20 面談
根本遥の後ろについて宿舎前の広場へ戻って来ると、ウッドデッキで煙草を吹かしている津田美子が見えた。
「おかえり。面談が始まったら、また君たちの監視役だからよろしくね」
「ベッドで休んでる二人の様子は、どう?」
根本遥は蝙蝠傘を畳んで、津田美子の向かいの椅子に座った。俺は靴紐を締め直すフリをしながら聞き耳を立てた。
「二人とも体調に問題は無いけど、あんな事があった後だから……しばらく他の参加者たちとは一緒に居たくないだろうねぇ」
津田美子は屋根に向かって白い煙を吐き出した。
「一、もうすぐ時間だから宿舎に戻った方がいいんじゃない? あたしはこの先生とオセロでもやっとくわ」
玄関で靴を脱いで据え付けの靴箱に入れる。周辺には、参加者たちの靴が揃えて並んでいた。この中に画鋲を持ち込んだ犯人がいるとすれば、インソールの下に、画鋲を刺した跡が残っているかも知れない。
俺は確かめたい欲望を掻き消して、ロビーにある四人掛けのテーブルセットに座った。時計を見ると、ちょうど面談開始時刻の五分前に差し掛かったところ。
左奥の廊下から足音が近づいて来て、やや緊張した面持ちの秋月令子が顔を覗かせた。
「それでは佐藤一くん。一人目の面談を行いますので、こちらへ来てください」
無言で前を歩く秋月令子の背中から、冷たくピリついた空気が漂ってくる。俺は静かに呼吸を整えた。
遊戯室と医務室を通り過ぎ、さらに奥に進むと、左側に職員室、右側に寝室Aのドアプレートが確認できた。
秋月令子は職員室のドアを軽くノックして、ドアを開けた。
「佐藤くんを連れて来ました」
中に入ると、手前に横長のガラステーブルと向かい合った二人掛けのソファー。奥には灰色の事務机と回転椅子が二組。片方に座っている田中忠の後ろの黒板には、面談の順番と予定時刻が書き込まれていた。
「そこのテーブルで向かい合って面談をするから、近い方のソファーに座ってくれ。秋月先生、纏めた資料を持って行きますので、先に座っていてください」
田中忠はクリアフォルダに書類を挟んで立ち上がり、秋月令子の隣りに座った。
「さて、あんな事があった後だから、いろいろと不安な事もあるだろうけど、リラックスして質問に答えてほしい。もちろん、分からない事や答えたくない事は、無理に答えなくていいからな」
俺は田中忠の言葉に意識を向けながらも、ボイスレコーダーの設置場所を模索していた。スイッチはオンにしてあるので、すでに会話は録音されているはずだ。
思った以上に職員との距離が近い。テーブルはガラスの天板なので、裏に付けると透けて見える。脚に付けてもすぐにバレそうだ。
「佐藤くん。あなたのパーソナリティーに関して確認したいのですが、根本さんと同じく体験入学での参加という事で、十分なデータがありません。答えられる範囲で教えてください。
まず、あなたと根本遥さんとの関係です。住んでいる場所も離れていますし、根本さんは小学校を卒業して間もなく、いわゆる引き籠もりを始めました。一体、どういう接点で彼女と知り合ったんですか?」
秋月令子は探るような眼差しを俺に向けた。
なるほど……二人の職員は、直接俺を疑っているというより、根本遥の手先として疑っているようだ。そう考えると少し気持ちが楽になったが、ホッとしている場合じゃない。
「話せば長くなるので、できるだけ短く纏めて話しますけど……構いませんか?」
俺がしっかりと目を合わせて答えると、秋月令子と田中忠は真剣な面持ちで、居住まいを正した。




