エルフの少女はスキップしていた。
欠伸をする。目が覚めて。首を傾けてぼんやり。パジャマ。カーテン。揺れてる。眩しい。手で遮る。
「おはよう。お姉ちゃん」
「眩しい……」
ぼやける。妹。大きい。妹。色々大きい。眺める。なぜぼくの布団に入っているのか疑問を浮かべる。でも何時と同じかもしれないので考えるのはやめた。妹の体温は高め。めっちゃぬくぬくなん。冬は必須。
妹に引っ付かれながら部屋を後にする。階段を下りて洗面所へ。歯磨き。何時もの顔。寝癖。
「はい。お姉ちゃん。座ってくださーい」
椅子に座らされる。妹。髪を整えられる。ぼくの髪は毛先だけ癖がある。根元がダークブラウン。毛先がライトブラウン。リンスとコンディショナーは必須。ゴムで後ろにまとめられる。これうち伝統の髪型。母親もそう。祖母もそう。妹もそう。
着替える。制服。スカート。
朝食を用意する。目玉焼き。納豆。納豆にはカラシ増し増しマヨネーズ。お味噌汁。豆腐ともやし。
「おねえちゃん。おねえちゃん」
妹は何時も引っ付いて来るん。なんだろうな。この。なんだろうな。ぼくの方が年下に見える大きさ的な比較的な比喩的なジレンマ。
ほかほかご飯を茶碗によそりぺんぺん。といた納豆をとろり。お米と混ぜるのは禁止。スプーンに乗せて食べる。妹のほっぺ。おコメ粒を手に取り唇へ当てる。
「ああぁああああああ。おねええええじゃんん」
妹はちょっと変。
納豆の器は即水につけて洗う。ニオイがね。うん。ニオイがね。
「くちゃいね」
「……でも美味しいでしょう?」
「うん‼」
「いいお返事」
美味しいからやめられない。止まらない。
学校へ行く準備――玄関で妹を待つ。ランドセルを背負った妹。おかしいな。ぼくの方が年上なのに。見上げないといけないのはなぜなのか。手を繋ぐ。何時もの朝だ。
あっ。ぼく。エルフっぽい何かです。
だから何だって問われると困る。だから何なのだ。
「なんなんなんなんなんなのだー」
「なぁーにそれ」
「わかんない」
「わかんないか」
「わかんない‼」
手を繋ぐ妹。ちょっと謎。来年は中等部だぞきみぃ。体形はもう大人だけんどね。身長173センチ。上から86、56、91。目をごしごししちゃうなー。
「わかんにゃいかー」
「わかんにゃい‼」
「わかんにゃいかー」
「あっ。ナツアメ」
ナツアメは妹の名前だ。
「あれ? タクミン? どうしたの?」
「一緒に学校行こうよ」
「なんで?」
わぁ。空気が凍り着いたぞ。言わなくても伝わる気持ち、あると思います。なんでってなんでだーよ。
「特に……意味はないけど」
タクミ君は近所の子で妹の幼馴染だーよ。好きだからとは言えないよね。
「ごめんね。無理。お姉ちゃんと一緒に行くから」
「え? え?」
「お姉ちゃんのことはー。心配しなくていいからー。タクミ君と一緒にー。学校行けばいいんじゃないかなー?」
「うん。絶対嫌」
うーん。絶対嫌か。絶対嫌ならしょうがないかー。
「え? でも……僕と一緒に。行こ? 学校」
「うん。ごめん。無理」
「えええええええええ。そんなぁ……」
「行こっ。お姉ちゃん」
強く生きるのだ。タクミン。
通路で待つのは路面列車――乗り込むと知り合いがいた。
「おっほー」
「おっはー」
我が友ナカジマである。ナカジマエルフ。エルフっぽい何かである。
「うえへへっ。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん」
ぼくを胸に埋もれさせる妹の将来が本当に心配になるお姉ちゃんだ。
「満員だから。満員だから仕方ないよお姉ちゃん」
「ガラガラだぞ」
「満員だよ。お姉ちゃんが見えていないだけ」
確かに妹の谷間をぐりぐりされて何も見えん。
何時もの朝である。
「我が国が世界から断絶されて120年が経つ。知っての通り我が国は四方を瘴気に囲まれ身動きが取れない。その瘴気を防いでいるのがファイアーウォールだ。初代国護の炎となるこのファイアーウォールは我々の生活には無くてはならない存在だ。この炎を決して絶やしてはならない。ではこの炎を絶やさないためには何をすべきか。ミシマ妹答えろ」
午前中はクラスで授業だ。
窓からファイアーウォールがゆらゆら見えるんよー。
ファイヤーウォールってか蜃気楼だぬ。蜃気楼ってかオーロラだぬ。
「うぃーっす。あれっしょ。産めよ増やせよって奴っしょ」
「うぃーっす。ではない。はい。だ。返事ははいと言え」
「うぃっーす」
「……もういい。大体あっているがそうではない。我々は何時か炎へ帰る。人は生まれ営み、そして最後には炎へ帰るのだ。人が繁栄すれば炎も栄え、人が衰退すれば炎も衰退する。それを良く覚えておくことだ」
「うぃーっす」
「返事ははいだ」
「うぃーっす」
「もういい……ミシマ兄。後で職員室に来い」
「えぇ?」
120年前。世界は壊れた。なぜかと問われると困る。だって崩壊したんだもん。日本と言う島国は東と西に分断された。こっちは東。
噴き出した瘴気と妖魔、それらに対抗するため未曽有の戦いになったのだそうだ。
かつて誇っていた人類の栄華は衰退してしまった。通信は断裂。世界も断裂。残った人達が必死になって生き残ろうとした結果、ファイアーウォールが生まれたらしい。
このファイアーウォールを生成したのが最初の国護ファイだ。本名は不明らしい。
うちのご先祖様でもあるん。ファイは人柱となり越後の付近に炎に覆われた空間を作った。この空間の中には妖魔は入って来られない。この炎は妖魔が死ぬまで燃えるから、恐れて妖魔が近づいて来ないんだってー。
チャイムの音。購買によってサンドイッチ買って屋上行くん。
その炎の内側で、残った人々が、昔の偉人の残したAIプログラムマザーの元、細々と生活を積み重ねて現在に至っている。
「貴女が好きです。付き合って下さい」
サンドイッチぱくぱくしながらナカジマが告白されるのを見守っているん。
「ごめんなさい」
「友達からでも構いません」
「ごめんなさい」
「理由を聞いても良いですか?」
「今は勉強に集中したいので、恋人を作るつもりはないの」
「連絡先交換しませんか?」
「ごめんなさい」
「結婚して下さい‼」
「ムリ」
「俺の女になれよ」
「マジムリめ。お前マジ嫌い。月に帰っていいよ?」
ナカジマはモテるのだ。
黒髪ストレート。小顔。造形よし。実家も太い。なんなの。この理想の女性を詰め込みましたみたいなナカジマ何なの。嫉妬ではない。事実なのだ。
学校は午前で終了。午後からは自由なん。おっと月に帰っていいよは最上級の口撃呪文なん。直訳すると〇ねになるん。
「力づくでもいいんだぞ‼」
「やってみなよ? ほら?」
おーうふ。暴力はダメだーよ。ナカジマくっうううううううううそ強いからマジデジマ。武闘派ナカジマ。
黒髪ストレート。小顔。造形よし。実家も太い。武闘派。なんなの。この理想の女性を詰め込みましたナカジママジ何なん。
ナカジマが口から吐き出した糸に絡めとられて可哀想だーよ。
「ふんっ。こんな糸で俺を‼ こんな糸‼ ん? こんな糸で俺をしばれっん? 縛れると‼ あ?」
ナカジマの家系って生き残った人類の中ではフルフルのお古の家系なんよー。ちなみにナカジマ家は代々絡新婦のARMSだーよ。
ARMSっていうのは精神異能者のことだーよ。
糸に絡めとられたら後はサンドバックなん。そんなに激しくラッシュしたらパンツ見えるよナカジマ。
「おらおらおらっ」
「ナカジマパンツ見えてるん」
「スコートだから平気よ。ムジカのエッチ……おらっ‼」
妖魔と瘴気が世界に溢れた時、逆に妖魔の力が使えるようになった人達をARMSって呼ぶーよーになった。まぁ瘴気に適応しないと生きられないので全員がほぼARMSだーよ。ぼくもARMSだーよ。
ぼく達は東部防衛機構という組織の人間になるん。
「あー」
寄りかかって来たナカジマを受け止める。
「めんだるー」
「めんどりー」
「めんだるいわ」
めんだるいは、面倒臭くて怠いだーよ。
「だわーよ。購買で買ったサンドイッチ食べるん?」
「頂くわ」
猫みたいに体を絡めて来るん。黒髪ストレートのキューティカルなガールがナカジマなのだ。可愛い。すごい。つよい。綺麗。いい匂い。やったー。
東部防衛機構のトップはAIマザーだーよ。そしてその下に妹様がいる。妹様は国護のファイの実妹様でマーメイドのARMS。不老不死なんだってさ。ええよね。ちなみにモイモイ様って言うのはー。勝手に呼んでいるだけだっちー。
その下にナカジマ家、ミシマ家、イムソムニア家がある。一応うち、ムジカカ家も名家に数えられているけれど、うちは没落しているよ。
ぼくの本名なムジカカ・ムジカ・ムジだーよん。
うちの家系って母親もそうだけれど自由奔放過ぎてね。母親も何処におるか知らんもんね。もうね。あれだよね。なんていうかね。うん。あれだよね。わけわからんちん。
うちとナカジマ家はずっと仲良し。母親も仲良し。祖母も仲良し。どっちかの家に男児が生まれるともー大変。代々どちらかの家系に男児が生まれるともう片方の家に女子がいた場合に恋愛猛アピールするんよー。でも結ばれたためしはないんよねー。
うちはこんなチャランポランな家系だからあれだよね。ナカジマ家には代々お世話になっていますん。うへへへっ。よし下顎を撫でてあげよう。
「よーしよしよしよしよし」
「もっとゆっくり。優しく撫でて」
「うぇへっへっへっへ。……違うか」
「へんたいみたいよ」
この世界が崩壊してしばらく――異世界からエルフがやってきた。なんで来たのかと問われると困る。来たものは来たのだ。長生きがダメだったっぽい。人間から迫害され嫌気がさして異世界転移してこの次元、そして世界へとやって来た。
でもこの世界もこんなだからね。人間から迫害されて転移した先にも人間しかいなかったっていうね。なんだろうね。あはーは。
うちらの先祖はエルフやらなんやらを受け入れて共同で暮らし始めたんだってー。それでハーフやら何やら生まれて、なんやかんや先祖返りしたのがぼくとナカジマだ。
ちなみに魔術は使えないんよ。なんでってこの世界には魔力が無いんよねー。エルフもただ長生きする人だっちー。もっともこの世界にやってきたエルフは瘴気に耐性がなかったからみんな三十年そこそこで月へ帰っちゃったんだ。でもみんな幸せだったんだってー。迫害もなく平和でのんびり。強さを求められず美しさを求められず。
平和かって言われるとそこも悩みどころだーよ。妖魔は相変わらず存在するしね。
午後からは東部防衛機構の本部へ赴くのん。
炎の内側って瘴気も少ないし妖魔も少ないんよね。瘴気に適応してしまった人類は瘴気なしには生きられない。オーロラの外側には瘴気の結晶、瘴貴石があるし、妖魔も瘴貴石で動いてるーよ。
ちなみに海には近づけません。海はね。あれだよね。大きくてね。大きくて強い妖魔がね。いてね。大きくてね。まぁ無理だよね。無理だおねって話。海産物なんてメリメリ。
ヒトガタとかお化けクジラとかね。もうね。動いただけで吹き飛ばされるしね。船なんてメリメリ。だから大陸がどうなっているとか西がどうなっているのかも不明だ。
でもたまに内陸部まで波が来て、その時に海産物がちょこっと食べられるーよ。水力発電所もあるーよ。ほとんど故障しちゃって可動しているのは二基ぐらいらしいけどね。
本部の受付にはアンドロイドのアンニョイちゃんがいた。
『こんにちは。私はマザー直轄の受付。アンニョイです。ご用命をどうぞ』
「やーほやーほ。街の外に出たいぴょん。はいこれ端末」
『ご用命承りました。読み込み致します』
提出するのは携帯端末だーよ。マザーが管理していて生活必需品らしいけれど、ぼくにとっては目覚まし時計兼地図表示機材になっている。ナカジマとかショートメールの返事をすぐ返せとか催促するけどめんどいんよね。
なんかね。あんまりね。荷物とかね。持ち歩きたくないよね。みたいなー。携帯不携帯みたいなー。違うか。おじさんぽいか。おじさんなんよ。心のおじ。
『認証致します。第三級探索者ムジカ様。本日はどちらへ向かわれますか?』
「今日はねー。西口から行こうかなー」
『西口ですか。ガシャドクロ、牛頭馬頭の存在が確認されております。空神にはお気を付け下さい』
「はーい」
『各地にてF~Dまでの物資の補給を容認致します。瘴貴石の確保をよろしくお願い致します』
街の外へ出たら一泊は普通にあるん。しないけど。無断外泊すると妹がキレ散らかす。もうね。キレ散らかすからね。強く生きろ。
支給品のリュックと制服の上からフード付きコートを羽織りホームで列車を待つ。普通はパーティーを組むけど、ぼくは一人だーよ。一人の方が楽なん。これにはぼくのARMSが関係している。
乗り込んだら出発――高速列車は時速500kmにも達するとか達しないとか達するとか。チョー電導リニアとかなんとか。
オーロラを通過する時に炎が体に纏わりつく。柔らかくて温かい。この炎は妖魔を焼き尽くすけれど、人体には無害で、人に無害な妖魔も通してしまうん。
だから座敷童さんとか豆腐小僧とか豆ダヌキとかは普通に入って来る。通常はオーロラの見た目を恐れて入っては来ないけれど。
世界が綻んで100年を過ぎた。世界は植物に覆われ初めているけれど、まだまだ人の名残がちらほらある。うん。なんならまだまだあるん。うん。
あっという間に目的地へ到着――降りたらもうリニアはどっか行っちゃった。ここからは自分でどうにかせんばいけんばい。リニアは定期的に来るから端末で時間をセット。
ホームを降りた目の前。確かに人工物は存在し。
白い靄や霧が街中を漂い覆い霧雨と雲で空気はどんよりとしていた。瘴気は世界を改変している。と言われている。とかないとか。どっちなのんて話。今日はどんよりの日のようだ。
広がる景色は何処か――。高層マンションや建物の跡が今もなお燻るかのように佇んでいた。そしてそのどれもが、こないだ来た時と比べて雰囲気が異なり変わっている。炎の外は急激に変化する。まるで過去の姿を思い出そうとするかのように。
街中には人影のような陰影がゆらゆらゆらゆら。
まるで生きているかのように動く。この人影のような陰影は通称タルパと呼ばれている。無害だーよ。黄色い目と黒い影のような体躯。まるで生きて生活しているかのように振る舞っているけれど、そのように振る舞うだけで触れられも干渉もしないしできはしない。
携帯端末を開いてマップを視認。昨日更新されたマップだけれど、もう使えなくなっているんね。でも全く使えないってわけじゃない。
線路が通っている市街地等には支援物資が投下されて、制限はあるけれど探索者が自由に使用して良い事になっている。これがビーコンの役割も果たしていてマップを作り出している。
唐突だけれど、ぼくのARMSは亡霊だ。亡霊のARMSだ。どっちだ。
判明している能力は四つ。
ゴーストウォーク――気配と姿を世界から遮断できる。攻撃は当たるよー。
ゴーストステップ――視界中の空間なら空間を飛び越えてその場へ行ける。ちょっと浮遊感があって酔うん。
シーズ――視界内のあらゆる物、現象、概念を掴み奪える。ただしぼくが欲しいと考えた物は奪えない。路傍の石ころをシーズで手の中へ収めることは可能だけれど、自分が怪我して治したいから傷を掴みたいと手を翳しても掴めない。ぼくがいらない物や現象、概念だけが掴める。でも視界内で手の平に収まる程度の空間の物しか掴めない。でも遠近法で遠くから手の平に収まるなら掴める。でも視界内で目標物を握る動作を行う必要がある。なんか色々大変。
コール――亡霊を呼べる。何の亡霊が来るかは不明。何をするのかも不明。
ゴーストウォークとステップを併用して移動するんよ――完全隠密だと考えて間違え無さそうだけれど、看破されないとは考えていない。完璧かどうかはぼくには判断できないしね。
うち、ムジカカ家の初代当主は鎌鼬のARMSだった。二代目は歴代最強のムジカだったと今でも伝説に残っている。二代目のARMSは不動明王だったって話だ。
ARMSは基本的に遺伝によって決まる。初代が何のARMSに目覚めたかで子孫のARMSはほぼ確定する。でもぼくのうち、ムジカカ家にはぼくのように、まるで異能が変異して発現したかのような者がたまに現れる。
友人のナカジマ家は代々絡新婦のARMSで医療系のエキスパートだ。イムソニア家はぬっへほふの家系で異様に強い体を所持している。ミシマ家は化けダヌキの家系で変幻自在に姿を変える。
イムソニア家の初代当主はのっぺら坊のARMSだったって話だけれど、ぼくが知らないだけで変化しているのかもめ。
鼻歌交じりに高層マンションを漁るよー。高層マンションはもう危ない所でね。なんかね。窓は割れているし風は吹き抜けるし、高いし、上るのも大変なーのだ。たまにガラスが落ちて来るのだけれど、マジ危ない。下にいたら月に帰るはめになるかんね。
そしてこういう所ってワインとか高そうな物や鳥の住処になってる可能性あるんよー。ワインとかめっちゃ喜ばれるんよね。だってもう作れる人がいないんよーこれが。ウィスキーとかーね。
ぼく達探索者が街を漁る理由はこのボーナス狙いだ。コーラは諦めて。
空に近いほど空神を恐れなければいけない。別名摘まみ神。空神は人間をひょいって摘まむ。摘ままれるとどうなるかって、何処かへ降ろされる。何処に降ろされるかってそりは空神の気分次第だーよ。
瘴貴石にもグレードがあってーね。デンドリが入っていないとゴミだーよ。そこら辺に生えている瘴貴石はどれだけ透明で大きくても飾りにしかならないらしい。
デンドリって言うのは内部に植物模様が入った瘴貴石の事なん。妖魔の元になっている瘴貴石にはこのデンドリが入っている。
「おっほー」
なんかよくわからないけれど1992年って書いてあるワイン見っけたから持って帰りゅー。ぶるごーにゅって書いてありゅ。リュックに収めます。アニメのDVDとかドラマのDVDとかも喜ばれるんよねー。うちも好きなん。
天狗もいるんよねー。左手を翳すんよー。遠近法で。包み込むように――。
手元には天狗の力が。そして天狗はトビへと姿を変えました。これがシーズだ。
ぼくは別に天狗の力なんていらないので力は奪えます。
瘴貴石はぼくの欲しいものだから掴めなーいよ。でも天狗の力は別にいらんから掴めるーよ。そして力を失った天狗がトビへ変わったので、力の源である瘴貴石も地面におちるーよ。それを拾うーよ。
天狗を月へ帰すのはお勧めしない。空神って大天狗なのではって話だからね。こわこわ。石を拾ったら力は返すよー。よわよわ天狗君になってしまったけれど、強く生きて――あ、ダメだ。他の妖魔に食べられちゃったわ。弱肉強食なん。妖魔って。
端末からマップを開いて物資の位置を視認。ステップで地面に降りるのが一番怖いまであるおね。ぴょん。地面です。みたいな。地面です。
物資は基本的にそこら辺に放置されている。コンテナに入っていて開けるのが人間だけって言うね。だからその辺に落として放置しっぱなし。中には食料とかテントとか入っていて、コンテナのコードを読み込み認可されたら使っていいんよ。
グレードがあって探索者の階級によって使用できるコンテナが異なる。
端末をかざすとロックが解除される――コンテナの中へ入ると物資が無造作に放置されていた。人の出入りの痕跡がある。ここ個人差でるおね。ゴミとか放置していく人おるん。ダメダメだーよ。丸まったティッシュとか放置していく人おるん。
携帯固形食料の袋を一つ引っ張り出して口に咥える。もにゅもにゅ。うちこれ好きなん。芋のレーションなん。超ねっとりした焼き芋みたいな味がするん。でも市販していないっていうね。なんなの。だから一個貰っちゃうもんねー。もにゅもにゅ。
もにゅもにゅしながら端末ポチポチ。牛頭と馬頭が近くにいるけれど誰か戦闘中やんね。
リュックを置いてガシャドクロの方へ歩みを進める――ガシャドクロさんは大きな髑髏の人型妖魔だ。詳しくない。ぼくってあんま戦闘得意じゃないん。ステップを繰り返しぴょこぴょこ。
ARMSは瘴気の中だと元気になるおね実際。
ガシャドクロさんおっすおっす。視認――掌握。力を奪い。傍へ行き。石を奪って。力は帰す。強く生きてクレメンテ。最近さー。悩むんよね。結局弱った妖魔は他の妖魔の餌食となって月へ帰ってしまうんよー。それならぼくが月に帰してあげるのが筋なんじゃないかなーって。
ガシャドクロさんの瘴貴石は拳大の大きさだった。しっかりとデンドリが入っている。イイねが付きそうだ。やったぜ。
瘴貴石を失い力を取り戻せないガシャドクロさんはただの骨になってしまった。ごめん。これは別に餌食になりそうにない。大丈夫そうだった。悩んだ時間を返して。妖魔ってよくわからないんよー。帰るよー。
妖魔には人の役に立つのもいるん。泥田坊とか田んぼの管理して貰うと非常に助かるん。座敷童とか無害で可愛いん。
本日の営業は終了しました。
帰りもチョー電動リニアだーよ。もっとゆっくり列車に揺られて眠りたいぜよ。座席が温くて柔らかくて眠くなるんよねー。
オーロラを通過する時、炎がぼくの体から何かをひっぺ替えしてしまう。これは余分な瘴気なのだそうだ。瘴気にも濃度と良し悪しがあるのだとか。
機構へ到着受付へ――。
「はい。これよろしくー」
『まず端末をこちらへ翳して下さい』
端末を翳し、カウンターにリュックを持ち上げて乗せる。
『おかえりなさい。ムジカ様。お預かり致します。査定には少々お時間を頂きます。査定が終わりましたらお呼び致しますので席にてお待ち下さい』
「よろよろー」
端末がピロピロ鳴り始めたので眺めると妹からめっちゃメールと着信来てた。うっふ~んって返しとこ。返信はやっ。めっちゃ怒りマークつけられたん。
炎の外は電波が通じにくい。メールなどの機能は一律デフォルトで停止される。通話もあまりお勧めできない。外では基本的に近場の端末同士の電波しか受信できないからだ。電波の乗り継ぎがおこるんよ。これはもうどうしようもない。感度の高い鉱石端末はある。でも高いんよ。200万とかするん。壊れるかもしれない物に200万はちょっとね。
それから十分ほど、ワインは飲めたなら200万だったけど中身お酢だって言われた。どういうことなん。瓶がビンテージで5000円ぐらいになるって。瘴貴石は120万ぐらいで引き取って貰えた。たかかったー。
『現金でお受け取りなさいますか?』
「端末決算でよろー」
『承りました』
でも税金で半分取られるん。医療保険とか年金とかでさらに三分の一ぐらい取られるん。あと私の学費と妹の学費と将来の妹の学費のための貯金……で残りは14万8000円だって。一日の稼ぎとしては良き良きだけれど、命をかける価値があるのかと言われたらぶみょ。
うちは便利なARMSだからいいけれど、他の人はこうはいかない。
外は雨が降っていた――。傘持って来てなーい。
「お姉ちゃん‼」
「うっふ~ん」
「怒るよ?」
「なんでよー」
妹が迎えに来てくれて超ハッピー。傘に入って一緒に帰るよー。でもどうせ路面電車に乗るけどね。
路面電車に乗り込んで――落ちるような感覚に見舞われる。光に包まれて。着地した先には見知らぬ人達がいた。まーた異世界召喚だよ。
「勇者様方‼」
ぼくの他にも三人ぐらい人がいたん。早く帰らないと妹がキレそう。でも異世界召喚はメリットもあるんよねー。
「ここは……?」
言葉は通じそう。
「勇者様方。どうか我が願いを聞いて下さい」
「聞くから早く言ってー」
「どういう事だよ‼」
「ここ何処!?」
「落ち着いて下さい勇者様方。私はこの国の」
「そう言うのいいん。魔王がおるん?」
「え? あのっ。えっと。エルフ?」
「魔王がいて大変なん?」
「実はそうなのですが……」
「地図見せて。魔王何処なん?」
「え? いや……え?」
「早く地図見せるん。夕飯までには帰るん」
「君は……なんなんだ」
「ねぇ? 私達は? 早く帰して」
「ちょっと待ってるんよー。すぐ終わるけん。ここね。じゃあ、ちょっと行ってくるん」
「え?」
ステップで窓の外へ飛ぶ。窓の外から空へ飛ぶ。空の上から目視で位置を決めてステップを決め込むん。ちなみにステップは見えるなら透過できるん。空間移動だってはっきりわかんだね。
魔王城は結構遠かったん。二時間ぐらいかかった。これはもうあれだね。妹ブチ切れ案件だね。夕飯がね。夕飯が甘辛カレーから激辛カレーになるね。うわぁ……。明日お尻が大変なん。
ゴーストウォークを使用して魔王の城へ潜入するん。大体偉そうな所にいる。いたわ。手を翳す。シーズで魔王を包み込み――魔王から力を奪う。魔王がゴブリンみたいな感じになったのん。これで終わりなん。終わったから帰るん。
魔術テンペスターレ使ってもいいけれど、テンペスターレ使うと辺り一面に暴風雨とトルネード発生するし、星は落ちてくるしでこの辺り一面が焦土と化すん。
うちこれでも一応エルフなん。エルフは魔力があれば高度な魔術が使えるん。人間が召喚使えるならエルフも使えるん。帰りは魔術空間踏破使うん。一瞬で城まで戻れたん。
「ただいまー」
「え?」
「もう終わったん。魔王はよわよわのよわになったから後は自分達でどうにかして欲しいん」
みんなでご飯食べている途中だったみたい。スプーンからスープが零れているよん。唐突に現れてごめんご。
「三人とも送り返すよー」
「え?」
「ほほいのほい」
魔王の魔力で三人を元の世界へ送り返すんよ。
「ちょとまって‼」
空間に穴が開いて三人が消えたん。元の世界に戻ったんよー。
「それじゃ、うちも帰るん」
「おっお待ちください‼」
「後は自分達で戦うんよー。果物もらっていくん。穀物の種子とかあったら欲しいん」
「あっ、はい。多少はありますが……あの? 本当に? こんな簡単に?」
「もし何かあったらまた召喚するん。うち、ムジカって名前なん。うちの顔をよく見て女神様にお願いするん」
王女様の頬に口付けをして魔力痕跡を残す。
「えっ。はい……んっ。なっなにを‼」
「バイパス作ったん。穀物の種と果物貰っていくん。じゃあ、ばいばい」
空間を超越するのって力を使う。大体魔王の魔力でイーブンになる。これが異世界召喚のミソなん。魔王を倒すと魔王の魔力を使用でき、その魔力を消費すると元の世界へ帰れるん。本来その術式は神様しか知らないけれど、でもぼくは知っている。何でって異世界召喚はこれが初めてじゃないから。世界にはいっぱい異世界があるん。うちは元の世界に戻るための魔術が使えるん。でも自分からは異世界にいけないんよ。あくまで召喚されないと。
元の世界へ帰って来たのん。魔力がすっからかんになってしまったのでもう魔術は使えないんよ。降り立ったのは乗り込んだ列車の位置だった。元の世界に戻った途端に端末が震える。妹から怒りのお小言とナカジマから50通ぐらい無視するなってメールが来ていた。
端末で妹と通話。呼び出しコール。1、2、3。
『お姉ちゃん‼』
「ごめんごめん。今から帰るよ」
『何処にいるの⁉』
「さっきの列車のとこ」
「いたっ‼」
駆けて来た妹を抱き留める。
「もう何処行っていたの⁉」
「ちょっと異世界まで。ずっと待ってたの?」
「そうだよ‼ 急にいなくなってびっくりしたんだからね‼」
「ごめんごめん」
魔王の力なんていらないから妹にあげよう。まぁこの世界には魔力が無いので魔王の力なんてあっても何にもできないけれど。車はあるけどガソリンが無い状態なん。妹の能力ちょっとすごいかもしれないん。色々付与してるん。
「ちょっと冷えて来たね。大丈夫? 寒かったでしょう?」
「寒かった‼」
「それじゃ、帰ろうか。はい。これお土産」
「……果物? 種?」
「庭に植えて育てるんよー」
「またぁ?」
これがぼくの日常だ。後で機構にも果物と種を提出しよう。異世界の食べ物で日常を潤していくんわよー。




