表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/16

1.行き倒れたおじいさん

「どうか、卑しい私にお恵み下さい」


 欠けた皿を差し出し、声をかける。それだけで、通り過ぎる人たちは怪訝な表情をする。


 足早に去ろうとするところを、擦り切れた素足で追う。


「どうか、卑しい私にお恵み下さい」


「あぁ、うるさいねぇ! スラムの子には恵まないよ! あっちにおいき!」


 その女性が怒りの形相で私の肩を力強く押した。その弾みで地面に倒れる。痛い。だけど、ここでめげちゃダメだ。


 空腹で力が入らないが、なんとか力を籠める。ようやく立ち上がって、その女性を追った。また、声をかける。


「どうか、卑しい私にお恵み下さい」


「しつこい! ほら、これでいいんだろう!?」


 すると、女性は袋を取り出して、皿に硬貨を置いた。ギロリと睨みつけられたが、私は精一杯の笑顔を浮かべた。


「お恵みをありがとうございます」


 そう言って、お辞儀をした。その女性がいなくなるのを見ると、すぐに硬貨をポケットに忍ばせた。


 そして、すぐに通りに視線を向けた。次は――あの人だ。次の標的を定め、私は近寄っていった。


 ◇


「やった……今日はパンが買えた」


 今日の物乞いで三日ぶりにパンが買えた。大事にボロ服の中にしまい込んで、誰もいない路地を探す。


 路地にはスラムの人が溜まっているから、見つかると奪われてしまう。だから、誰もいない路地で食べないと。


 一つずつ路地を確認していくと、ボロボロのローブをまとった人が倒れているのが見えた。


 じっと見つめているが、その人が動くことはなかった。……もしかして、死んでる?


 だったら、あのローブを借りれないかなぁ。そう思って、近づいてしゃがむ。ローブを取ろうと引っ張っていると――突然、しわくちゃな手が私の手首を掴んだ。


「っ!?」


「……み、水を……一口……」


 ビックリした、生きてたんだ。凄く掠れた声がして、本当に水を欲しいんだと感じた。


「た……のむ……」


「……分かった」


 弱弱しい声に心が動かされた。水くらいなら自分でも出来そうだ。背負っていたリュックから欠けたコップを取り出すと、私は井戸に走った。


 井戸に行くと、近所のおばさんたちが談笑をしているところだった。だけど、私が近づくとすぐに嫌そうな顔をする。


「物乞いのリマじゃないか。言っとくけど、あんたに恵む金はないよ!」


「本当に卑しい子! 他人から金を恵んでもらって生きているなんて!」


 私を蔑む言葉が向けられる。何度も言われた言葉。だけど、いつまで経ってもなれない。心がギュッとなって、胸が痛くなる。


 それでも、勇気を出して口を開く。


「えっと……井戸の水を……」


「ふん! あんたに渡す水なんてないよ! さっさとおいき!」


「水が飲めなくて、その辺で野垂れ死ねばいいさ!」


 おばさんたちが腕を振り上げ、殴ってきそうになる。私はすぐに傍を離れた。走っていく時、後ろから笑い声が聞こえてきた。


 私は誰もいない路地に入り、息を付いた。


「……水、汲めなかったな」


 おじいさんの水、どうしよう。諦めて、見捨てた方がいい?


 そう考えると、胸がチクリと痛んだ。なんだか、見捨てるのは可哀そうな気がする。それに、私に頼ってくれた。それがちょっぴり嬉しかった。


「……うん、別の井戸に行こう」


 そう思うと、他の井戸を求めて走っていった。


 ◇


「おじいさん……水、持ってきたよ」


 しゃがんで顔を覗き込む。すると、目が薄っすらと開いた。髭が沢山の口元にコップを近づけると、おじいさんはゆっくりと飲み始めた。


 時間をかけてゆっくりと飲むと、コップから口を離す。


「……ありがとう」


 力のない笑みを浮かべて感謝をされた。すると、心が嬉しくなる。感謝されるのっていつ振りだろう? 全然記憶にないや。


「じゃあ、私は行くね」


「……少し、一緒にいてくれないか? ……優しい人が恋しくて」


「私でいいの?」


「……可愛くて優しいお嬢さんと一緒にいられるのは、何よりもご褒美だと思うんだ」


 可愛いお嬢さん、だなんて。いつもは物乞いのリマって言われているから、褒められているようで嬉しい。


 私はその場に座り込んで、一緒にいてあげた。すると、おじいさんはホッとしたように、空気がやわらかくなった。


 私の緊張も解れて、余分な力が抜けた。すると、お腹の音が鳴る。そうだった、パンを食べるんだった。


 服の中からパンを取り出すと、小さくちぎって食べ始める。少しずつお腹が満たされていくと、隣のおじいさんが気になった。


 もしかして、お腹も空いているのかな? だったら、これも少し上げた方がいい? でも、これは私の食事……。


 考えていると悶々とする。とても嫌な気分だ。こういう時は気分の良いことをした方がいい。


「おじいさん、パン食べる?」


 この方が悶々としない。ちぎったパンを手渡すと、おじいさんがこちらを向いた。そして、力のない笑みを浮かべる。


「……いや、食べれなさそうなんだ」


「お腹がいっぱいなの?」


「もう少しで寿命が終わるんだ。だから、それは君が食べなさい」


「……おじいさん、死んじゃうの?」


 それを聞いて、また胸がチクリと痛んだ。さっき会ったばかりなのに、別れが寂しいって思っちゃう。


 おじいさんは私の顔を見て、優しく微笑んでくれた。


「私のことを思ってくれてありがとう。最期に良い人と巡り合えてよかった……。ここに逃げて正解だったな……」


「悪い人に追われてたの?」


「……あぁ。ずっと、追われていた。だから、遠くまで逃げてきたんだよ。みんな、私の力が欲しくて……命を狙われた」


 そう言うと、とても辛そうに顔を歪めた。それを見て、なんだかこっちまで辛い気持ちになってきた。


「だから、最期に本当の優しさに触れられて、良かった……」


「……私も優しくして良かった。だって、おじいさんが褒めてくれたから」


「褒められたいなら、もっと褒めてあげよう」


 おじいさんが震える手を持ち上げ、私の頭を撫でてくれる。久しぶりの人の温もり。心が温かくなって、とても嬉しい。


「えへへ」


「喜んでもらえて、何よりだ」


 お互いに笑い合うと、それだけで心が温かくなる。久しぶりの人の温もりは寂れた心を癒やしてくれた。


 だけど、おじいさんの目が突然真剣になる。


「優しい君になら、私の力を渡してもいいのかもしれない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ