プロローグ
日本に裂け目が出来た。きっと神様が怒ったのだ。裂け目は日本を東西に分裂させた。黒い裂け目より神様の怒りが溢れ出して日本を真っ二つに切り裂いたのだ。
何に怒ったのか。どうして怒ったのか。ぼくにはそれを理解する時間がなかった。
溢れ出た憎しみが父を襲い。
「……父さん?」
「逃げなさい。逃げなさい。すぐに。逃げなさい‼」
「あなた‼ あなた‼」
「早く‼」
「あなた‼」
父の必死の形相をぼくは覚えている。母が妹を抱えぼくの手を引き。車にぼくらを押し込めて。
隣の家から現れた幼馴染。千切れた手を引きずっていた。
「ごめんなさい。あなた……」
母がそう告げながらアクセルを踏む。父が何かを抑え藻掻く姿がバックミラー越しに見えていた。
通り掛けに回収された幼馴染と。手と。あぁ。どうして。手が。
「お母さんは⁉」
「……お母さんは。動かなくなった」
幼馴染は母の問いにそう答えた。指に光る指輪が。それが誰の物なのかを教えてくれていた。
走り出したのも束の間。ぼくらは宙に舞った。燃え盛る。燃え盛る。ぼくと妹と幼馴染は転がって。燃え盛る。
起き上がると体の節々が痛んだ。
転がって来た母。
「逃げなさい‼ 逃げなさい‼ 逃げるのよ‼ 逃げて‼」
耳に木霊し抱えたそれは。母の頭だけだった。
幼馴染の悲鳴と。妹の悲鳴と。燃え盛る。燃え盛る。何もかもが燃え盛る。雨が降るみたいに。地上に雨が降るみたいに。ぼくの世界は燃え上がっていた。無数の衝撃音。跳ねる。跳ねる。跳ねる。燃えているのは、ぼくも同じだ。ぼくの体から流れだした炎が地面を伝い流れてゆく。
「貴方達‼ 乗りなさい‼」
回収された車の中で。
「綾子は⁉」
その人はそう怒鳴った。ぼくには抱えた頭を差し出す事しかできなかったのだ。炎が体を濡らしていた。
「あぁっ。綾子……どうして……」
神様が怒ったのだ。
ぼくにはあまり選択肢がなかった。妹の未来。幼馴染の未来。将来ある妹のために。八つ裂きにされ痛んだ幼馴染の生命を維持するために。ぼくにはこの身を捧げる以外の選択肢がなかったのだ。それ以外の選択肢がなかった。
神様が怒ったのだ。
だからぼくは、それに対抗するための兵器になるしか道がなかった――。




