番外編 あめの子のゆりかご5
※注意 この番外編には過激な表現が含まれています。番外編は、飛ばしても話が分からなくなるわけではないので、グロシーンなどが苦手な方は飛ばしてください。
後のことは、詳細に記憶するまでもない。道中の敵を殲滅、脱出し、かばんに入れ持ってきた爆薬を使って、蟻の巣を埋めた。
真っ暗な夜道を走る帰りの車内。助けを乞う絶叫が脳内を反芻してうるさい。
「明日はちゃんとした取引き相手だろうな」
「はい。無農薬栽培を実現した農家にございます。家格も確かで朋党に成り得ると三雲様はお考えです。くれぐれも、粗相のないように」
「はいはい」
「じいやが相手ならばなにも言いませんが、正式な場では桶藁家として品位を保っていただきたく」
「分かったって!」
じいやのお小言は家に着くまで続いた。
いつも通り退屈な授業が過ぎ去って。組み鐘の音が生徒を下校へ駆り立てる。賑やかな廊下を隔て、彼女は私の前に立ちはだかっていた。
「どういうつもりですか?」
彼女の開口一番は、苦汁をなめさせられたような息苦しさが含まれていた。
「あなたは知っているでしょう!母から呼び出しを受けたと思えば、用件は商談の同席でした。それは構いません。私が惣領ですから。しかし、商談相手は桶藁というじゃないですか。いくら無農薬栽培を実現したとはいえ、うちは一農家ですよ!?資本家たち垂涎の家格ではない。なんの冗談ですか!?」
必死の形相で彼女はまくし立てた。危機感に満ちた抗議だった。
「そんな大っぴらに家の内情を喋るもんじゃないぜ。副委員長」
唇を人差し指で封じてなお、にらみつけてくる副委員長を無視して教室を出た。振り返ってうやうやしくスカートをつまむ。
「ごきげんよう、紫子さん。これからは仲良くいたいしましょう」
一度帰宅し荷物を整え、再び車に乗り込んだ。昨日と同じく都市部を離れ、雨降る林を抜けた頃。
「じいや」
「はい。なにかつけてきていますね」
水滴で歪むリアガラスから後ろを覗く。光が瞬いた。車が上下左右わからなくなるほど横転。私は外へ投げ出された。
顔に雨が打ち付けている。四肢の感覚はなかった。赤く染まる視界で車を捉える。車体の左側面はなくなり、車内が露出していた。じいやの左半身は削り取られ、内臓がぶらぶら揺れている。粉々になったフロントガラスには肉がへばりついていた。流れ出した血は雨で希釈され、地面に染み込んでいく。
私の体はどうなっている?首が動かない。
……ああ。
お疲れ様です。
急転直下、あっという間に潰えるのが命の取り合い。そんな世界に身を置いているのが桶藁さんでした。
これにて多くの謎を含んだ番外編は一区切り。改めてお疲れ様でした。
前回は祈物なるものが初登場しています。Nコードや異法とも違う新要素です。
活躍の機会はまたいずれ。お楽しみに。
更新は通常通り一週間後、9月11日の予定です。
よろしくお願いします。
次回は彼女らの視点に戻ります。




