28 疑念
秋月令子が重い口を開く。
「田中先生のおっしゃった通り、金田くんの首には紐で締めつけられたような痕がありました。彼の意識が戻れば、誰の仕業なのか分かるかも知れません。犯人はきっとそれを恐れているはずです。内心……戦々恐々としているんじゃないですか?」
参加者たちは押し黙り、お互いの顔を探り合う。田中忠はその様子を抜け目なく監視していた。
「どんな理由があっても、人の命を奪おうとしたことは人の道に外れる所業です。私たちは職員として、そんな危険な人物を野放しにしておけません。
迎えの船が来るまで、皆さんの安全を確保し、出来るだけ不安の芽を摘み取る必要があります」
秋月令子は参加者一人ひとりの顔に視線を合わせ、毅然とした表情で言った。
「チッ、警察でもないあんたたちが、何をどうするっていうの? 言っておくけど、わたしは自分以外まったく信用してないから。
死にかけの金髪男を最初に発見したのはあんたでしょ? 宿舎を隅々まで把握しているあんたなら、他人にバレないように人殺しでも何でも簡単に出来るんじゃない?」
馳久美子が秋月令子を睨みつけ、挑発するように言った。
売られた喧嘩を買うように秋月令子が身を乗り出して反論しようとしたが、隣りにいた田中忠が間に入り、落ち着いた口調で馳久美子を嗜める。
「馳、不安になる気持ちは分かるが、乱暴な意見は慎んだほうがいい。今重要な事は、犯人当てよりも、迎えの船が来るまで皆が無事に過ごせるようにすることだ。
この状況で一人ひとりが好き勝手な行動をすれば、皆の目の届かない所で第二の犠牲者が出る恐れもある。とにかく――金田を殺そうとした犯人に罪を重ねさせないためにも、できるだけ個人的な行動を控えて一緒の部屋にいる方がいい。皆の監視の目があれば、息を潜めている犯人も迂闊な事は出来ないはずだ」
「……お腹が空いた」
曽我部太の呟きに答えるように、秋月令子が咳払いをしてから口を開く。
「そろそろ夕食の時間ですから、まずはここで食事を取りましょう。みんなの前で私が肉野菜炒めを作りますから、出来上がったら安心して食べてくださいね。どうしても不安な人は、非常用のカップ麺もありますから、それを食べてください。
それでは準備をしますので、田中先生、あとはよろしくお願いします」
食材を取りに行った秋月令子を見送り、田中忠は参加者たちに向き直った。
「食事を取った後、遊戯室で午後九時まで各自休息を取ってくれ。何か相談があれば、オレか秋月先生がロビーのテーブルに移動して個別に話を聞く。
その後、オレと男子は寝室A、秋月先生と女子は寝室Bで就寝。原則として部屋から出ることは禁止とする。トイレに行く場合、男子はオレ、女子は秋月先生が監視することになる。
不満はあるだろうが、皆の安全を考えると仕方のない事だ。わかったな?」
田中忠は半ば威圧するように言った。
秋月令子が三台のカセットコンロにフライパンを載せ、手際よく肉野菜炒めを作り始めた。田中忠は希望者のために、別のコンロでパックのご飯を湯煎している。
「一、こっちに来て一緒に食べない?」
根本遥が曽我部太の向こうから顔を覗かせて言った。俺は舌打ちする馳久美子を横目に立ち上がり、金田龍人が座るはずだった空席に腰を下ろす。
根本遥は秋月令子に視線を向けたまま、俺の腿を小突いた。目を落とすと、二つ折りにされた紙片が小さな指先に挟まれている。
俺は周囲を確認し、気づかれないようにテーブルの下で紙を開いた。




