第一王子(Side リーネ)
初投稿です。楽しんでもらえますと幸いです。
「王子ー!」
「ヴェルダニア王国万歳!」
「王子様がいてくださる限り、私たちの生活は安泰だわ!」
口々に届く、この国の王子を讃え、王国への信頼を寄せる声に耳を傾けながら、唇に笑みをのせ片手を上げて答える。市井の者たちは皆幸せそうで何よりだ。
「王子、そろそろ。」
従者に促され、最後に手を一振りしその場を後にする。王宮から城下を見下ろせるこの場所は、王宮の一角にある謁見用のバルコニーだ。
民を背にして執務室へと戻るその顔には何の感情も浮かんでいない。歩くたびにふわふわと揺れる金髪の巻毛が王宮の使用人の目を和ませ、深い青の瞳は見るものに安心感を与える。
執務室へ着くや否や数人の従者が待ち構えている。
「リーネ王子、次は雨降らしの儀がございます。」
「わかっている。今年の降水量とその予測を申せ。」
リーネの見た目に反した硬質な声音に、従者が背を伸ばすのに気づかないふりをしながら、報告を聞き、リーネは白けた気持ちになる。雨が降らなければ農作物が育たず、民が飢えに喘ぐことになる。だからといって、いるかもわからない神に対して、供物を捧げ、祈りを捧げただけで、雨降りが保証されるなどまずあり得ないのだ。
「儀に際して、節制期間は二週間でございます。この期間に俗世のものには触れませぬよう。」
従者の声を聞きながらリーネは一つ瞬きをする。このヴェルダニア王国では、建国より千五百年もの間、年間を通して行われる数々の儀式を一つも欠かさず執り行ってきた。そしてその司祭を代々第一王子が務めるのだ。リーネは第一王子であり、王族の義務としてその役割をこなしてきた。それが生きる、いや生きていられる理由なのだからと教えられてきた。
儀式が形式的なものだとしても誰もその開催意義に異を唱えない。雨を天に請わなくても雨が降る仕組みは解析されているというのに。数ある儀式のためにリーネが何を思ったとしても、それは従者たちには関係がないし、何も知らない民たちは安心が保証されているということで王国に不満を抱かない。
「雨降らしの儀は年に三度もあるのだぞ。毎度毎度、注意事項を述べずともよい。」
リーネの淡々とした声を、機嫌を損ねたと勘違いした従者たちはその他の注意事項を手早く告げると、一礼して執務室を退出していく。
「...。」
なんとなく天井を見上げ空虚な感情を持て余す。それでもリーネ一人が役割をこなし、儀式のために節制を是とし、厳しい教育をそうとは思わずにいれば何も問題がないのである。一人の犠牲と大勢の無事、どちらを優先すべきかなど火を見るより明らかなのだ。




