第20話『大地が捉えたわずかな“ズレ”』
ヴェロークの輪郭が揺れる。
まるで蜃気楼のように、立っている位置すら曖昧だ。
ガルザスは足裏で大地を“聴く”ように立ち、目よりも感覚を優先して動く。
「来い。」
ヴェロークは応じるように、無音で距離を詰めた。
次の瞬間──
拳がすり抜ける。
「またか……!」
ガルザスの拳は、確かに届く軌道で振るわれた。
だが、ヴェロークはそこに在りながら少し先の位相にいた。
「当たらぬ。」
淡々とした声だけが耳に残る。
ガルザスが舌打ちし、次の攻撃に備える。
遠くで、雷光が乱れていた。
「チッ……こっち来いって言ってんだよッ!」
ライゼルが放つ雷は、イェルダに方向を書き換えられ、正面に飛ばない。
背後へ逸れ、横に曲がり、さらには地面に落ち込む。
イェルダの回転は止まらない。
「歪んでいる。お前の雷も、動きも。正しい流れに戻せ。」
「戻さなくていいんだよッ!!」
ライゼルが吠える。
雷の勢いは増すが、狙いが定まらない。
ルナリアは、目の前のシェルヴァを見失いかけていた。
「また消え……違う、そこ!」
シェルヴァが立っていた場所は、確かに“さっき”ルナリアが見ていた場所と違う。
影がざわざわと乱れ、ルナリアの集中を奪う。
シェルヴァは優しく笑う。
「あなた、さっき……もう少し右だったね。本当は……どこに立ってるつもりだったの?」
「うるさい!」
だが、影が揺れ続けて、思考が乱れる。
リュミエルは、ネザリオの“遅れてくる痛み”に困惑していた。
拳を構えるが、ネザリオの動きは遅すぎて逆に読みにくい。
その手がゆっくりと上がった瞬間──
「っ……また来た!」
胸の奥がズキリと痛む。
ネザリオは薄く言った。
「未来の欠片が……遅れて落ちる。」
リュミエルは歯を食いしばる。
セリオスは、何も“視えない”まま戦っていた。
「……ッ、方向が読めん!」
ラグド=オラは一歩も動かず、ただそこに存在するだけでセリオスの観測を遮断している。
「視る必要はない。」
未来が読めない戦いは、セリオスにとって最悪の状況だった。
そんな中──
ガルザスだけが、一歩踏み込んだ。
「大地は……嘘をつかない。」
ガルザスは拳を下ろし、代わりに足元へ神気を流し込む。
地面の硬さ、揺れ、震動……
それらが別の位相にいるヴェロークの影を微かに捉えていた。
「ほんのちょっとでいい。」
ヴェロークが揺らいだ瞬間──
「そこだッ!!」
大地ごと拳を押し出す “踏破打” を繰り出す。
拳が掠めた。
ヴェロークの輪郭が一瞬だけ──歪む。
無敵だった虚位相に、初めて揺らぎが生まれた。
ヴェロークが声をわずかに落とす。
「……触れた、だと?」
ガルザスは口角をわずかに上げた。
「当たらないなら──当たるまで殴る。それだけだ。」
ヴェロークの輪郭が大きく揺れた。
初めて、敵の驚きが空気に走る。




