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 初勉強会です。ー4



 嫌がらせ女子にきつい説教をし終えて戻ってきた圭太郎は、眉間にシワを寄せた。


「明日から君を驚かせてみようと思う」

「え、どうやって?」

「それを君が予知するんだよ」

「ええっ! で、できるかなぁ……」

「明日驚かせる方法はもう決めた。明日、予知してみて」

「ふえ? ううっ、頑張ってみます……。怖くないよね?」

「それも予知してみて」

「はいっ……」

「大丈夫。君は意識していないだけで、洞察力が優れているはずだ。頭もいいはずだから……本来追試なんて受けるべき頭脳じゃないはずなんだけど」

「褒められているのかな、呆れているのかな、どっちかわからないけどとりあえずありがとう!」


 彰弘と心花が会話を弾ませている、と表現してもいいものか悩む光景を見て、顔を更にしかめる。

 哀れみの眼差しを心花の頭に向ける彰弘と、オロオロした心花。少々理解に苦しむが、仲が良いとは言える。理解に苦しむが。


「あ、おっ、おっ、おかえりなさい、矢田くん!」


 圭太郎が近付けば、気が付いた心花が笑顔を向けた。

それを見て、圭太郎は思わず固まる。


「……ただいま」


 なんとなく、心花の頭を撫でてみた。尻尾を勢いよく振る幼いトイプードルを撫でている気分だ。

 グリグリと執拗に撫でたくなったが堪えて、心花の隣に座った。

 無邪気にニコニコする心花が、今日自分のせいで嫌がらせを受けた。無事回避したとは言え、彼女達の悪意を自覚したらそんな笑みは曇るだろう。

 無垢だから、傷付きやすそうだ。杏と彰弘が守ろうとするのも、納得できる。

チラチラと圭太郎は、心花の顔を盗み見た。

少し癖のある栗色の髪に包まれた小顔。つぶらな瞳はぱちくりと瞬きをする。

 ふいっとその瞳がこちらを向き、圭太郎は即座に目を逸らした。


「あ、あの、矢田くん。ちょっとここがわからないのですが」

「ん? ああ、それな。ちょっと難しいよな」


 今は追試のために勉強中。

せめて優しく教えてやろうと、圭太郎は寄り添うように近付いてノートを覗いて丁寧に教えた。


「ああ、なるほど! ありがとう、矢田くん」


 理解ができ心花は、ほっと安心したように笑みを溢す。


「どーいたしまして」


 得意気になって圭太郎は、ニッと笑い返す。


「そこは君がテストで間違えたところだけどね」

「……てんめぇ」


 水をさす彰弘に、圭太郎の笑みがひきつる。


「や、矢田くんっ……落ち着いて」

「ぜんっぜんっ、落ち着いてるぜ?」

「かっ、かっ、顔怖いですっ」


 身を乗り出して向かいの彰弘に掴みかかろうとした圭太郎を、心花はあわてふためきながらも止めた。

 怖いと言われてしまい、圭太郎は必死に自分を落ち着かせる。深呼吸をして、椅子に深く座った。


「月見さん。あのさ。俺のこと、名前で呼んでいいよ」


 怒りを鎮めるために話題を変える。


「えっ、えっと……圭太郎くんって?」


 戸惑いがちになりながらも、心花は呼び名を確認してみた。


「んー……圭でいいよ。俺、太郎は気に入らないんだよね。今時太郎なんて」

「え、いいと思いますがぁ……」


 俯いてノートを見つめる心花を見て、圭太郎は首を振る。


「月見さんはいいよな、流行りのキラキラネームじゃん。……しっかし、心花かぁ。いい名前だよな、こころのはな」

「! ……ありがとう」


 ふわりと心花は嬉しそうに綻んだ。可愛らしい笑みに、圭太郎はつられて笑みを浮かべる。


「じゃあ、えっと……ええっと……圭くん……でいいかな?」

「……うん」


 その呼び方に満足して、圭太郎は頬杖をついて満面の笑みを溢す。


「じゃあこの流れに乗ると、僕は彰くんだね」

「! は、はい、彰くん!」


 彰弘が口を開いて、加わった。彰弘にも名前で呼ぶ許可が出て、心花は嬉しそうに呼ぶ。

反対に圭太郎の顔から笑みが消え去る。


「……何故、この流れに乗った」

「……僕がこの流れに乗ってはいけない理由があるとは思えない」

「……」

「……?」


 間違いを正すためだけに口を挟む彰弘が、流れに乗ってきたのは疑問を抱く。

しかし圭太郎が睨んでも、彰弘は理解できないと首を傾げる。


「無駄話はこれくらいにしないと、月見さんが追試に受からないよ。この調子ではテスト範囲が終わらない」

「!」

「月見さんが追試を受からなければ、勿論君の責任だってわかっているよね? 勉強会は君が言い出したんだ。受からなければ、君の力不足」

「!!」


 彰弘は淡々と言い放つ。

圭太郎を追い込んだのは、悪意があるのか否か。その点を考える暇がない。

天才の彰弘に負けた上に見下す発言を向けられてきた圭太郎はキレた。


「お前にこれ以上見下されてたまるか!! 月見さん! テンポ上げるぞ!」

「はひ?!」


 心花がその被害に遭う。

それから、圭太郎の少しスパルタの勉強会が始まってしまったのだった。



 数日後、心花は追試を受け、その答案が返された。放課後も、3人は心花のそばにいて確認した。


「はい、合格。初めから勉強なさい、月見さん」

「あ、はいっ、すみませんっ!」


 キャリアウーマンのようにスーツに身を包んだ女性教師に、ぺこぺこと頭を下げて謝る心花の隣で、圭太郎は絶句していた。

 前回と同じように圭太郎は心花の左隣。杏は心花の席の前。彰弘は心花の右隣の窓辺。

それぞれ答案用紙を見て、固まっていた。


「……あの、先生……これ、間違ってない?」


 圭太郎は念のため、確認する。首を傾げてボブヘアーを揺らした女性教師、天川あまかわは腕を組んだ。


「あたしが採点を間違えたって言いたいの? 失礼ね。どこが間違ってると言うのよ」

「いや、どこって……それは……」


 天川はその採点に自信があり、圭太郎は戸惑う。

答案用紙を何度見ても納得出来ない。


「な、な、なんでっ! 月見さんがオール満点とれるんですか!?」


 バンッと心花の机に答案用紙を置いた。その点数は100点と書かれている。

 杏が持つ答案にも、彰弘が持つ答案にも、同じく100点だ。全ての教科が100点。


「えっ、えっと……圭くんのおかげです!」


 ビクリと震えたが、心花は笑顔で圭太郎に答える。

圭太郎が勉強を教えたおかげだ。


「え、いや……うん……そうかもしれないけど……。いや、やっぱりおかしい」


 追試を合格したのは、圭太郎のおかげだとは受け入れられる。

しかし赤点から満点に変わったことは納得出来なかった。


「先生はおかしいと思わないんですか!?」


 心花がカンニングしたとは思えないが、納得できない。しかし天川は別のようだ。


「あら、知らないの?」


 天川は腰に手を当てて首を傾げる。


「入学試験の総合点で順位を決めたら、一位は和泉くん、二位は月見さんよ」


 天川がさらりと告げると教室を歩き去った。圭太郎はまた絶句する。

 実質学年二位。彰弘の次に、圭太郎よりも、頭がいい生徒。

 圭太郎も彰弘も杏も、心花に注目した。心花はきょとんとしたあと、右手の拳を握り締めて見せる。


「頑張りましたっ!」


 居眠りばかりで成績が下がっても、偏差値の高い学校の試験に受かった。

努力した結果が二位。

 つまり、月見心花は勉強をサボったせいで赤点をとっただけで実際は頭がいい。


「……月見さん、見直した。やっぱり君は優れた頭脳の持ち主だ」

「へっ? あ、ありがとうございます、彰くん」


 赤点に失望していた彰弘は感心して、心花と強く握手をした。


「矢田くーん。次の試験は頑張らないとねー」

「……っ」


 杏は薄笑いを浮かべる。杏だけが学年トップを競えない。

 しかし一番プライドの高い圭太郎が、大ダメージを味わっている。ガクリと顔を伏せた。

 自信満々で入学試験を受けたが、彰弘に負けた。しかし、心花にも負けていた。

天敵の彰弘を越す前に、心花が立ちはだかってしまったのだ。


「あの、圭くん」


 つん、と心花の指でつつかれて、圭太郎は顔を向けた。


「勉強、教えてくれて、どうもありがとうございました。おかげで合格できたよ、圭くん」


 へにゃ、と穏やかに綻ぶ心花の顔を向けられては、嫉妬も敵意も吹っ飛んでしまう。


「うん、おめでとう。月見さん」


 圭太郎は力なく笑い返した。






勉強会編、完。


次は映画デート編。

また数ヵ月後にまとめて更新できるようにしますね!


お粗末様でした!


20141228

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