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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第三章

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二人の思惑

 昼休みになると決まってどこかへ姿をくらましてしまう佐理と、希恭は廊下でバッタリと出くわした。


「どこ行ってたんだ?」


「どこだっていいだろ」


 何気無く尋ねた希恭に向かって、佐理は相変わらず素っ気なく答えた。


「じゃあ、昨日の放課後はどこに行ってたんだ? 校長室に寄るって言ってたのに、行かなかったんだろ?」


「それがお前になんの関係がある? 俺が校長室に行こうと行くまいと、いちいちお前に断わる必要があるのか?」


 佐理はいつものように冷めた声で不機嫌に答えた。

彼のつれない態度に、希恭は少し淋しげに声のトーンを落とす。


「昨日、ひな……いや、沢村さんって子がお前を訪ねて来たよ……」


「沢村?……ああ、彼女か」 


佐理はわざとらしく少し間をおいて言った。


「お前……怪我してるんだってな、大丈夫なのか? 彼女、心配してたよ」


 佐理を見つめる希恭の瞳が微かに揺れる。

本当に伝えたい言葉は希恭の意に反し、喉の奥にとどまって、どうしても出てこなかった。


「…………」


「わざわざ様子を見にくるなんて、律儀だと思わないか?」


「言いたいことがあるならはっきり言え。俺は忙しいんだ」


 希恭の遠回しな言いように、佐理はますます不機嫌になっていく。


「佐理……その……彼女と……付き合ってみる気ないか? 彼女とってもいい子みたいだし……」


 その言葉に佐理は希恭の顔を見直った。


「へぇ……随分気に入ったみたいだな、そんなに気に入ったんなら自分が付き合えばいいだろ? 俺には関係ない。――ああ……悪い、お前には小椋がいたんだっけ……」


 佐理は白々しく鼻で笑うと、皮肉るように言った。


「そんなつもりで……」


「何のつもりでそんなこと言うのか知らないけど……俺はくだらない話に付き合ってる暇は無い。これから校長室へ行かなきゃならないんだ」


 佐理は強い言葉を被せ、無理に会話を切った。


「くだらないって……」


「じゃあな」


 苛立ちを抑えきれない自分を隠すように、佐理は希恭に背を向けて足早に立ち去って行った。


「佐理……」


 そんな佐理の後ろ姿を、希恭はやるせない思いで見送るのだった。




  校長室の前までやってきた佐理は、軽くノックをすると、

「失礼します」と言いながドアを開けて中へ入り、そのまま後ろ手に閉めてから、教頭の前へと進み出た。


 時計の針が12時45分を指している。


「君は時間にとても正確なようですね、良いことですよ。まぁ、そこへお掛けなさい」


 教頭は、校長室の机の、大きくて作りの良い椅子に深々と腰掛けたまま、目の前に立っている佐理にソファーを勧めた。


「いえ、僕はこのままで結構です」


 佐理は微動だにせず、静かに答えた。


 すると教頭は、掛けていた眼鏡を外して机に置いてから、佐理へ視線を戻して話し始めた。


「君を呼んだのは他でもない、創立記念のことなのですが……君に少し相談がありましてね……」


 佐理は教頭の話が途切れると、机の前を離れて窓際へ移った。


腕組みをして外を眺めながら,

「どうぞ、続けてください」と促す。


「毎年、創立記念に催されるパーティーのチケットを、我が校の生徒が販売するわけですが……そろそろ始めようと思いましてね」


「まだ少し早いのではないですか?」 


「いえね、今年は一人当たりの割当てを少し増やすことにしましたので、早いほうが良いと思いまして……」


 教頭の言葉に、佐理は少し思案するフリをして見せた。


「昨今、私立高校の運営は極めて難しく、困窮の一途をたどっています。中には身売りする学校まで出ているほどで、我が校も例外ではなく苦しい状況にあります。そこで……今年はチケットの数を増やして、その売上金を運営費の足しにしたいと思うのです」


 教頭は一生徒に向かって、つらつらと理由を並べ立てる。


 佐理は窓の外に顔を向けたまま、今度は後ろに手を組み直して顎を上げ、

「大学並みの入学寄付金、国の助成金、学園祭、その他の行事における収入、何かにつけての臨時寄付……ざっと見積もっても億単位の金が集まる筈……職員給与や諸経費等を差し引いたとしても、赤字になるとは思えませんが……?」と淡々と言い、教頭のほうへ視線を流した。


「まぁ……次期校長の座を狙っている方としては、手腕のあるところを見せておきたいことくらい……分からなくもありませんが……それで、僕に何をしろと……?」


 佐理は完全に向き直って尋ねた。


「やはり私が見込んだだけのことは有りますね。――君にはチケット販売の促進をお願いしたいのです」


 教頭が目を細めて佐理の顔を見る。


「我が校のチケットはなかなか好評で、売れ行きも良いようですから、今年は一人頭30枚の割り当てにしました。それを全て完売させて欲しいのです」


「30枚、一気に3倍ですか?女子部と合わせるとかなりの数になりますよ、そんなに増やして当日捌き切れるのですか?」


「勿論、男子部の分だけです。それに……買った者が皆、来るとは限らないでしょう?」


 紫苑は裕福な家庭の子女が多い。

生徒たちが、自分で売れなかったチケットの代金を親に肩代わりしてもらうことを、教頭は分かっているのだ。


「仰るとおりですね。……それにしても、なぜ僕なんですか? そんなことなら生徒会長に仰ればよろしいでしょう? ――僕は生徒会長でも生徒会役員でもないのですから、お力になれるとは思いませんが……」


「君は他の生徒に人望が厚いようですし、頭も良い。どうすればチケットを完売出来るかも、ちゃんと分かっている」


 佐理は聞こえないほど小さく鼻を鳴らして、教頭の顔を見つめた。


 教頭の抜け目のない目が作り笑いを浮かべて、佐理のようすを窺っている。


「分かりました、お引き受けします。但し……こちらにも条件があります」


「条件?」


「この件が上手く運んだら……つまりチケットを完売させたら、ビジルを学校公認の倶楽部にして頂きます」


 佐理はそれまでの不敬な態度とは違い、真剣な眼差しで訴えた。


「ビジル? 何だねそれは?」


 教頭は白々しく首を傾げて見せる。


「ご存知なのでしょう?僕をお呼びになったくらいだから……まぁ、ビジルは貴方のお役に立てることを、その内お分かり頂けるでしょうが……」


 それまでじっと見つめていた佐理の表情が不意に愛想のよい笑みに変わる。


「チケットは明日にでも不可のほうへ渡しておいて下さい、話は通しておきますから。では、そういうことで……他に用が無いようでしたら僕はこれで失礼します」


 佐理は丁寧にお辞儀をした。

教頭が「では、お願いしますよ」と言うと、彼は校長室を出てドアを閉めた。

そして「タヌキが……」と小さく吐き捨てて教室へ戻って行った。








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