R-027.0721.1242 代理
「はは、正直な感想をどうも」
さらさら揺れる前髪からちらりと覗く左目は一ミリも俺に動じていない。
襟付きのシャツに黒のスラックス、茶色のエプロン。新品同然、シミもほつれも見当たらない。肩まで伸びた髪もよく梳かしているのが分かる。やけに綺麗な身なり。
「あははーすみません失礼な人で……っ?えーと、店長さんは?」
比女が息を飲んだ。途中から声色が弱々しくなる。
「今日は店長が不在でして、代理です。ここに人が来るのは珍しいですね」
代理を名乗る彼女はそう言ってゆっくり椅子に腰かけた。覆面もあって実年齢が読めない。
「これらはそうそう売れませんから。価値が分かる人でも買えないことがありますからね」
「売れないのに、並べてあるのは理由があるのか?」
「鮫浦先輩!デリカシー!!」
やべ。
「いいんですよ、慣れてますので」
くすくす笑う彼女なぜか嬉しそうだ。
「ここにあるものは全てホンモノなんです」
「本物?ああ骨董品は偽物が出回ったりするよな」
「ええ、でもここは違う。店長が尽力し、集めたこの子たちは時間やお金に囚われず誰かを待っている。その在り方を私は好ましく思っています」
「へえ。若いのになんだかジジ臭い思考だな。ぐえっ」
肘で脇腹を突かれた。
「ところで、二人はなにかお探しで?」
僅かに、今まで不動だった彼女の気配が揺らいだ。変化に気づいたのか比女が一歩後ずさる。床がギシりと音を立てた。
「いや、特に。強いて言うなら昼飯を買いたかったんだよ。だが残念ながら食い物の取り扱いはないらしい。帰るよ」
ごくり。比女が生唾を飲み込む。こいつ偵察向いてないな。
「そうでしたか。茶菓子は扱っていますが、ご覧になりますか?」
「どうする?見せてもらうか?」
比女に訊いてみる。
「い、いえ!アーモンドが食べたい気分なので今日は結構です!お邪魔しましたー!」
逃げた。
かわいらしい方ですね、と楽しそうな店長代理。
やれやれ。あいつが偵察に行こうって言ったのに。
「はぁ。邪魔して悪かったな」
「いいえ」
まただ。生暖かい風が肌をなでる。
「二代目もお忙しいこととは思いますが、頑張っていただかなくては。これは、私からのお願いですが」
周りの空気が、店長代理に吸い込まれていくような感覚。長居はよくない、直感がそう告げていた。
「彼女のことも、よろしくお願いしますね」
「……ああ、分かってる」
店を出ると不思議な感覚は消えた。
外でそわそわしていた比女と合流し、再度ダンジョン化した住宅街の隙間を行き抜け、町はずれの定食屋に寄った。
基地へ戻る頃には昼休みの時間はとっくに過ぎていて、二人揃って燈台さんのお小言を聞く羽目になったが、なぜだか比女は機嫌が良かった。
お疲れ様です。
闇市の話はいったん終了です。例によって、頭の片隅でという感じ。雰囲気がぼんやりとでも伝わると良いのですが。置いてある骨董品の出番を作りたいのですがだいぶ先になりそうです。
次回も一週間後、5月22日の更新予定です。
よろしくお願いします。
次回は地下の話をします。




