41 引っかかり
「亡くなった二人は今……どんな状態なんでしょうか?」
俺が恐る恐る尋ねると、職員の二人は顔を見合わせ、一呼吸置いて田中忠が答えた。
「取りあえず室温が設定可能な倉庫室に、敷布団ごと遺体を並べて安置している。もちろん警察に現場の状況を伝えるため、多めに記録写真と映像を取った上での移動だ。昼からは暑くなるだろうから、そのまま放っておくわけにもいかないからな」
倉庫と聞いて、ふと根本遥の事を思い出した。今はどこに潜伏し、何をしているのだろうか。
「それで、もう本土との連絡はついているんですか? 迎えの船は、いつ頃ここに?」
俺が矢継ぎ早に質問すると、秋月令子が口元で手を組んだまま、重々しい口調で口を開いた。
「実は……上陸した当初から無線機は壊れていたんです。嘘をついて申し訳ありません。
皆さんが動揺するのを恐れ、話し合いの結果、本土との連絡が取れている事にしていました。このような大事が起こってしまい、もはや秘密にしておくわけにはいかなくなりました。
こちらから連絡を取る術はないので……迎えの船は、本土にいる職員がこちらの異変に気づき自主的に手配してくれるか、予定通り、明日の正午の到着を待つしかありません」
職員たちの場当たり的な対応と危機管理意識の低さに、今更ながら唖然としたが……こうも連続的に続いた想定外の出来事に、同情するところも無くはない。
「とにかく嵐は去ったようだから、このまま晴れ間が続けば明日の正午には確実に迎えの船がやってくる。君たちは朝飯を食べた後、シャワーでも浴びてサッパリしてくれ。石鹸やタオルは、ロビー奥の更衣室に用意してあるからな」
田中忠は憔悴した顔を隠すように席を立ち、秋月令子と一緒に厨房のカウンターに向かった。作り置きのサンドイッチとペットボトルのミルクティーを運んで、テーブルの上に並べた。
「朝食の後、私たちは今後の予定と懸案事項を協議しなればならないので、職員室に詰めています。
しばらく自由時間としますが、安全面も考えて、外出は不可とします。何かあれば私たちのいる職員室まで来てくださいね」
秋月令子は先程とは打って変わり、厳しい眼差しを向けて言った。
重苦しい雰囲気の中、無言の朝食を終えた職員たちは、俺と瀬野賢児を放ったらかして食堂を出て行った。取り残された俺と瀬野賢児は会話の糸口がつかめず、気まずい空気が漂う。俺は沈黙に耐えかねて、息を吐き出すように言葉を発した。
「瀬野くんは……本当に、一連の事件の犯人が、布引さんだと思っているのかな?」
瀬野賢児は俺の発言に戸惑いつつも、ニヒルな表情を浮かべて答えた。
「フッ、僕は断片的に把握した情報を繋ぎ合わせて、閃いた可能性の一つを語ったまでさ。あえて一連の事件が単独犯によるもの――という縛りをつけてね。
事件の真相がすべて明らかになった時……さしづめ僕が名探偵だったという事になるかも知れないな」
自分に酔いしれている瀬野賢児に水を差す形になるが、構わず俺は会話を続けた。
「だけど田中先生は『きっと真実は別のところにある』と言った。一連の事件に、何か引っかかりがあるんだと思う。それにもかかわらず……なぜかその後すぐに、匙を投げるような発言で言葉を濁した。
俺は、この矛盾した田中先生の発言が腑に落ちないんだけど。瀬野くんはどう思った?」
「?? モチは餅屋(警察)に任せろって事じゃないかな。深い意味は、何も無いと思うけど」
瀬野賢児は要領を得ない顔をして、残りのミルクティーをゴクリと飲み干した。




