達は二人して水浸しになった。


「たく、風邪ひいたらどうするんだよ」


 くちゅん、と可愛らしいクシャミをするみさきの頭を用意したタオルで拭く。


「……」


 しょんぼりと口を一の字にするみさき。


 ……こうして見るとやはり天使だな。

 将来は間違いなく美人になる……将来、将来か。


「みさきは将来の夢とかあるのか?」

「……ゆめ?」

「ああ、お花屋さんとか、ケーキ屋さんとか?」

「……ん?」


 ピンと来ない様子のみさき。


「まぁ、まだ早いよな。でも、何か目的があるってのはいいもんだぞ」


 なんて、俺がみさきに教えてもらったことなんだけどな。


 さておき将来か……みさきは将来、何になるんだろうな。

 なんて、考えても仕方ないか。

 俺に出来るのは、みさきが何か目標を見つけた時に手を貸すくらいだ。

 逆に選択肢を奪うようなことにならねぇよう、今よりもっとマシな人間にならないとな。


「……ん?」


 何を考えてるの? そんな風に首を傾けるみさき。


「なんでもない。さっさと歯を磨いて帰るぞ、このままじゃ本当に風邪ひいちまう」

「……ん」



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