第1話 始まり
遂に本編スタートでーす。
まさかの10000時突破ですが、低クオリティ。
しかも急いだ感がありすぎた……
とにかく、宜しくお願いします
こことはまた違う別の地球―――アテラス。
そこでは、異獣と呼ばれる別世界からやってきた生物と人が共存している平和な世界…………だった。
今や世界を大きく構成する3国である聖獣国・機械国・精霊国は敵対し、乱世となっていた。
これは、その世界に生きる1人の少年から始まる物語。
聖獣国。
そこは、異獣の中で動物を模した聖獣と呼ばれる種類と人が暮らしている東に位置する国。特筆して上げる程何かが優れている、というわけではないがそれなりに平和で、特に何かに困る訳でもなく人々も暮らしている。
その国の最北端にある町の一軒家の屋根に寝ている、というより突っ伏してピクリとも動かない少年がいた。
あまりにも動かないためか、先程から行き交う人々は少年を見ては息を呑む者も見れば、大げさにも死んでいると思って逃げ出す者までいた。
平日にも関わらず学校のブレザータイプの制服を着た少年が屋根の上で倒れているのだから、慌てるのも無理はない。先程から何度も呼びかけているが、少年はそんな人々の声が聞こえても全く動かなかった。中々動かないため次第に人だかりができ、ざわつき始めた。
すると、そんな騒ぎなどお構いなしに屈託の無い笑顔でボールを持って問題の家から金髪の8歳くらいの男の子が飛び出してきた。
「あれ!? どうしたの?」
男の子は人集りに驚きながらも近くのおじさんに尋ねた。おじさんは屋根で倒れている少年を指さしながら答えた。
「いや、君のお家の屋根に人が倒れて動かないんだ! もしかしたら死んじまってるかもしれない!」
パニックになっているおじさんをよそに男の子はおじさんの指先にいる少年を見ると、溜息を吐いた。そして口元に手を持っていきメガホンのようにすると大きく叫んだ。
「カイト兄ちゃーん! いつまでも日向ぼっこしてないで遊ぼうよ!」
『カイト』という名を聞いた瞬間ざわついていた人の動きがピタリと止まった。どうやら聞き覚えがあるらしい。そして怒りに震えだすと一斉に怒鳴り付けた。
『『『『『またお前かぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』』』』』
少年は五月蝿そうに耳を塞ぎながらもゆっくりと起き上がると、欠伸をしながら振り返った。見渡す先には怒りに震える町の人々。
『お前またやったのかよ…』
「そうみたい」
『毎回毎回何でこうなるんだ? お前日向ぼっこしてただけだろ? 何が悪いんだよ』
「わかんないよそんな事」
カイトは腕輪に向かって話しかけていた。一見不自然な行動だが、この世界では当たり前な行動だった。
異獣と人が契約すると、契約者の私物の何かに封印されるのだ。封印された異獣はある言葉を契約者が言うまでは外に出る事は不可能だ。しかし、会話程度なら封印されたままでも出来るため、このように封印した物に向かって話しかけるのはこの世界ではありふれた事なのである。
カイトの契約した聖獣―――イグニスの場合はカイトがいつも身につけている赤い宝玉の埋め込まれた腕輪に封印されている。
会話を終えると、とりあえず屋根から飛び降りる。見事な着地だったが当然皆の表情は変わらない。
「ねぇ、レンタ。これどういう事?」
「兄ちゃんが死んだように倒れてるから皆心配して集まってたんだよ。ほら、謝って」
レンタと呼ばれた男の子に背中を押され前につんのめった。どうにか転ばず踏み留まると頭を下げた。
「……ごめんなさい」
しばらく沈黙すると全員溜息を吐きながらその場から離れていった。皆の顔からは疲れや苛立ちが窺えた。その理由は単純にカイトによるこんな事が何度もあったからだ。
ある時は木の枝に引っ掛かったまま動かないカイトを見て慌てていたら、一番上で寝てたら落っこちたみたいです、と言ったり。
またある時は頭から血を流して倒れているカイトを見て医者を呼ぼうとすれば、あそのこ鳥の巣に落ちていた雛を戻したら次は俺が落ちました、と言って怪我など全く気にせず立ち去ったり。
別にわざとではないのに、何かずれた行動のせいで町の人は何度も振り回されているのだ。
そんな事等あって今では町でカイトを知らない者はいない。
「で、キャッチボールしようよ!」
「う~ん、めんどい」
レンタが元気良く誘うが、カイトはあっさり断った。彼は基本無気力なので、興味の湧いたもの以外は大体こんな感じである。
こんなカイトに対し、レンタは諦めずに強行手段に出た。
「やる気なんてやってる内に出るから遊ぼうよ!」
「えー…」
『キャッチボールぐらいいいじゃねぇか。寝てたんだから体動かそうぜ!』
「わかった。じゃあやろう」
イグニスの言葉もあって、とりあえず遊ぶ気になったカイトの手を引っ張ってレンタは広場へ向かっていった。
「日向ぼっこって普通うつ伏せでするものじゃないと思うんだけど…」
「そうなの? 別に大丈夫だと思ったのに」
広場についたカイトとレンタは先程の事を話しながらキャッチボールをしていた。カイト本人もただ日向ぼっこしていただけでこんな騒動になるとは思っていなかったようだ。というか日向ぼっこから騒動に発展するほうが珍しい。
今までだって、どうやったら騒動に繋がるのかわからないような事ばかりで迷惑をかけている。不幸なのか何なのか全くわからない。
「そういや、お兄ちゃんが家に来てからどのくらいだっけ?」
「う~ん、もう1ヶ月ぐらいじゃないかな?」
レンタの言うようにカイトは家族ではない。
彼には家族がいない、というか存在を知らない。物心ついた時には両親はいなかった。だからと言って死んだという事は一度も聞いた事が無い。
親戚と呼べる人もいなかったので、様々な家を転々としながら過ごしていた。無気力だったり、騒動を引き起こすことで1日で追い出されることもあれば、そんな事を気にせず3ヶ月以上いさせてくれるとこもあった。
そうして現在はレンタの家に居候しているのだ。ちなみにこれも町の人が全員カイトを知ってる理由でもあったりする。
「あ、そういえばいつイグニスを見せてくれるの?」
「あぁ、レンタの家を出る時かな」
「え~、ケチ~」
カイトはどういう訳かイグニスを呼び出すことを渋っていた。理由は過去に呼び出した瞬間、家の人の様子がおかしくなり急に敬語で喋りだしたり、自分に対する行動がまるで目上の人を敬うようなものになった。敬われるのは人間なら誰しも悪い気はしないが、彼はそれがどうにも気に入らなかった。
もしかしたら呼び出したら、皆そうなるのでは、と考えたため呼び出すのは拒否しているのだ。
『んだよ。まだあの突然皆が自分を敬う様を気にしてんのか? 俺は嬉しいがな』
「僕にとっては嫌な事でしかないよ」
会話をしながらキャッチボールをひたすら続けていると、正午を告げる鐘が鳴り響いた。
「んじゃお家に戻ろ!」
「うん、わかった」
ご飯を求め元気良く走るレンタの後をカイトはゆっくり歩いて追っていった。
カイトとレンタ、そしてレンタの母親である茶髪のロングヘアーに常に笑顔のマナはそろって昼食を食べていた。カイトはパンをほおばりながらテーブルの隅に置いてあった新聞を手に取った。それを見たマナは微笑んだ。
「あらあら、食べながら新聞読むなんてどこのお父さんなの?」
「いや、ただ朝から日向ぼっこしてたので見忘れちゃって……」
カイトの言葉はある記事によって止まった。その記事は機械国と精霊国の戦争についてだった。
「何かまた戦争するみたいだね……」
「うん……」
カイトはこの戦争について疑問に思っていた。以前昔の様子について興味を持ったのでかなり年配の老人に聞いたところ、子どもの頃は3国は共存し合いとても平和だったらしい。それが突然敵対関係となり、戦争を始め、乱世となった。
今のとここの国は平和だが、戦争を始めると被害はやはり出てしまう。そのため、今いる町の所々に前回精霊国との戦争によって刻まれた爪痕が残っていた。
「イグニス、また戦争だってさ…」
『やっぱおかしくねぇか? 元々仲良かったってのによ』
イグニスもやはり疑問に思っていたようだ。2人は何度もこの事について考えてきたが、答えは出なかった。考えるたびに頭がパンクしそうになるだけで何も無かった。
ちょっと暗い雰囲気になってしまい、沈黙してしまう。
「戦争だったり、最近人攫いも起こってるみたいだし本当不安な世の中よね……」
マナが頬に手を当てながら呟いた。カイトが新聞を見ていくと人攫いについての記事があった。既に主犯の顔はわかっているので後は捕まえるだけのようだ。
近頃、カイトがいる町では女性を対象とした人攫いが起こっていた。噂によると裏で人身売買されてしまうらしい。
『ったく、人攫って何するつもりなんだよ!』
「うん。そんな事しても何も得しないのに……」
こういうのは聞くだけで心がむしゃくしゃした。今までたくさんの人と触れ合ってきた分、人を物のように見るような事は許せなかった。今まで怒りという感情を出した事は無いが恐らくそんな人間を見れば怒りを露わにするかもしれなかった。
結局その後会話も無く重い雰囲気のまま昼食は終わった。
深夜、レンタの家に何者かが忍び寄っていた。
その男は音を立てぬように忍び足で行動していた。幸いにも月明かりが照らしていたため家具にぶつかることなく進む事が出来た。
やがて、男はすやすやと寝息を立てているマナの元にたどり着くと、手を伸ばし……
次の日の朝、カイトはレンタの泣きじゃくる音で目を覚ました。目覚めとしてはかなり悪いが、レンタの声からしてかなりの大事らしい。
まだ眠い目をこすりながらもレンタの元へ向かった。
「朝からどうしたの……」
尋ねた瞬間、カイトを見たレンタは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で飛びついて来た。受け止めたものの転倒してしまった。
「だからどうしたの?」
「うぅ……、おがあざんが攫われちゃった……」
「なッ…!」
血相を変えて家の中を見渡すが、いつもこの時間帯なら台所で朝食の準備をしているはずのマナはいなかった。それどころか気配のようなものも全く無かった。
遂に身近な人が被害に遭ったことに絶句してしまった。
『おいおいマジかよ!? カイト! 探しに行くぜ!』
「うん!」
こんな事まで面倒なんて言えるわけがない。普段のやる気のなさそうな声とは逆の活気のある声で頷いた。
「レンタ、君の聖獣なら探せるはずだよ」
「そっか、犬だもんね!」
レンタは涙と鼻水を拭うと部屋から、前日に遊んだ物とは違うボールを持ってくると封印から解き放つ言葉を言った。
「異獣解放!」
するとボールから光が放たれ、何かが飛びだした。
それは犬を模したレンタが契約した小動物系の聖獣、ワンケンだった。
見た目は普通の犬とあまり変わりないが、嗅覚と走力はずば抜けて高いのが違いだ。
「どったのご主人?」
「お母さんが攫われちゃったんだ! 探すのを手伝って!」
「えぇえええええええええ!!!!! マナさんがぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
事情を伝えたら頼りない事にブレイクダンスの如く転がりまくり超パニックになってしまった。この様子にカイトとレンタは同時に思った。
((だ、ダメじゃんコイツ……))
その後どうにか落ち着けると、ワンケンを連れてマナの部屋へ向かった。
よくある匂いを辿っていくという方法で探すのである。
「はい、お母さんの匂いを覚えて」
レンタがマナの布団を持ってワンケンの鼻まで近づけた。数回匂いを嗅ぐと、地面の匂いを辿って行った。そして玄関を出ると左へ駆けだした。
「こっちですご主人!」
カイトとレンタは後を追おうと駆けだした。が……
「速すぎ……」
「ま、待ってよ! そんな速いと僕らが見失っちゃうよ!」
走り始めて5秒も経たない内に50m以上もの差が出来てしまっていた。
ワンケンにスピードを落としてもらい|(それでもかなり速い)、後を追っていくと意外な事に港に辿り着いた。更に走り出し、今では使われていない一番奥まで向かっていった。
「はぁ…はぁ…、こんなに長く走ったの久々…」
『お前体力無さすぎだろ…』
1人だけバテているカイトにイグニスが呆れていると、ワンケンは不自然に置かれているコンテナへ向かって走り出した。
「この中からマナさんの匂いがします!」
「お母さん!」
レンタが嬉しそうに駆けだすと、数人の男が現れた。一番先頭にはいかにもリーダー格の巨体の男がいた。
「おい、小僧。何やってんだ!」
男の怒声にレンタは一瞬怯えたが、すぐに戻り男へ叫んだ。
「この中にお母さんが入ってるんだ! お前ら人攫いがやったんだな!」
「はぁ? んな訳ねぇだろ。大体何で俺達が人攫いなんだよ」
男達は笑って否定したが、そこにカイトが一枚の紙を取り出しながら近づいた。
「待ってよ。流石に犬の聖獣の嗅覚を出し抜くのは無理でしょ。何よりこれ……アンタだよね」
カイトは取りだした紙、新聞の切り抜きの写真を指した。その切り抜きの内容は人攫いについてのもので、今目の前にいるリーダー格の男の写真が貼られていた。
その記事を見た男は狼狽した。
「くっ…! 気づいた以上仕方がねぇ。おい、お前ら!」
男が叫ぶと元々いた男達に加え、何処からともなく部下が現れた。そして各々の聖獣を封印した物を取り出し叫んだ。
『『『異獣解放!』』』
すると男達の前に緑色の猪を模した棍棒を持った聖獣、ボアーブが複数現れた。
複数も同じ個体が現れた事に疑問を持ったカイトはイグニスに聞いた。
「ねぇ、ああいうのってありなの?」
『そりゃ群れで行動する奴もいるしな。あのボアーブはそのタイプだ』
部下の男達も似たような棍棒を構えている。既に取り囲まれているため逃げ場はない。この状況にレンタとワンケンは怯えていた。
「ど、どうしましょうご主人……」
「僕に聞かれても……。カイト兄ちゃん……」
見上げるとカイトは全く動揺していなかった。というか今この状況そのものを気にしていない様子だった。
カイトは新聞の切り抜きでリーダー格の男の名前を確認すると尋ねた。
「えっと…ガンザロフ。アンタ等は何のために人を攫うの?」
その質問にガンザロフは不気味に笑いながら答えた。
「んなの決まってんだろ! 裏に売って金にするんだよ! 結構いいが…「もういいよ」…あ?」
カイトは言葉を遮ると、レンタに話しかけた。
「イグニス見たいんだよね。今見せてあげるから少し下がって」
「え……、うん」
レンタは言われた通り数歩下がった。そのせいで部下たちとの距離が狭まったが目線はカイトの方を向いていた。
カイトは逆に数歩ガンザロフの方へ歩み寄ると、左腕にある腕輪へ右手を鞘から剣を抜く時のようにもっていった。そして静かに、だが確かに怒気を含んだ声で言った。
「金にするために攫う? ふざけるな。異獣解放!」
剣を抜くように右腕を動かした瞬間、凄まじい炎が腕輪から噴き出し、カイトを包み込んだ。あまりの炎にその場にいた全員が顔を覆った。
ようやく炎が晴れた時、全員絶句した。
そこにいたのは何故か髪が赤く染まり、刀身に赤いラインの引かれた金色の柄の剣を持ったカイト。そして、巨大な翼、鋭い爪、長い尻尾、3mはある深紅の龍。それこそがカイトの契約した聖獣、イグニスだった。
それを見た部下、更にはガンザロフも震えあがった。
「て、テメェ……まさか、王族の奴らか…?」
その言葉にカイトは溜息を吐くと首を横に振った。
「お前もそう言うのかよ。違ぇよ、俺は何の変哲もない一般人だ」
「え? 『俺』……?」
レンタはカイトの一人称に耳を疑った。普段は『僕』なのにイグニスを呼んでから『俺』へと変わっていた。異獣解放して性格や口調が変わるなど聞いた事が無かった。
「嘘だ! お前の聖獣は紛れもなく幻獣系じゃねぇか!」
部下が叫んだようにイグニスは見ての通り龍、幻獣だ。そもそも幻獣系の聖獣は王族の者や王宮で身分の高い役職の者が契約するはずなのである。そのため、王宮には不死鳥や麒麟の聖獣と契約した者がいる。
聖獣にはワンケンのような小型、ボアーブのような大型、そしてイグニスのような幻獣系の3種類が存在する。幻獣系ともなると「基本的に街1つを1時間で壊滅させられる」と言われる程である。
その幻獣系であるイグニスを、目の前にいるカイトは一般人にも関わらず契約していた。
「あぁ、だから今まで俺の姿を見せたらちやほやされたのか」
「そんな事初めて知った」
カイトとイグニスは過去に敬われた理由がわかって納得してうんうん、と首を縦に振っていた。その時、
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「ブォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
部下の1人がボアーブと共に後ろから襲いかかった。完全に隙だらけであり、絶好の機会だったが、
「うぉらあ!」
「燃えろ」
ボアーブはイグニスの裏拳で、部下はカイトの炎の斬撃で吹き飛ばされてしまった。ボアーブへ勢い良く海中へ落下していき、部下に至ってはカイトの言った通り発火しながら落ちていった。
その後イグニスはレンタとワンケンをコンテナへ乗せ、コンテナを持ち上げて飛行し、避難させた。
「ありがとう、イグニス!」
「あぁ、後でコンテナ開けてお前の母ちゃん助けてやるから待ってろよ!」
カイト笑みを浮かべて振り返りながら剣先をガンザロフへ向けた。
「ハッ、不意打ちとは良い度胸じゃねぇか。次はこっちからいかせてもらうぜ!」
「クソが! お前らいってこい!」
ガンザロフの命令で部下全員はボアーブと共にカイトに襲いかかった。その瞬間数体のボアーブは飛翔したイグニスによって撥ね飛ばされた。
「人間相手に聖獣複数なんて卑怯じゃねぇか。俺も交ぜろよ」
「「ブォオオ!!!」」
2体のボアーブは左右から棍棒を振りかざすが、あっさり受け止められ、握りつぶされてしまった。そして、そのまま上空へ飛翔すると、パイルドライバーのように遥か上空から急降下し地面へ掴んでいたボアーブを叩きつけた。元々ボアーブ事態の重量が重いのもあり、叩きつけられた個所にはクレーターが出来ていた。
「こんなもんじゃねぇだろ! かかってこいよ! グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
イグニスが咆哮すると空気が震えた。同時に複数のボアーブが前方から飛びかかってきた。
だが、イグニスは笑みを浮かべると、翼をはためかせた事で生じた突風で全てのボアーブを吹き飛ばした。
その吹き飛んだボアーブを飛行で追うと、飛び蹴りをくらわせた。くらったボアーブは叫ぶ事も出来ないまま数十メートルも先へ吹き飛んだ。着地したイグニスは回転し、巨大な尻尾で辺りを薙ぎ払った。周囲のボアーブは跳ね飛ばされ、振った衝撃で尻尾をくらっていないボアーブも怯んだ。
怯んだボアーブへ近づいていき1っ体目と同じように裏拳で殴り飛ばし、別の個体をその鋭い爪で引き裂いた。
一方のカイトもイグニスと似たような状況だった。
後ろから棍棒が振り下ろされるが見向きもせずにそれを炎を纏った剣で受け止め、弾きながら振りかえりさまに切り裂くと、斬られた箇所が発火した。すると、斬った相手の後ろにいた部下が棍棒を叩きつけるが、カイトはその振った腕を掴み棍棒を止めると、縦一閃した。
更に後ろから部下が横薙ぎに棍棒を振るうが、屈む事で躱し、逆に腹部を切り裂いた。
目の前にいた部下が棍棒を勢い良く叩きつけるが、ジャンプして避け、その顎を思い切り蹴り飛ばした。
4人があっという間にやられた事で残りの部下はすくみあがったがカイトは容赦せずに向かって言った。
「何だよ複数で来ても俺に敵わねぇのか! もっとかかってこいよ!」
カイトは飛び蹴りで部下の1人の顔面を蹴り飛ばし、着地する前に体を捻って左を向き、ちょうど襲いかかってきた部下を切り裂いた。着地するとそこを残った部下全員が後ろから棍棒を振り下ろすが、前へジャンプして回避すると体を捻り前を向いて、カイトはゆっくり剣を構えた。
イグニスは一ヶ所に纏めてボアーブを吹き飛ばした。
「んじゃこれで決めるぜ」
イグニスは口を大きくあけると、喉から炎が湧きあがり、それを放射状にして纏まったボアーブ目掛けて放った。
『『『ブォオオオオオオオオオオオオ!!!!!』』』
ボアーブは火炎放射に成す術もなくくらい、その身を焼かれていった。更に業火はコンクリートの地面にまで燃え移り、一瞬で火の海へと変えた。
「うっし、焼き豚完成だぜ!」
豚では無く猪だが、今更どうでもよかった。
カイトは構えた剣を薙ぎ払うように振るった。
「龍尾鞭薙!」
すると炎が鞭のようになり、向かってきた部下達を龍の尻尾のような炎の鞭で一気に吹き飛ばした。
あれだけの人数だったが、相手が悪すぎた。聖獣が幻獣系ともあってその実力は圧倒的だった。
「んじゃ、後はお前だけだな」
「何だよ、もう1人しかいねぇのか」
ガンザロフは周囲を見渡した。自分の部下達は1人と1体によって数分で全滅してしまった。遂に自分1人となってしまった。
「調子に乗ってんじゃねぇよ! 異獣解放!」
激昂すると、ガンザロフの指輪から、重厚な鎧を纏った鋭い角をもったサイの聖獣、ライゼロスが現れた。それと共にガンザロフの手に巨大な両斧が現れた。
カイトは好戦的な性格になっているためか、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「やっとマシなのが出てきたな。いくぜイグニス!」
「ああ、上等ォ!」
2人と2体は同時に走り出しぶつかり合った。
ライゼロスは勢い良くイグニスに突進してきた。イグニスは角を掴んで受け止めるも、若干押されてしまった。だが、イグニスもパワーでは負けていない。
「ほぉ、さっきの豚よりパワーあんじゃねぇか! でも効かねぇな!」
イグニスは角を掴んだまま回転し始める。次第に遠心力によってライゼロスの巨体が持ち上がった。更に回転速度を上げていき、思い切り投げ飛ばした。地面に叩きつけられると、轟音が鳴り響いた。だが、ライゼロスは装甲によって大してダメージを受けてはいなかった。
何事も無かったように起き上がると、角の先端を向ける。そしてその角を何とミサイルのように発射してきた。
「げ!? お前そういうの機械の領分だろうが!」
驚きながらもその角ミサイルを、翼で体を包むことで防御した。翼の防御を解除すると、ライゼロスは再び生えてきた角をミサイルのように連続発射した。
イグニスは、飛翔することで最初の一撃を回避した。上空から火炎放射で反撃しようとするが、先にライゼロスが角ミサイルを放ってきた。
「チッ!」
舌打ちしながらも、高速飛行で連続で襲いかかるミサイルを回避する。ライゼロスは一切手を緩めず、ミサイルを放ち続ける。弾数が増えたことで次第に回避し辛くなっていき、遂に2発がイグニスの胴体に炸裂した。
「がぁあああああああああ!!!!!」
体勢が崩れ落下していくイグニス目掛けてライゼロスは角ミサイルを放った。
「あぁクソ! 勝負してやるよ!」
イグニスは体勢を立て直すと、何とミサイルへ向かって突っ込んでいった。しかもイグニスは一切回避をせずに腕をクロスすることで防御しながらミサイルに激突した。それでも、全く気にせずに突っ込む事を止めなかった。ミサイルは全段命中していき、次第に爆炎は濃くなっていった。だが、確実にライゼロスとの距離は狭まってきていた。
「正面突破だぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
爆炎を切り裂き、ライゼロスの角を思い切り右拳で殴り付けた。発射直後だったため、爆炎はライゼロスの顔面を巻き込み、爆炎をものともしないイグニスの拳が顔面を捉えた。あまりの威力に顔の装甲は砕け散り、地面には小さなクレーターが出来た。
ガンザロフは思い切りカイトの脳天目掛けて両斧を振り下ろした。カイトは後ろへ跳ぶ事でそれを躱すが、斧の刃がコンクリートの地面へめり込んでいるのを見てやや身震いした。
着地したと同時に、ガンザロフは両斧をブーメランのように投げた。それを斬り上げることで弾くが、パワーが高かったためよろけてしまった。
「さっきまでの威勢はどうした小僧!」
ガンザロフはジャンプして弾かれた両斧を掴み、再びカイトへ振り下ろした。カイトはそれを転がるようにして回避し、剣を構えた。するとさっきと同様に炎が刀身を包み込んだ。
「テメェがビビると思ってやめてやったんだよ! 龍爪炎斬!」
カイトが剣を振るうと炎の斬撃刃が放たれた。それに対抗してガンザロフは両斧を地面に叩きつけ、衝撃波を放った。2人の技はぶつかり合うと爆発を起こした。 2人はその爆炎に同時に突っ込むと互いの武器をぶつけ合い、激しい斬り合いへと突入した。
ガンザロフはとても常人では持ち上げる事も出来ないような両斧をいとも簡単に片手で振り回していく。だが、カイトはその一撃を小さい動きで躱し、受け止める。反撃とばかりにカイトは連続で斬撃を放っていくが、こちらも受け止められてしまう。しかも、パワーで負けているため弾かれてしまう。
「やっぱパワーじゃ勝てないみてぇだな!」
「ああ。でもパワーが全てじゃないだろ!」
カイトは振り下ろされた斧を回転する事で受け流した。更に地面にめり込んだ斧の持ち手を踏みつけ、剣先をガンザロフの腹部へ向ける。剣先には炎が集約されていた。
「な!?」
「龍咆炎射!」
カイトが叫ぶと零距離で火炎放射が放たれた。この技はカイトの技の中では威力の低い部類だが、この距離で放ってしまえば威力の低さは関係が無い。
「ぐぁあああああああああああああああああああ!!!!!」
ガンザロフは思い切り吹き飛ばされた。両斧はカイトが踏みつけて固定したため手放してしまっていた。
「ん? そろそろ終いみてぇだな」
殴りつけてからはイグニスは逆転し、その圧倒的強さでライゼロスを追い詰めていった。おかげでライゼロスの装甲はボロボロになっていた。
イグニスは、角を掴み最初のようにジャイアントスイングでライゼロスをガンザロフの元へ投げ飛ばした。投げ飛ばすとイグニスはガンザロフの両斧を踏みつぶしながらカイトの元へ降り立った。
「た、頼む……。許してくれ…………」
武器を失い、聖獣も戦闘不能に陥ったため勝ち目を無くしたガンザロフは後ずさった。カイトはゆっくりと剣を構えた。
「何言ってんだよ。人攫って、レンタを悲しませて、許すわけねぇだろ!」
言葉に共鳴するかのように、剣に纏った炎は大きくなった。そしてトドメの一撃を放つべく剣を振りあげた。
「龍爪炎斬!」
剣を振り下ろすと、さっきのものより巨大な斬撃刃が放たれた。地面を抉りながら斬撃刃はガンザロフへ迫っていく。
「あ……あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
そして斬撃刃とガンザロフの距離が0となり、ガンザロフは炎に呑みこまれた。それを見届けたカイトは剣に纏った炎を振るうことで消し、肩に担いだ。
「ま、殺す気はねぇから火加減しといてやったぜ」
「頭冷やして反省しやがれ!」
するとカイトは、何故かまずそうな顔をした。
「なぁ、頭冷やして反省ってことは、炎の攻撃って反省しないんじゃね……?」
「…………あ」
凄まじい勘違いをしながら1人と1体は頭を抱えて悩んだ。傍から見ればバカな光景だが、彼等にとってはかなりまずいことしたという罪悪感しか無かった。
「やべぇよレンタ! アイツ等何も反省してねぇかもしんねぇ!」
「いや、炎が原因で反省しないとかないから! てか何でそんな勘違いしてるの!?」
その後、レンタによって落ち着いたカイトとイグニスはコンテナの側面を無理矢理引きはがした。すると、マナを含めてかなりの人数の女性が出てきた。
マナは目を覚ますとレンタと泣きながら抱き合って再会を喜んだ。
ガンザロフ達はカイトが通報してやってきた王宮の兵隊が連行されていった。
「協力ありがとうございました」
「あ、兵士さん。1つ聞きたい事があるんですけど……」
「ん?」
カイトは兵士の1人に何かを聞いていた。
次の日、カイトは家を出るため荷物を纏めていた。と言っても荷物は元々そんな無いのだが。
「あら、本当に行っちゃうの?」
「えぇ、かなり長居しちゃいましたし、やる事出来たんで」
「やる事って?」
レンタが聞くと、カイトは答えた。
「ああ、旅に出る事にした」
カイトは昨日兵士に聞いた事からこれを決めていた。聞いた事は『人攫いは戦争が始まる前にあったかどうか』で、答えは過去に人攫いはあったが、戦争が始まる前には無かった、だった。
明らかに時期が被っていた。そもそも、戦争で何かを得なくても普通に暮らしていけるのに、戦争を始めた。
つまり何かあるのではないか、とカイトは踏んだのだった。
「旅ってこの国を?」
「いや、世界を」
その言葉にレンタとマナは驚いた。今の世界状況で単身他国に行けば助かる訳が無いからだ。だが、カイトは大丈夫と言った。
「だって世界は広いんだし、何人かいるでしょ。僕と同じ疑問を持つ人。それに人は優しい人多いから」
それを聞きレンタは笑顔で手を差し出した。
「じゃあ、絶対戻ってきてね!」
「うん、約束するよ」
2人はハイタッチした。そしてカイトは玄関を出て、歩き出した。
「さぁて、行くよ、イグニス」
『ああ! 俺達の旅はこれからだ!』
「……それかっこよくないし、何より僕らの旅がダメになりそう」
『……………………』
イグニスは早々落ち込んでしまったが、こうして旅が、物語は始まった。
イグニスの姿はバトルスピリッツの『竜皇ジークフリード』っぽいです。
次回も宜しくお願いします。