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平安ROCK FES!  作者: 優木悠
第三章 まもるやつら

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三ノ十四 旅立ちの歌

 あやめが、隠れ家の一室で、書机に肘をついて、がらにもなく、はあはあと溜め息をついている。


「いかがした、あやめ殿。庭まで聞こえる溜め息をついてからに」


 見かねて朱天が声をかけた。

 やっかいになっている礼にと、庭の掃除をしていたところであった。


「おや、婿殿。そんなに私を気にかけてくれるのかえ」


「婿じゃないけどな。そうはあはあと溜め息をつかれては、気にしたくなくても気になるじゃあないか」


「そうか、心配してくれるのか」


「心配してないけどね」


「いや、じつは言いにくいのじゃがな、おぬしらのことなのじゃ」


「そうか、何十人もの人が、いつまでもやっかいになってるからな」


「いや、ちょっとちがう。この間おぬしの奪還に手を貸したじゃろう。そのせいで、頼光達の土蜘蛛一党への捜索が、前にもまして厳重になってきておるようなのじゃ。そのうちこの隠れ家の場所も発覚しよう。私達はよい。隠れ家なんぞ京じゅういたるところにあるからのう。しかし、頼光達の襲撃を受けたら、またおぬしらは流浪の民と化す」


「そうだな。どこか落ち着き先をそうそうにみつけるよ」


「その懸念は無用。ちょっと遠いがのう、丹波と丹後のあいだに大江山という連峰がある。そこにも我らの拠点がある。森と川のほか何もない山の中じゃが、そこを新天地として、新たな村を築いてはどうかな」


 大江山といえば、京から北西へ直線距離で約八十キロはある。

 しかもその大半が山道で、曲がりくねり、登りくだりもそうとう激しい。


「うん、そうだな。ずいぶん京からは離れてしまうが、どうせもう京にはいられない身の上だ。いちど皆に話してみよう」


「そうなると、そなたと遠く離れてしまうのが、さみしゅうてのう、つい溜め息をもらしてしもうたのじゃ」


「前から訊こうと思っていたが、どうしてそんなに俺に執着する。俺よりずっと顔のいい男も頭のいい男もさがせばいくらでもいるだろうに」


「そなた、気づいておらぬようじゃから話そう。古来、邪馬台国よりもずっと以前から、温羅(うら)という一族がある。今はほとんど滅んでしまった一族じゃが、おぬしはその生き残りじゃ。土蜘蛛も温羅も、ともに朝廷に反旗をひるがえしてきた血族。つまるところ、私とおぬしが夫婦になれば、最強の反朝廷一族ができあがる、というわけじゃ」


「なんだ、しらけるな。俺の人柄に好意をもってくれてたのじゃなかったのか」


「そりゃ、おぬしの性格や才能にも当然惚れた。顔は、まあ多少妥協したがの」


「そいつはどうも」


 にっと笑うと、朱天は部屋を去り、皆のもとへと向かった。


 そして朱天組の面面や、村の人の主だった者をあつめて、あやめの提案を話した。


「どうだろうみんな、京からはうんと遠くに離れてしまうことになる。京に未練がある者は、残ってもらうことになるが」


「いいんじゃねえか」と声をあげたのは、意外にもあの無愛想な飯屋の親父だった。「どうせ京にいたって、地回りの顔色をうかがったり、放免におびえたり、頼光達に追い出されるのに不安でいなきゃならねえ。なあ、そうだろみんな」


 飯屋の親父がまわりに了解をもとめると、皆、うなずきあう。


「そうか、そうしてくれるか」


 朱天は頭がさがる思いであった。

 そこへ、


「俺は残るぜ」


 そう言い出したのは、茨木であった。


「俺は、このまま山奥に引っ込むなんてごめんだ。綱達に吠え面かかせなきゃ、腹の虫がおさまらねえ」


「俺もだ」虎丸も同意するように言った。「俺は、以前やつらとつながりがあったからわかる。あいつらは、庶民を虫けらぐらいにしか見ていない。こないだ四条河原を焼かれ、今度は俺達の村が焼かれ、もうどうにも我慢がならなくなった」


 村人の何人かが同意した。


 皆、決意は固そうだ。

 ここで説得をしたところで、時間の無駄になるだろう。


 朱天は眉をしかめ、目をぎゅっとつぶって、自分の言いたいことを押し殺し、苦悶のうちに首を縦に振った。




 そして、三日。

 皆が旅立ちの準備をととのえ、大江山へと出立する朝を迎えた。


 向かうのは、朱天、熊八、星、金時、そして、村人約五十名。


 茨木、虎丸、村人十数名は、ここに残って、土蜘蛛の傘下に入り、朝廷と戦う決意であった。


 朱天は、残る者達、ひとりひとりに握手をし、目で語りあい、うなずきあった。


 そうして、人人は旅立つ。


 誰かが歌い始めた。

 朱天達の、歌であった。

 皆が歌を口ずさみながら、歩き続ける。


 新天地を求めて。

 新たなる平穏を求めて。

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