知識と高み
日中、夏の暑い日射しを避け木陰に身を隠しながらもミトは稽古を続けていた。
「コッンッチックッショ――ッ!」
滴る汗を拭い取るのではなく、俊敏な動作によってまき散らし、変幻自在に体を上下に振り回し足技を木に叩き込む。
ジンタとの稽古の後からいつもやっている稽古。
追いつかれ、そして悔しいほど引き離されたジンタに今度は追いつくためにミトががむしゃらともいえる勢いで行っている稽古ではあるが、はっきり言って強くなっている実感がない。
自分のやっていることが正しいのか、それとも間違っているのか、その区別がまったく付かない。
ただ、それでもジッとしているのは性に合わない。
だからがむしゃらでも、身につかなくて、とりあえず体を動かすしかなかった。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
より回転速度を上げ、限界まで体を捻り動かす。
「あっ!」
より速く、もっと速く、その気持ちに焦りが上乗せされ、逆立ち体勢で回し蹴りを放とうとしたが、地面に付いている手が滑った。
バランスを崩した逆さ蹴りは、木に触れることもなく空振り、ミトをコマのように三周ほど回してひっくり返った。
「いたたたたっ」
腰を摩りながら起き上がる。
蹴りの的である木に触れると、ボコボコのへこみがいたる所に出来ている。
脛当てを見れば、ジンタとの戦いの時まで大事に扱い新品同様傷つけないようにしていたのが嘘のようにボロボロになっている。
それを見ても、自分が強く、成長しているとは思えなかった。
「くそっ! 一体どうすりゃもっと早く強くなれるってんだ」
憤りに握り締めた拳を木に叩き付けた。
強くなるというのは、強くなろうとする自己の意思の強さと継続する意思が必要なのは当然だが、それだけでは難しい。
リリフォリアでは、小さい時は集落の同年代との遊びで獣人化を身に付け、成長し『召喚されし者』として喚ばれ、自分より大切な守る者と出会うことでさらに強くなろうとする意識が芽生える。
どんなことでも実戦が一番の上達方法かもしれないが、そうそう実戦(危険な目)などあるものではない。
だから通常は一緒に稽古をする相手を見つけて切磋琢磨することで互いを高め合うという方法が取られる。
しかし今のミトはそれを破棄してしまっている。
やり切れない気持ちがそうさせた。
今までみたいに一緒に稽古をし、同じ程度ぐらいで互いが高め合えていれば、ミトだって納得も出来ただろう。
しかし、どうだろう。
一年の期間。強くなれると信じてやってきた自分の稽古と自分の強さが、自分と同等、――――いや獣人化も出来ず自分より弱いと心のどこかで思っていた相手にあっさりと追い抜かれてしまった感覚を。
誰だって、強くなるために非効率的な稽古など行う者はいない。
常に自分に取って一番効率の良い方法で強くなろうと考えるはず。
なのに、自分にとっての最良、そうしてきたものが一気に覆されてしまった今、
「くそっ!」
ミトの中では、どうしようもないほどの苛立ちや悔しさや妬みが体の中を駆け巡っている。
しかし、今のミトには、今以上の稽古のやり方がまったく思いつかない。
このリリフォリアには『召喚されし者』の育成を促す道場や師となるものが少なくともこの第二階層までには存在しない。
それは、『召喚されし者』である獣人化出来る者達は求めるモノを欲することで成長するからだ。
もし、教える者がいることで一つの方向へと成長を向けてしまうのは、あまり良くないと言うのもあるのだろう。
だからほとんどの者が家族やライバルと思える者と一緒に稽古をする。
そうすることで、自分だけでは見つけられないだろう成長の仕方や、相手には負けたくないというモチベーションを保ち、努力し力をつけていけるのだ。
しかし、そのモチベーションも、気づけば圧倒的に差が開いてましたでは気持ちの整理が追いつかずどうしようもない。
それも自分の知らないところで、行われていたのならなおのこと。
そうした場合、どうしていいのか、どうすればいいのか、ミトだけではなく、みんなさっぱり見当もつかないだろう。
「ほんと、一体おれはどうすりゃいいんだよ……」
完全な八方塞がり。
やり切れない感情が、発散されるでもなくもやもやと体の中を徘徊する。
色々な感情と気持ちが一周回って、ミトはチカラの抜けきった拳でもう一度ボコボコの木を叩いた。
「どうやらお困りのようですね。この私が協力して差し上げましょうか?」
後ろから響いたそれが、声だと気付くまで少しかかった。
そして気付いてから、自分が情けないほど弱音を吐いていたことに気付くのにさらに数秒かかった。
みるみる真っ赤に染まる顔を意識しながらも、ミトは振り返り言い訳を口にした。
「いや、これは、あれだ、少し休憩していただけ……、で?」
わたわたと身振り手振りで言い訳していた、その相手を見た瞬間、ミトの言い訳は止まった。
「お前は……、水連……?」
まるでスキャンダルを写真で取られたアイドルのような体勢のまま、ミトは呟いた。
「はい、水連、ではなく、水連様、です、そこは間違わないように」
丁寧なお辞儀をしつつ、訂正する。
「で、水連はおれんとこに何をしに来たんだ? ジンタに言われて偵察か?」
ミトは、水連の訂正部分を見事にスルーして話を進めた。
「いえ、そもそも今のあなたより強いマスターが、なぜ偵察をせねばならないのですか? それと水連ではなく水連様です」
ミトの心にぐさりと突き刺さる一言。
「そ、それもそうだな。それじゃあお前はなんでここに来たんだよ? まさか、こんなどうしていいのか分からねえで悩んでいるおれをあざ笑いに来たのか?」
半ば自暴自棄で言った言葉に水連は嬉しそうに反応する。
「ええ、ちょっと見てましたが、なかなか面白いシーンが見れたかな、っと」
嬉々として喋る水連に、ミトは結構全力の回し蹴りを放った。
それを水連はあっさりと躱す。
「危ないですね、いきなり。人によっては当たっちゃいますよ?」
「当てるつもりでやったんだけどな」
まさかあっさりと躱されるとは思ってなかった、が、それが逆にミトに火をつける。
「なあ、水連」
「水連様ですよ」
「ちょっと一回手合わせしてくれねえか?」
「ええ? まあ、いいですけど、私が勝ったら水連様と言ってもらえます?」
「勝ったら、なっ!」
合図はなし、一気に間合いを詰め、ミトはカポエラのように上下左右に体を返し、回し、足を水連に振り回す。
そんなミトの速攻を、水連は「おっと」「ああ、危ない」「当たっちゃいます~~」などと奇怪な音程でひらりひらりと躱していく。
そして一〇分後。
体中を汗まみれにさせ、大きく激しく息継ぎをしているミトと、まるで何も考えていないリゼットがキョトンと立っているような感じの水連が立っている。
「もう終わりですかね?」
飄々と水連が尋ねる。
ミトの全力の攻撃は結局一発も当たっていない。
それどころか、攻撃が擦るどころか、防ぐことさえさせられなかった。
つまり、全部の攻撃が空を切ったのだ。
「お、お前何者だよ?」
数日前の酔っ払ったイヨリを相手にまともにやり合ってたのを思い出す。
――――こいつ本当に……。
ジンタが、存在そのものを怖がっていた節があったのを思い出す。
「ですから、私はジンタ様の『召喚されし者』であり『黒歴史』です」
至極当然、何を今さらと言わんように、さらりと言う水連。
「そのお前の言う『黒歴史』っていうのは、一体なんなんだ?」
くたくたで、もう手を出すのも足を出すのも億劫になったミトが、ぺたんと地面に座り込み、疑問だったことを尋ねた。
「ふっふっふ。それは実に良い質問ですね」
水連は待ってましたとばかりにミトの前に立ち、胸を張った。
「いいですか、私はジンタ様の魔力を分け与えられることで動いています」
「ああ、おれも一応エルファスからもらってるらしいな」
「はい。しかし、ここからが高性能の私と下等なあなた方との違いです」
「違い?」
「そう、あなた方はただマスターから魔力をもらっているだけ。いや、そもそも魔力をもらっているという自覚すらないのではないですか?」
「まあ、それは、そうだなぁ~」
ミトは何かを感じないかどうかを確認する素振りをしたが、当然の如く今まで通りまったく何も感じなかった。
「ふっふっふっ。そうでしょうそうでしょう。しか~~し、この私は違う。マスターから届く魔力を感じつつ…………。しか~~もっ! その魔力の中にあるマスターでさえ覚えていないであろう記憶をも読み取っているのですっ!」
どうだ! すごいだろ! と言うように反り返るほど胸を張る水連。
「あ、ああ、えっと、それはすごい、な?」
曖昧に同意し褒めてみるミト。
「そうでしょうっ! すごいでしょっ! ささ、もっと褒めて」
「うんうん、すごいすごい……」
何がどこの辺りですごいのかがまったく分からないミトはとりあえず同意し、一応パチパチと手を叩いた。
「ミトさん、あなたのお鼻がピクピク動いていると言うのは、理解していない証拠。つまり、何がどうしてすごいのか全然分かっていないと言うのが十分分かりました」
水連は反り返った体勢を戻し、むしろ前屈みになって溜息を付いてみせる。
「え? ああ、うん、悪ぃ。なんかどこがすごいのかなぁ~~って……あは、あはは……」
ミトは手を叩くのは止め、目を泳がせながら、より鼻をピクピクさせて正直に答えた。
「確かにそうですね。この崇高な技術を下僕同然のあなた方が手に入れているとしたらそっちの方が、私の方としてはショックですからね」
まったく悪びれずけなしてくる水連だが、ミトはそれを無視。
「で、そんな崇高な水連が、一体おれに何の用なんだ?」
まったくと言っていいほど意図が読めない水連に、考える事を放棄したミトが聞く。
「ああ、すいません。少し話が逸れて、いや逸れてはいませんが、そこまで聞いて私が何を言いたいのか理解出来ないのであれば、始めからもっと分かり易く言うべきでしたね」
「ああ、そうしてくれ」
ヤレヤレと呆れたように首を振る水連を、こういうやつなんだと解釈して、ミトはどうしていいのか分からずイライラするよりはマシだと思いながら、少し付き合ってやるよと、どうでも良さげに頭を掻いて先へと促した。
「ミトさん、あなたは我が親愛なるマスターから、マスターの世界にあった『カポエラ』なる技術を教えてもらったんですよね?」
「ああそうだぜ? それのお陰でおれは大分強くなれたと思っているぜ?」
もっとも、今はそれすらも行き詰まり、本当にどん詰まりしているんだけどな、と心の中で付け足す。
「そうですか、さすがは我がマスターです」
「それが何だってんだ?」
感慨深げに頷く水連を、ミトはさっさと言えと促す。
「ええしかしですね。確かに『カポエラ』なる武術は、我がマスターの居た世界のモノではあるのですが、我がマスターもこのリリフォリアに来て早四年。ましてや自分が学んでいた武術と言うわけではなく、見たこと聞いたことをミトさんにお教えしただけなんですよ。しかもほとんど口頭だけで……」
「…………………………ああ、確かにジンタもそれっぽいことを言っていたけどよ……、それが何だってんだ?」
まだ分かりませんか? と訴えるような間を取る水連に、ミトは引っかかりを覚えながらも先を促した。
「ふぅ~~。さすがに我が最愛のマスターであってもここに来る前の記憶、そしてここに来てからの四年という月日、そして元々ご自分で学んでいたわけではない知識だけでは、到底『カポエラ』と呼ばれる武術のすべてを教えることなぞ出来はしませんよ」
「まあ、そりゃあそうだな。おれだってあんまり興味のねえことなんて、四年も経てばすっかり頭から抜け落ちてるぜ」
「そうでしょう。ですから、我がマスターがあなたにお教えした『カポエラ』という武術は、その一端、数パーセントにも満たないものなのですよ」
「数パーセント……」
そこまでを聞き、さすがにミトも驚いた。
しかし言われてみれば、ミトがジンタに教えてもらったことと言えば、「『カポエラ』は足技主体。そしてその動きは変幻自在、普通に立って蹴ったりし、時には逆立ちして蹴る、足を振り回す、などなど」と、よくよく考えれ技術的なことはほとんど教えてもらっていない。
なんせジンタ自身がそれをうまく扱えないのだから、見様見真似のぎこちない動作をミトに見せただけだ。
「……なあ。それって、おれは実際の『カポエラ』を本当は知ってないってことか?」
辿り着いた至極当たり前の結論。
うろ覚えでしかないジンタの言葉とぎこちない動きだけで、本来のその武術の技術的部分を一切知らないまま、ただその言葉を使っていただけの独自の武術でしかなかった真実。
「その通りです」
まるで教師が、やっと答えを見つけ出した出来の悪い生徒に言うように頷く。
「それじゃあ、おれの『カポエラ』これってまったく『カポエラ』ではなかったってことか?」
愕然とした、ここに来てもう一つのとんでもない事実を知ってしまったことに。
つまりミトは、ここに至るすべてにおいて、自分の独学でしかすべてを身に付けていなかったということを。
「はは……、そうか、おれは結局学んだと思っていただけの『カポエラ』を名乗る資格もないただの種族アルミラージだったってことか……」
起き上がる気力もなくしたミトが、体育座りのように足を組み、いじけたように頭を膝につける。
「そうですね。このままでしたらそうなりますね」
無機質な言葉が、ミトの後頭部に重りとなってのし掛かる。
数秒? 数分? どれ位そうしていただろう。
目の前に立つ水連はいまだミトの前にいる。
邪魔だと思った。
哀れなおれを笑ってるんだと思った。
人が落ち込む様を見て楽しんでいるんだと思った。
……でも、怒る気力もなかった。
だからミトは、とりあえず自分の殻に閉じこもった。
永遠と沈み込む気持ちがいやだったから、とりあえず反芻した。
さっきの水連とのやり取りを。
思い出せば思い出すほど、水連なる人物の意地が悪いと思った。
まるで人を嘲るような物言い。
そして人の培ってきたモノを根こそぎ破壊していくような正論。
やり取りすべてを何度も何度も思い出し、そして何度も何度もそう思った。
そして何度目だろうか、
――――あれ? なんだ?
引っかかる部分があった。
――――何が、引っかかる?
ただ聞き流すようだった、さっきまでのやり取りを、ミトは頭に刻むように思い出していく。
そして、それを何度も何度もくり返し、あることに気付いた。
水連が言った「このままでしたらそうなりますね」の言葉。
このままでしたら? そうなりますね? まるでこの先があるような言い方。
そこまで辿り着くと、まるで紐を引っ張るように次が想い浮かぶ、
「魔力の中にあるマスターでさえ覚えていないであろう記憶をも読み取っているのです」
マスターってジンタだよな?
そのジンタさえも覚えていない記憶を読み取る?
え?
読み取るって、あれ? どういうことだ?
混乱する頭。
しかし、そこまで来ると絡まった紐が解けるように頭に流れ込んでくる。
あれ? つまり水連ってジンタでさえ知らない、いやジンタでさえ覚えていない記憶を、知っている……?
ゆっくりと、膝に乗っけていた頭を持ち上げていく。
正面に、まだ水連はいた。
見上げると、真っ黒スーツの真っ黒ヘルメットの女の口元が微かに見えた。
にっと笑っている。
――――まさか……。
そう思いながらも、ミトは立ち上がる。
さっきまで動かすのも億劫だった体で。
立ち上がったミトに、ずっと黙って立っていた水連が聞いてくる。
「もう諦めましたか? それとも――――」
「お前が知ってるならおれに教えろ!」
水連の最初の言葉に確信を持ったミトは、最後まで言わせず詰め寄った。
それで十分だったのだろう。
水連はふっとブラインドがかったマスクの下の口元を、もう一度緩めて見せた。
「やっとですか。予想以上に時間が掛かってしまいましたし、次もつかえているのでサッサと始めちゃいましょうか」
言うと水連は左手の装甲部分、その一部を外した。
「ええっと、確かこーして、そーして、あーだったような?」
ミトにはよく分からないが、水連は外したソレをカチャカチャと引っ張ったり押したり伸ばしたり縮めたりして、何かを作っていく。
そうして出来上がった平べったい長方形の何かを木に立てかけるようにし置いた。
「ふ~~これでよし」
ヘルメットの上から汗を拭うような仕草をしながら、水連はミトにその長方形の前に座るように命じた。
「では、とりあえず見てもらいます」
「は? 見る?」
戸惑うミトに、水連は右手の装甲部分からなにやらヒモ見たいなモノを取り出し、その先端を木に立てかけた長方形のモノに差し込んだ。
「行きますよ~、しっかり見てて下さいねえ~~」
水連が言うと、長方形のソレが音を発し、画面が光り、次の瞬間、中に景色と人が姿を現した。
「なっ! おいっ! なんかこれっ!」
困惑、動揺、恐怖、そういった感情が激しくミトの中で駆け回る。
「はいはい、分かりますよ。一応これはテレビという代物で、マスターの世界では普通にあったものです」
「なっ。普通に、だって? これ中に人が――」
「はいはい、中に人が入っているとか、そういう初めて見た人のお決まりのセリフはどうでもいいんで、とりあえずその人の動きをしっかりと見てて下さいね。あ~~あと中の人に話掛けるとか止めて下さいね。これ映像なんで、声掛けても返事は返ってきませんから~~」
シラけた感じで水連が言うので、いまだ動揺などはあるがミトは画面に意識を向けた。
「こ、これは……」
見入った。画面の中の人物の動きに。
「それは、あなたが知りたがっていた『カポエラ』の動き。しかもそこで演技しているのはマスターの世界で『カポエラ』のマスターだった人の演技です」
水連の声は聞こえていた。
しかし、ミトは水連の言葉に返事を返さなかった。
一瞬でも、瞬き一回分でも見逃さないよう、画面を食い入るように見つめていたから。
画面の中、一通りの演技が終わり会場中の拍手を受けながら、『カポエラ』のマスターが立ち去り画面から消えたのを確認してから、ミトは初めて大きく息を吐いた。
「どうでした?」
「ああ、すげえためになった。あれがほんとの『カポエラ』なんだな」
「そうなりますね」
「もう一度見ますか?」
「見れるのか?」
「ええ、何度でも見れますよ」
「そうか。でも、やっぱ今は見なくていい。出来ればまた今度見せてくれ。今はなんつーか体を動かして今見た感覚を覚えてぇ」
「そうですか。それはいいことです」
さっきまで、悩み苦しみどういう風に稽古を続けていけばいいのか方向性もわからなくなっていたミトだったが、今はそれらすべてが解消され、むしろ早くそれらを試したくてしょうがなかった。
「まあ、もしまた見たくなったら言って下さい。時間があるときにでも見せますので」
「本当か? それは助かるぜ。でもいいのか? おれが強くなるってことは、お前のマスターであるジンタを越えて、倒しちまうってことだぜ?」
方向性が見え、余裕が出てきたミトが水連を挑発すると、
「何を言ってるんですか。我がマスターは獣人化も出来ない最弱のただの人なんですよ。むしろあなたがそんな私のマスターより弱い方が困りものです。なんせあなた達には私のマスターや、そのマスターのマスターであるエルフの彼女を守ってもらわないといけないのですから」
水連は迷うことなくはっきりと、まるでこれから先のことを予言のように言った。
「へへ、そういうことか。まあ任せておけよ。おれがジンタやミリアをエルファス同様にしっかり守ってやるぜ」
水連の言った言葉の深い部分までは理解しなかっただろうミトだが、いつもの調子を取り戻し鼻の下を摩りながら自信満々にそう答えた。
「ではとりあえず私はこれで失礼しますね。なんせ今日はまだまわらないといけない場所がありますので」
「おお、ありがとな水連。また今度頼むぜ」
空間をこんこんと叩き、扉を出した水連にミトは軽く手を上げた。
「水連様ですよ、まったく。ああ、それとミトさん」
「ん? なんだ?」
「あなたの第二段階『纏い風』なんですが」
「ああ、あれがなんだ?」
「あれも別の使い方があるんですけど……。まあ今は『カポエラ』の方が優先ですね」
「ああ、そうだな、とりあえず一つずつモノにしていかねえとな。だからまた今度教えてくれ」
「ええ、そうします」
そう言って後ろ手に手を振って水連は扉の中に入っていった。
扉が閉まると、それは何もなかったようにすっと上から下に消えていった。
「いや~~。なんかよく分からねえ奴だけど、おれを強くしてくれるんならどっちでもいいか」
パシンと拳を作った手を反対の手の平に当てて、ミトは歩き出した。
さっき見た映像に感化され、自分の中から次々と溢れ出すインスピレーションを形にするために。




