表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場に咲く一輪の華。それは悪役令嬢です【連載版】  作者: 華洛
EXTRA STAGE[1] アデル・デュラハン討伐作戦
32/32

06 悪役令嬢は再び押し付けられる(EXS1/終)



「全身大火傷及び複雑骨折多数。臓器破裂。ふん。儂がいなければ死んでたぞ」


「……あり、がとう、ございます。キリディア様」


 あと一振りで殺す事ができそうになった直後。

 突如豹変した姉。言われるがままに光の魔法による光速移動をした。

 その結果は、私は光速で地上に激突。生死を彷徨うことになった。


「あの。私は、どれぐらい、静養する必要があるのでしょう」


「リハビリを含めた完全回復は14日後だ。傷自体はもうほぼ完治している」


「……リハビリ?」


「『光』の魔法をきちんと使用する為のだ。人間の精神は脆弱だからな。瀕死になったことで、魔法の使用に対して心的枷ができている可能性がある」


「キリディア様も、そうだったのですか?」


「知らん。そんな昔の事は、忘れたわ」


 不機嫌そうな雰囲気を醸し出しながらキリディア様は、私が寝ている病室から出て行った。

 1人になった病室で、私は溜息を吐いた。

 また姉を殺し損ねた。今度こそはやれると思ったのに。

 「光」の魔法印を手に入れた。攻略対象者3人の魔力を得て姉を上回っていた。なのに殺す事が出来なかった。

 後は、何が足りないのだろう。

 そんな事を考えながら、私の意識は眠りに落ちていった。





//////





 最前線基地の少しだけ手前にある街、フォーレニア。

 路地裏にある寂れた酒場。カウンター席しかなく、椅子も4席しかない。

 そんな酒場に、帝国軍軍師アルベルト・ノイマンと、帝国第二皇子ジークベルト・ドラウス・ストラオスが隣同士で座っていた。


「なぁ、アルベルト。アデルが好きな物はなにか分かるか?」


「――敵兵の頸だろ」


「おい。お前は好きな子が、敵兵の頸を持って「好きです」なんて言ってきたらどうする。引くだろ。下手な犯罪者よりサイコパスだ」


「普通はな。アレは普通じゃないから、意外と好感度があがるかもしれないぞ」


「――……」


「――冗談だ。本気にするなよ。帝国の第二皇子が、敵兵の頸を刎ねて、それを持って告白とか、帝国史に残る汚点だぞ」


「それじゃあ、軍師らしく、知恵を貸してくれ」


「俺の知嚢は戦の為にあるのであって、恋愛についてではないのだけどな」


 グラスに入った丸い氷を転がしながらアルベルトは溜息を吐いた。

 アルベルトとジークベルトは幼馴染みであり、「断金の契り」を交わすほどに仲がいい間柄である。


「ジーク。なんでアデル少佐に好意を持つんだ。報告を受けているが、考察されかけたんだろ」


「ああ、そうだ。俺を見る、あの獰猛で爛々とした眼! 最高だったッ」


「……お前にM気質があつたとはしらなかったぞ」


「人を変態みたいに言うな」


「頸を絞められて惚れるというのは、俺の常識からすればまちがいなく変態の域だ」


「……別に頸を絞められたからでは無くてな? あの眼に惚れたんだ」


「眼。星神眼か?」


「いやいや、神に斉しい虹色の眼ではなく、あの血のように紅い眼のほうだ。ああ、今思い出すだけでも、あの眼で見られているだけで興奮する」


「お前の感性だから文句をいうつもりはないが……。ただ、『運命の人』などと言って部隊の攻撃を強制的に止めた事については文句を言わせて貰うぞ」


「アレは……すまなかった。俺自身も、分からないんだ。敵兵である彼女の姿を見た瞬間に、躰に電流が流れ、一目惚れをしてしまった。そしてその衝動で第二皇子としての名を使い部隊の攻撃を止めるように命令してしまった」


 声のトーンを落とし、心の底から反省しているようにジークベルトは言った。

 帝国第二皇子ジークベルト・ドラウス・ストラオス。

 この世界と似ている乙女ゲームのDLC。王国で攻略対象者と誰とも結ばれなかった世界線で、帝国に留学したヒロインと結ばれる帝国側攻略対象者の1人である。

 ただし、このDLCを知る者は開発会社の担当者ぐらいしかいない。

 DLCを配信する前に、本編の売上げが不調の為に配信が中止。そのため攻略本や設定資料集にも載らずに消えたキャラであった。

 それでも設定はあり。それは運命という形で世界の人に影響を与える。


「今は何度思い出しても、なんとも感じない。なんであの時に、あんな言動をしてしまったのか。本当に不思議なんだ」


 運命にも強弱がある。

 きちんとゲームという形で出た王国攻略対象者の面々と、開発中止になったDLCの帝国攻略対象者の面々とでは、運命の強制力による強弱は言わずもがなだ。


「もう大丈夫だと思うんだ。だから、アデルの部隊――ワイルドハント部隊に所属の許可をくれ。今は中央には居たくないんだ」


「……皇帝陛下はそんなに悪いのか」


「――――オフレコだぞ。今日明日どうこうの体調じゃないが、一年二年先となると分からないな。お前なら分かるだろ。優秀な兄姉がいるのに、比べられ担がれる凡人の気持ちは」


「ああ。少しは、分かる」


「生まれる場所は選ぶことは出来ないが、死に場所ぐらいは選びたい。中央で謀殺されるよりは、前線で帝国の為に戦い死んだ方が――マシだ」


「前線でも謀殺はないとは限らないぞ」


「……どんな死に方でも、好きな人の側で死ねるのなら、それでいいさ」


「……義兄弟の誼だ。少しは協力してやる」


「ありがとうな、義兄弟」





//////





「と、いうわけで、ジークフリード殿下は当面の間「ワイルドハント」に所属する形となった」


「いえ、ちょっと待って下さい。意味が分かりません。どういう経緯でそうなったんですか! 私は断固拒否します!!」


「これは上からの命令だ。アデル少尉。お前も帝国軍人なら分かるな?」


「~~~~ッァァ! 軍人なんて、なるものじゃ、ないですねッ!!」


 それは王国帝国両方に共通してるなぁ。イヤな共通点だ。

 でも、攻略対象者は私にとってヒロインと同等の天敵。それが私の近く、それも部隊に所属するなんて悪夢としか言い様がない。

 絶対に拒否したいけど、アルベルトさんが言った通り私は帝国軍人。ただの軍人だ。上官から命令されたら素直に従う駒。

 ――まだ王国軍に突撃しろって命令がマシに思える。


「アデル少将。左目に眼帯をしてるが、負傷したのか。特に報告は受けてないが」


「負傷はしてません。ただ、私生活を覗き見されるのはイヤなのでつけているだけです。任務中は外しますので、心配無用です」


 眼帯を取り眼を見せる。

 何時もは紅い眼だけど、感情が高ぶったとき等は虹色の眼になるらしい。……いつ眼を通して見られているか分からないので、自衛のために眼帯をつけることにした。

 本当、転生してからの人生は最悪の一言。

 カルトの神を斃してから、良い事なんて何一つしてない。今や神が現世に降臨するための素体扱い。

 これも全て「光」の魔法印の封印を解いた愚妹の所為。魔法印が1つでも封印されていれば、亜空間に封印されている星神は熟睡している状態だったというのに。

 攻略対象者と修羅場になって刺されて死んでくれないかな。


「……1つお願いがあります」


「なんだ」


「戦線移動をお願いします。「ワイルドハント」隊は、対王国戦で二回も敗走しています。これは士気にも関わるので、他戦線に移動して、気分転換をしたい所存です」


「……戦線移動して気分転換したいというのは、少将ぐらいだな。まぁ、いいだろう。上に掛け合ってみよう。当面。こちらの戦線は動きそうにないからな」


「ええ。お願いします」


 攻略対象者をヒロインと会わせるのは、私の死亡フラグが立つのが目に見えている。

 他の戦線に移動して、過酷な訓練をすれば、所詮は中央の温室育ちの第二皇子。根をあげて自ら除隊してくれるハズ。

 そうなってから王国戦線に戻り、今度こそ愚妹をぶち殺せば問題ない。

 よしっ。いやな押し付け方だけど、希望は見えてきた。

 この最低な世界で、私は絶対に生き残って、寿命で死んでやる。

 私は私のものだ。神なんかの自由にさせてたまるか!





 

 第二皇子ジークベルト・ドラウス・ストラオスは、アデル・デュラハンの過酷な訓練

に耐えて、『ワイルドハント』に欠かせない人員になるのは、この一ヶ月後のことである。




EXS1を見ていただきありがとうございます。

年内になんとか終わらすことが出来ました。

……もう少し早めに投稿できると思っていたのですが、色々と忙しく、年末のこの時期になりました。


まだ未定ですが、次があるなら、今回登場しなかったクロエや、アデルが買った奴隷姉妹、白月と黒月も出せればと考えてます。


「続きが気になる」「面白い」など思っていただき、感想や評価等いただけると励みになります。


第一章から一気読みされた方。EXSから読まれた方。

ここまで読んでいただきありがとうございました。m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ