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人生ゲームを作った日(2)

 壁どんどん☆ぱふぱふっ~

 ん? ぱふぱふしてるから壁どんどん?

 やだもぅ(/ω\)

 

 そんな感じで計算機作りだよ!

 』


 やっぱり破ろう。この本は破り捨てよう。

 こりゃもう有害図書だ。みさきには見せらん……やべっ、迎えに行く時間だ!


 俺は本とパソコンを閉じて、全力で走り出した。


 ……まだ間に合う、行ける!


 いつかと同じように裏道なんかも使いながら、ひたすら走った。

 その途中、何度か読み直した内容を頭の中で復習する。


 タイトルは、たくさんの箱の使い方。


 int a[8];


 とすることで、aという名前の箱を8個作れる。

 ただし番号は0から始まって、具体例を挙げればこんな感じだ。


 a[0] = 1+1;

 a[1] = 1+2;

 a[7] = 1+3;


 a[8]には終わりですよっていうコンピューター語が入ってるらしい。

 問題は、これをどう使うのかってことだ。


 教材では、9×9くくを突っ込む例が示されていた。


 int kuku[9][9];


 として


 kuku[0][0~8]


 ここに1の段、


 kuku[1][0~8]


 ここに2の段、という感じに数字を入れていた。

 なにやら[](これを2つ重ねる箱を二次元配列と呼ぶらしく、急にアニメの話が始まったが、割愛しておこう。

 

 この時、kukuという箱は81個ある。ここに1個ずつ数字を入れるのは非常に面倒で、それを省略する方法が紹介されていた。


 for(int i=0;i<9;i++){

  for(int j=0;j<9;j++){

   kuku[i][j] = (i+1)*(j+1);

  }

 }


 フォーとかいうので、繰り返し処理が出来るらしい。

 詳しい使い方は上の5行を死ぬほど凝視して推察してくれとのことだ。


 俺の天才的な頭脳によると、


 1回目のループは kuku[0][0] = (0+1)*(0+1) = 1;

 2回目のループは kuku[0][1] = (0+1)*(1+1) = 2;

 10回目のループは kuku[1][0] = (1+1)*(0+1) = 2;

 11回目のループは kuku[1][1] = (1+1)*(1+1) = 4;


 という感じになる。つまり、iの段に9個数字を突っ込むという処理を9回繰り返すことで、1~9の段の数字を箱に突っ込んでいるのだ。


 なるほど、これなら9×9くくが9じゃなくて1000の段まで有っても、フォーって所にある数字を変えるだけで済む。


 for(int i=0 ; i < 1000 ; i++)


 こんな感じだ。

 ……考えたヤツ頭いいな。


「――あっぶね、わりぃ!」

「いえ、此方こそ……」


 路地を出る直前、人にぶつかりかけた。


 やべぇやべぇ、これが車だったら大惨事だ……って、あれ、こいつ前に会ったような。


「あ――っ! あなた! この前の不良!」


 あぁ、あの時の変な女……今日はドレスなんか着てやがるな。これからパーティにでも行くのか? なら車で行けよ、なんで徒歩なんだよ。


 とりあえず、逃げよう。


「待ちなさい! 今度は逃がしません!」

「やめとけ、またヒール壊れるぞ」

「あ、そうでした」


 お、納得しやがった……って脱いで追っかけて来るのかよ!?


「私は裸足の方が速いタイプなんです! 覚悟なさい!」

「今度は靴下が破れるぞキチガイ!」

「誰がキチっ――あぁそうだった! この靴下一足8000円もするのに!」


 靴下に8000円だと!?

 どんだけ金持ちなんだあいつ!


 いや気にしてる場合じゃねぇ、今のうちに逃げろ!




 はぁ、はぁ……疲れた。

 あいつ、最近この辺りに不審者が出ますって感じに指名手配した方がいいんじゃねぇの?


「あら天童さん、お疲れ様です」


 と、すっかり顔見知りになった若い保育士さん。

 ほんとだよ、ほんとに疲れたよ。


「こちらこそ……みさきは?」

「ええと、まだゆいちゃんと遊んでるみたいで……ゆいちゃん、お迎えが来るの遅い時間ですから」


 ゆいちゃんって、このまえ言ってた友達か。


「なら、待ちます。一段落したら、声をかけてやってください」

「はい、分かりました」


 ……あの、分かったならもう門の前に居なくていいんじゃないっすか?


「えっと、何か用っすか?」

「いえ、お父さんが迎えに来るのは珍しいので……育児、手を貸していらっしゃるんですね」


 手を貸すっつうか、一人親なんだが……。


「まぁ、そんな大したことじゃないっすよ」

「そんなことありませんよ。父親が手伝ってくれないって愚痴、よく聞きますから」

「……ははは、そっすか」

「ええ、そうなんですよ」


 ……なんだこれ、こっちからも何か言った方がいいのか?


「みさきは、どんな感じっすか?」

「とっても良い子ですよぉ~」


 だろうな。


「大人しくて、利口で……きちんと教育していらっしゃるのが伝わってきます」

「いや、そんな、俺なんて」


 みさきの場合、一人で育ってるというか……。


「それから、なんと言ってもゆいちゃんですね」

「……はぁ」

「あの子、同年代の子とは話が合わなかったみたいで、孤立気味だったんです。でも嫌われているわけでも、嫌っているわけでも無かったので……みさきちゃんを通じて、最近はいい感じなんです」

「ああ、そういう」

「ゆいちゃんのお母さんも、娘がみさきちゃんの話ばかりしてと……あっ、そうでしたそうでした。ゆいちゃんのお母さんから、よろしく言っておくように言われていたのでした」


 ……なんか、ちょっとアレな保育士さんだな。ガキばっか相手にしてるからか? 人のこと言えねぇけど。


「みさきちゃんにも、それとなく伝えてあげてください」

「はい、そういうことなら」


 話が出来て良かった……のか?


 こんな感じで立ち話を続けていたら、ひょっこりみさきが現れた。

 結局仕事しなかったぞ、この保育士。


「では、また」

「はい、また明日。みさきちゃんも、また明日」

「……ん」


 みさきは可愛らしく保育士さんに手を振り返して……って、なんか違うとこ見てねぇか?

 あれは……あぁ、あれがゆいちゃんか。


 ……これからも、みさきと仲良くしてやってくれよ。


「行くか」

「……ん」


 心の中で挨拶をしてから、振り返った。

 少し歩いたところで、みさきに声をかける。


「今日も楽しかったか?」

「……ん」


 問いかけると、嬉しそうに頷いた。

 やっぱり保育園に通わせて良かったと思いつつ……さて、帰った後みさきが寝たら勉強だ。

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