↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安ROCK FES!  作者: 優木悠
第四章 たたかうやつら

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/72

四ノ二十四 朱天 その二

 太陽が中天に達するころ、上ノ原には源頼光の本隊が到着し、またたくまに陣を構えた。


 碓井貞光に捕らえられていた朱天は、陣内へと引き立てられた。


 後ろ手に縛られたうえに腕をぐるぐると縄で巻かれ、バランスがうまくとれず足がふらついた。


 たった半日の反乱であった。


 ――俺のような半端者にしたらよくやったほうだ。


 朱天はそう思い、満足げに笑みをこぼした。




 近江伊吹山の麓で生まれ育った朱天は、子供の頃、比叡山に修行に出された。


 稚児として入山した朱天であったが、やがて老僧が閨事(ねやごと)を強要してきた。


 老僧は言った、お前はこのような行為の相手をするために売られてきたのだと。


 絶望と屈辱と憤慨の中で、朱天はその老僧を殴り倒し、比叡山から逃げ出した。


 売られた身である以上、帰る場所もたよるあてもなく、さまよううちに、盲目の琵琶法師と出会った。


 朱天はその法師と旅をしながら、琵琶を習いおぼえた。


 やがて、法師が死ぬと、その琵琶を受け継ぎ、京へと出て来たのであった。


 そして数年がたち、茨木と出会い、虎丸、熊八、星、金時と出会った。


 皆で奏でる音楽は、体の芯がしびれるような快感であった。


 観客の喝采も、朱天を高揚させた。


 皆との暮らしも、ほとんどひとりで生きてきた朱天にとって、楽しい日日であった。


 それがすべて瓦解した。


 今日一日で。


 権力者の無慈悲な横暴によって……。




 朱天は陣のなかほどで、座らされた。


 目の前には、胡坐に腰かけた源頼光がいて、その脇には渡辺綱と卜部季武がひかえ、朱天を連れてきた碓井貞光もその列に加わった。


「一別以来よな、朱天」


 と口を開いたのは渡辺綱であった。


「さようでございます」朱天が答えた。


「朱天よ、何ゆえ、このような山奥に隠れ里を築き、村人を扇動し、おそれ多くも朝廷に弓引いたか」


「我、謀反の意思など一片もござらず」


「謀反の意思がなくて、このような反乱を起こせるものか」


「反乱を起こしてもおりもうさず。私達はただ、自分達の土地と自由を守って、攻め来たる外敵に抵抗したにすぎません」


「言いのがれを」


「あなた達が攻めてこなければ、我我が弓を持ち太刀をとって戦うこともございませんでした」


「詭弁である」


「逆にお訊きしたい。あなた達は、なぜ、山奥で静かに暮らし、田畑を耕し、身を寄せ合って生きている私らの、ささやかな生活を奪うのか?」


「お前達は朝廷の許しもえず勝手に田畑を作り、人を集め、村を形成した。そんな無法を放っておけば、やがて朝廷に対して謀反を起こすに決まっておる。承平天慶の時のような乱を再び起こし、世を乱れさせるわけにはいかぬ」


「あなた達は、ひっそりとおとなしく生きている人間を、ゆがんだ目で見て、勝手に妄想をふくらませ、いずれ罪をおかすであろうと思い込み、排斥する。鴨川の河原でもそうだった。東山の森でもそうだった。我我が何をしたというのか、生きるために汗水たらして働き、精一杯がんばって暮らしていたにすぎない。権力をふるって弱者を排斥して楽しいか?人人の生活を踏みにじって楽しいか?」


「強い者や高貴な者が人の上に立ち、弱者や下賤の者を支配するのは、当然の秩序だ。厳然たる身分秩序があってこそ、世は平らかに治まるのだ。下等な者は何も考えず高貴な者に従っておればよい。それに異を唱えるなぞ、ましてや武器を取って立ち向かうなど反乱でなくてなんだ。その反乱を鎮圧するのは当然の理(ことわり)だ」


「弱者とて人間だ。踏みにじられれば抵抗もする」


「金時と同じことを言う。金時がお前にあやつられていたとようわかる」


「金時は自分の意思で我らと共にいただけだ。友達として」


 そうして綱は、じっと朱天の目を覗き込むようにして見つめた。


 朱天もその目を見かえした。


「みずからの罪を罪とも思わぬ。罪をかえりみ恥じることもない。朱天、貴様は正真正銘の鬼だ」


「異端者を迫害して快楽を得、弱者をしいたげ安心を得る、あなた達こそ真の鬼だ!」


「言いたいことはそれだけか?」


「ああ、殺したければさっさと殺せ」


「よかろう、この場で首を落としてやろう」


 綱がさがって合図を送ると、すぐに首切り役の武士が進み出てきた。


 武士が朱天の後ろへまわる。


 兵が強引に朱天の上半身を前に倒した。


「呪ってやる」


 朱天は顔をあげ、頼光を、綱を、血走った目でにらんだ。


「呪ってやるッ。七生にいたるまでことごとく呪いぬいてやるッ!」


 朱天が叫び終わった瞬間、太刀が振りおろされた。


 斬られた首が宙を飛び、数メートルも離れていた綱の足元に落ちた。


「鬼め」


 自分をにらむその首を冷酷な目で見、綱は侮蔑するように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。