予想外の来客
※本文は完全に創作になります。
実際の地名や人物、団体とは一切関係ありません。
道を歩きながら、
依頼書とにらめっこしている。
「まずはこの男の情報を
集めることからやるか。」
そういうとルイスが感慨深そうに、
頷いている。
「王宮を出たばかりは、
何一つできなかったあなたが、
まさか優先順位をつけられるようになって、
仕事までこなせるようになるなんて…。」
なんて失礼なやつなんだ。
さも喜ばしいことだと言わんばかりに
笑ってはいるが、立派な名誉毀損だ。
「お前、俺が今も王太子だったら
王族批判で処刑してたぞ。」
まぁやるわけないけど。
依頼書には、この不審者の目撃情報と
その不審者が見かけられた地域が
記載されていた。
「とりあえず、目撃者に話を聞きに行こう。」
この目撃者は依頼者と同一人物のようだ。
話を聞きに行くべく、
記載されている情報を頼りに歩き出した。
「あー、ミクロンさんのお宅?
あの角を左に曲がって
まっすぐ行ったらすぐだよ。」
道中人に道を尋ねながらたどり着いた場所は、
街からかなり外れの一軒家だった。
「ほんとにここで合ってるのか?」
何度も依頼書を確認したが、
どうやら間違いなさそうだ。
家の前まで行き、ノックをする。
…しかしどれだけ待っても
人が出てくることはなかった。
「お留守なんですかね?」
スフィが周りを見渡しながら呟く。
「真昼間に来たのが行けなかったのかなぁ。
今の時間、普通の人なら仕事してるよなぁ。」
どうしたもんかと立ち往生していると、
後ろから声をかけられた。
「あんたたちそこで何してんの。」
振り返ると、仏頂面の女性が立っていた。
「ミクロンさんなら、畑仕事に行ってるよ。」
それだけ告げると、
どこかに去ろうとするのを慌てて引き止めた。
「ま、待ってください!
ミクロンさんはどこで作業してるんですか?」
振り返った女性は、
迷惑そうにこちらを睨みつけてきた。
「仕事だって言ってんのが聞こえないわけ?
あんたたちもしかしてあれ?
例の誘拐犯?」
とんでもない勘違いをされそうだったので、
依頼のことと、ミクロンさんが
その目撃者であることを話した。
「…私、その不審者見たかも。」
依頼書を見せていると、
女性が突然そう呟いた。
話を聞くと、女性も畑仕事をしているらしく
ミクロンさんとは作業場が近く
よく話す仲なのだそうだ。
「私が見たのは、一昨日かな。
畑仕事の最中に空を飛ぶ変な影があってさ。
鳥にしてはやけに大きくて、
珍しいなと思って目を凝らしてみたら
なんと人だったんだよ!
しかも箒に乗ってさぁ!」
少し興奮気味になりながらも、
面白い目撃情報を教えてくれた。
「ありゃー多分おとぎ話に出てくる魔女だよ!
きっと件の行方不明も
おっかない魔女がやってるんだよ!」
少し主観も入っているが、十分だ。
目撃した場所を教えてもらい、
その女性とはその場で別れた。
「…それにしても魔女か。
………まさかとは思うけど…。」
ちらっとルイスを見ると
同じことを考えているのか、
険しい顔をしている。
嫌な予感がするな。
少し歩いた先で、例の目撃場所に着いた。
あわよくばミクロンさんに
会えないかと思ったが、
どうやらいないようだ。
少し探索してみたが、
ここは特になんの変哲もない畑のようだ。
「これは無駄足になったかもなぁ。」
見渡す限り、のどかな田園風景だし、
そもそも行方不明者のほとんどが
中央の市街地にいた。
ここの不審者情報自体、
同じ件だとは考えにくい。
依頼者が言っていた、
話しかけられた人が消えたという話も、
被害妄想なのかもしれない。
「仕方ない、帰るか。」
これ以上進展がないと割り切って、
その場を立ち去ろうとした
その時───────
「あらぁ〜、皆さんおそろいじゃない。」
その場の空気が変わった。
風が止まり、草がざわついている。
───嫌な予感がする。
突然空から降ってきた聞きなれた声に
思わず振り返った。
「……お前、なんでここにいる。」
箒に跨り、魔女のような風貌をした女が
空に漂っている。
見間違えるはずもない。
あいつは、かつて父の持ち手だった
クラブの”デュース”
「テティア!!!!」
あの事件の時、現大富豪から奪われた
スーターの中にあいつが含まれていた。
ということは、目の前にいるのは、
かつての旧友ではない。
現大富豪の刺客!
すぐにルイスが俺に駆け寄り、
臨戦態勢をとった。
「ひどいわねぇ〜。
昔一緒にご飯食べたじゃない。
私、あなたのおしめも
変えたことあるのよぉ〜?」
図々しく首を傾げているテティアに
問いかける。
「一体何しに来た。
まさか、懐かしくなって会いに来たなんて
バカバカしいことは言わないよな?」
そう挑発して見せるも、
テティアは動じる様子もない。
「本当はそうしたいところなんだけどねぇ〜。
あいにく今回はそうじゃないのよ〜。
私のマスターから伝言♡」
この相手に媚びを売るような言い方に、
不覚にも懐かしく思ってしまう自分が
妬ましい。
「『大人しくスペードのデュースを明け渡せ。
さもなくば貴様のスーター共々みな殺しだ。』
だってぇ。
今日は警告しに来たのよお。
どうする?今ここで明け渡せば、マスターは
見逃してあげるって言ってるけどぉ〜。」
「マスターマスターって、
お前のマスターは父上だろ!!!」
そう叫ぶとテティアは目を細めた。
「前大富豪様ね〜。いい人だったわぁ。
惜しいことをしたわよねぇ〜。」
共感するような素振りを見せるテティアに
腸が煮えくり返る。
殴り掛かりたい衝動を必死に押さえつけた。
スーターはマスターに絶対服従だ。
だからテティアが現大富豪に逆らえないのも
仕方がない。
しかし、この言い方はないだろう。
少なからずこいつも父の世話になったはずだ。
今にも怒鳴り散らしそうな俺を見たのか、
ルイスがすかさず間に割って入った。
「私は絶対にレリオン様のお側を離れません。
そちらのマスターにそうお告げください。」
ルイスがテティアにそう返すと、
あたかもすごく残念そうな顔をした。
「あらほんと、残念だわぁ〜。
みんなの顔もここで見納めねぇ〜。」
今すぐにでも、戦闘が始まりそうな雰囲気に
スフィも声が出ず、足がすくんでいるようだ。
心做しか呼吸も浅くなっている。
全員が身構えているとテティアが口を開いた。
「まぁ、今日は警告に来ただけだからぁ〜。
私のおかげで少しだけ生き延びられることに
感謝してねぇ〜。」
そう言い残すと、箒に跨ったままふわりと
またどこかに飛んで行ってしまった。
緊張していた空気が解けると、
その場にへたりこんでしまった。
「レリオン様!大丈夫ですか?」
正直、あれだけ啖呵を切ったはいいが
今この場で戦闘が起きたら
危ないところだった。
相手のマスターがいないこの場所で、
戦闘なんてしよう物なら俺はルイスの
足手まといになってしまう。
少しして落ち着いてから考え直す。
今回テティアが来たのは
きっと偶然じゃないだろう。
この行方不明者が多発している話は、
確実に大富豪が絡んでる。
何故?どうして?疑問ばかりが頭に浮かぶ。
テティアが去ったあとも
黙り込んでいる俺を心配したのか
ルイスが話しかけてきた。
「レリオン様、ひとまず今日は帰りましょう。
依頼者にはギルドを通して
時間を空けておいて貰えば、
次来た時に必ずお話が聞けますよ。」
宥めるように背中をさすり、
ルイスは顔を覗き込んでいる。
その後ろでスフィも心配そうに見つめている。
「…そうだな、とりあえず帰ろうか。」
結局なんの収穫もないまま、
ただ不安な気分を抱えて帰路に着いた。
第5話を読んでいただきありがとうございます!
新しく登場した『クラブのデュース』、
最強格に近い強敵が現れて今後どうなっていくのか。
先の展開を考えていると、
自分でもワクワクしてきます!
よければ続きも読んでいただけると嬉しいです!




