↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/6

春香る暴風

いらっしゃいませ。


「ねーねー、聞いてよゆーちゃん」


「何」


「昨日友達とホームセンター行ってきたんだけどさ」


「ほーん…えなんで?」


当たり前です、と言わんばかりにサラッと言ったが、女子高校生が放課後友達と行く先がホームセンターだなんてことがあるだろうか。


「え?ほら、今週末の」


「あー」


そういえば今週末に共同探究の授業があったな…とそこまで考えて引っかかる。


「…早くね?」


「え?」


「まだ授業一回しかやってないぞ?」


「うん」


「班決めして、とは言ってたけど」


なぜ水帆はこんなにも「当たり前だよね?」みたいな顔をしているんだろうか。


「…まー、万年宿題未提出のゆーちゃんにはわかんないんじゃない?」


「そういうもんなのか?」


水帆が自信満々に頷こうとした瞬間、


「違うぞ?」


「え?」


見れば水帆の背後から実平が顔を覗かせていた。


「なんでサラッとあたしの背後とってんのよ!」


水帆が一瞬にしてトゲを実平に向ける。


「おめーが隙だらけだから」


「はぁ?!」


「まあ確かに」


「うぇ?!」


いつもは実平に同意などしたくないが、今回に関しては同意せざるを得ない。



「ゆーちゃんまでそんなこと言うの?!」


「えー、だってまあ隙だらけだし」


「……」


「まあそんなことはいいとして」


実平がニヤニヤとしながら口を開く。


「別に今始めてるのは普通じゃないからな?」


「まじかよ」


水帆に目を向けると実平を睨んでいる。


「…ちっ」


「あれま、水帆ちゃんは当たりがきついですねぇ」


「ちゃん付けやめろキモい」


なぜかは本当にわからないが、水帆と実平は喧嘩ばかりしている、気がする。


まあ喧嘩するほど仲がいい、とも言うし。


そこまで思ったところで、


「仲良くないからね?」

「仲良くないからな?」


と二人に同時に釘を刺された。


「うぇっ?!お前らエスパーかなんかか?」


そうツッコむと、


「え、いや、なんか生ぬるーい目線が…」


「あんま同意したくないが同じくなんだよな、なんか、ぞわわーってなるわ」


二人して酷いレビューをつける。


「ひどいなぁ」


しかしやっぱりなんだか、勘でしかないが、実は仲良しな気がする。

本人たちも気づいてはないんだろうが。


「でも実際そうだったぞ?なんか正月にじーちゃんばーちゃん家(ち)行ったときに兄弟喧嘩した時の目線って感じ」


「…はぁ」


言われてもいまいちピンと来ない例えだ。


「ともかく、こんな時期から準備してるのは普通に早いからな」


「だよなぁ」


そこで水帆が不満を言う。


「んでなんでそんなことを急に言い出すのよ?」


「あ?」


「だから、なんであんたが急に」


「だってこいつがそれに釣られて早く準備始めたた俺も手伝わなきゃならねぇじゃねぇか」


「…はぁ」


「あ、利己心だったんだ…」


実平のなんとも言えない理由に呆れてどうにも言葉がでない。


「ま、とにかく、急がなくていいからな」


実平はそうこちらを見て念を押すように言った。


「あいよ」


まあ自分は元から計画的に進めよー!なんていうタイプではなく、なんならギリギリで間に合わせようとして失敗するぐらいなのだが。


そこまで言って実平は満足したのか、そのまま男子の輪に戻って行った。


その後ろ姿をしばらく追って、ぱっと水帆に目線を戻す。


「まーとりあえず、すいが真面目だってことはわかった」


「わかればよろしい」


水帆はふんす、と誇らしげに言った。



「…で!そうそう、ホームセンターに行ったんだけどね」


「うん」


「なんかよくわからない灰色のプラスチックのパイプとか、見てるだけで刺さりそうななっがい鉄の棒とか、そういうのばっかで」


自分は心の中で、塩ビ管と鉄筋だろうな、と思った。


「よくわからないものだらけだったからさ」


「うん」


「何も買えなかった」


「うん……ん?え?買えなかったの?」


思わず驚いて水帆を注視する。

店員なりに聞けばいいのに、と思ったが、それとも別に理由があったのだろうか。


「…え?」


水帆もまた、自分のそんな反応に驚いたのかこちらをじっと見る。


「「…」」


偶然とはいえ目がしっかりと合ってしまい、どいにか逸らそうにもすでに双方とも互いの瞳に視線は釘付けになっていた。


決して特別近くにいたわけではなく、普通に席の前後ぐらいの距離は離れていたが、なぜだか水帆の息遣いが聞こえる気がした。








そのまま10分が経った。


どちらとも一言も発さない。


視界の端に映る蛍光の照明が、ちかちか、とチラついて見える。


最初の2分ぐらいは至福だな、などと悠長なことを考える余裕があったが、5分を超えてくるともはや眼球が限界を迎えていた。


実のところ、全くまばたきをしないわけではないのだが、極端にしばたく回数が少ないために眼の水分という水分が飛んでいたのだった。



が、その一方で、かねてから綺麗だと言っていた水帆の造形美をこうしてずっと真正面から見せられていると、どうにも理性がぐずぐずに融けはじめている気がしてならなかった。


現に、自身の体温は高くなり、手がぷるぷると震えている。


こんな冷静な思考も、徐々に情欲に支配されていくのかもしれない、と思ったとき、どうにかしなければという考えと、それに対抗してこのまま融けきってしまおうという相反する考えが頭にもたげた。


改革(どうにかしたい)派は「ここで踏みとどまらなければ将来後悔することになるかもだぞ?!それに公共の場だ!」とド正論をかましてくる。その通り過ぎてぐうの音もでない。


一方の保守(このまま融けたい)派は「そのまま二人で沈み切ってしまえばそこは幸福の世界だぞ!人の目?気にすんな!」と甘い誘惑をしている。目の前に甘露が滴り落ちていくのを見て心が躍らないものなどいないだろう。



(あぁ、僕はどっちを選べばいいんだ……)



しかし悩んでいる間にも保守派の政策は着実に進んでいる。早くしないとこのまま…!



「ねぇ」


…


「ねぇ」


…


「聞いてる?」

「ふぇっ?!」


はっと意識が戻ると、視線はそのままで水帆がぐっと近寄ってきていた。


突然のことに自分はあわてふためき、そのまま後ろに下がろうとしたが椅子に座っているためにそのまま椅子が後ろに倒れる。


「あっ!」


なすすべなくそのまま地面に倒れるかと思われたが。


ガン


机に椅子の背もたれが当たる音がした。


(助かったか?!)


が、不真面目な授業態度が仇となったか、机は倒れてくる男子高校生の体重を支えることはできず、そのまま倒れる。


(ま、まず)


次の瞬間、激しい音と共に背中に鈍い痛みが走った。




「うぅ…っ」


痛みに軋む身体を手で支えながら起こすと、席に座ったままこちらを見ている水帆が見えた。


そして、机の下も。


「……」


先ほどまで車のタイヤの如く回っていた頭が、瞬間的にぴた、と止まる。


些か自身で言うのは悲しいことだが、やはり自分の、水帆への想いは決して肉欲を離れているわけではない。


だが、無意識にと言うべきか、どうしてもそういう場面に出会った時に思考停止してしまうようだった。


「…大丈夫?」


心配と少々の可笑しさが滲んだ声色であった。


水帆はもうしばらく訊ねてから待っていたが、ようやく立ち上がりこちらに歩み寄ってきた。


「…こけた衝撃で意識飛んじゃった?」


冗談めかしてそう言うと、自分の肩に手をかけて軽く揺さぶった。


「おーい」


しかし自分は、どうにも思考することはできるようになってもなぜだか身体は動きそうになかった。


水帆は少し息を吐いて、今度は強めに肩を揺さぶる。


「おーい!」


水帆は一瞬小さく息を吸い、こちらの顔を覗きこむ。


「…大丈夫?」


その声音にはどうも震えそうな心配が混ざっていた。


しかしそうわかってもなお身体が動かない。


(本当になんか神経系やったか…?)


ほどなくして保健室の先生と担任に持ち上げられ保健室で寝かせられた。


「暁音くん、これ見える?」


「…」


確かに見えてはいるのだが、しかしどうしても言葉が出てこない。


「…んー」


先生は少し考え込み、しばらくして、「多分強い衝撃で一時的に神経の機能が麻痺しているだけだと思うから、リラックスすることが一番の解決策だよ」と言った。


自分は渋々、そこで眠ることにした(と言っても眠る以外できなかったが)。



コンコンコン、と戸が叩かれる音で目が覚めた。


あいにく、保健室の先生は今ちょうど用事があっていない。


ガラガラ、と戸が引き開けられ、数歩の足音だけがしてから、再び静かになった。


「…あのー」


その生徒、おそらく女子だろう、は少し大きい声で人を呼ぶ。

誰もいない、と伝えたかったがしかしやはり声は出ない。


しばらく保健室の中を探り歩く音が聞こえて、順々にカーテンが引き開けられていく。


そして、


「あっ」


カーテンを引き開けられ、窓から射し込む陽光の一部が乱反射し無意識に目を瞑る。


「あっ、いた!」


以前耳にしたような声がして、こちらにパタパタと駆け寄ってくる。


「調子はどうですか?」


気合いで瞼を開けると、そこには石見さんがいた。


「…」


しかしやはり言葉は発せられず、このまま話せなくなるかも、という不安が実感を持って押し寄せてくると、自然と喪失感が芽生えてきた。


だがそれと同時に、「本当に話せないのだろうか?」という気もしてくる。


人間にはよくありがちだが、できないと思い込んでやるとできないことがよくある。催眠術もその一種ではあるが、ともか思い込みの力は激しいものである。


なんてことで、もしかしたらただそれだけなのでは?という気もしていた。


しかし自分自身が「動けると思おう」と思ったところで、それを本当に思っているかは別問題なので、いずれにせよ解決策を思いつかなくてはならなかった。



「…話せたりもしないんですか…?」


わずかに目線で返事をしようとするが、石見さんがそれに気づいているのかはわからない。


石見さんはそのまま枕元まで来て、顔をこちらに近づけた。


「…演技…ですか?」


「…」


しかし自分が動かないのを見て、腕を組んで考え込む。


「んー…なんか演技っぽいんですけどねー…」


しばらくうんうん、と唸っていたが、しばらくのちに、ふと顔をあげた。


「……んー……」


そしてこちらの顔をチラリと見て、なぜか顔が赤くなっていった。


「………まあ、動けない…んだし…」


そう自分に言い聞かせるように言うと、再びこちらに顔をゆっくりと近づけてきた。


また何を言われるのか、などと思っていたが、しかし一向に止まる気配はない。


(…え?)


彼女は目を閉じている。


(ちょい待てちょい待ていやえどういうこと?!)


思考がしっちゃかめっちゃかになって、しかも体も動かないのでもうパニック状態である。


顔に影がかかる───その瞬間。



ガラガラッ


乱暴に保健室の扉が開かれる音がした。


こんな場面を人に見られたらろくなことにならないだろうに、驚いたせいなのかはいざ知らず、石見さんはその体勢のまま動かなかった。


そして、パタパタパタと駆け寄ってくる音と共に、ベッドを囲っているカーテンが引き開けられた。



「ゆーちゃ………」


水帆だった。


水帆は石見さんを見てそのまま固まった。


「…………え…?」


石見さんはようやくその体勢から水帆の方に向き直ると、また固まった。


「………えーっと」


最初に口を開いたのは、水帆だった。


「…………どちらさま……ですか?」


石見さんは少し逡巡した様子だった。


「……………石見、です」


「……石見、さん、えーっと………これはどういう……?」


水帆の声音は困惑6割畏怖3割、そして憤怒が1割といったところだった。


「……いえ、えーっと、その……」


石見さんはしどろもどろといった様子で答える。


「まあいたずら…と言いますか……なんと言いますか…」



水帆は黙ったままでいる。



「あはは…」


石見さんは愛想笑いというか苦笑いというか、苦しい笑顔である。



「あのさ」


水帆が厳しい顔持ちで口を開く。


「うちのゆーちゃんに手を出さないでもらっていいかな?他人の男に手を出すって倫理的に…ね?」




(いや『うちのゆーちゃん』ってなんだよ…)


自分は全く水帆のものと化した覚えはないのだが…。



「…でも、先輩と…えーと、五瀬さん…?はカレカノじゃないですよね?」


先ほどまでの弱々しさはどこへやら、石見さんが強烈なカウンターパンチを繰り出す。


水帆は一瞬目を見開いて、しかしすぐに元の厳しい顔に戻った。


「別に?そうじゃない、なんて言ってないけど…?」


(いや違うんだが??え?あれ、?)


確かに、確かに水帆には告白を延期させてしまってはいるが!


うーん。まあ告白の予約、と考えて、仮に水帆が必ずはいというのであればもはや付き合っていると言っても過言では…ある…な…。


「へぇ…?じゃあ告白されたんですか?」


石見さんは石見さんで水帆の弱点を徹底的に攻撃している。


やめてあげてほしいような気もする。


水帆も今度はびくっ、と肩を震わせたが、しかし威厳を保たんという感じで顔持ちは変えない。


「…まあ、そんなところかな?」


(え?)


「いや、私の情報によれば付き合ってもいないし告白もしていないはずですが」


(私の情報って何?!)


「じゃあそれが間違ってるんじゃない?もう付き合ってるもの」


(付き合ってはないかなぁ…)


「いえ、間違いはありません。必ず。なので私的には先輩は貴女のものではありません。」


(すごい自信だな…?)


ツッコミが止まらない論理展開に頭が回り切らずにいると。


「んんんん…!じゃあいい!今ここで付き合ってること証明するから!」


(え…?)


「そうですか、私だって先ほど…」


(え?)


「見てなさいよ?!」


(え?)


水帆がそろそろと近寄ってきて、やはりこちら顔を覗き込むようにする。


水帆と目が合う。


確実に、覚悟の決まっている顔だ。



(まずい)



決して嫌だというわけではないが、後輩の前でなんて恥ずかしすぎて死んでしまう。


どうしよう…!



「…ちょ、ちょっと待って?!」



その瞬間、水帆がびっくりしたようにこちらを凝視したまま硬直した。



(ん?)


そこでようやく、自分は自身の声が出たことに気づく。


「………あれ…?」



「…声、出るの…?」


水帆はそう、なかば呟くように言った。


若干俯いているために、顔に影がかかっている。


「いや、えーっと…」



次の瞬間、頬に鈍い痛みが走った。


「?!」


水帆は真っ赤にした顔でこちらを睨みつけている。


「…え?」


自分がわけもわからず水帆を見ていると、


「…なんでかなんて聞かないでよ!?」


と言ってそのまま出ていってしまった。



「……なんで……?」


ゆっくりと石見さんの方を向くと、石見さんはニコニコしていた。とてもニコニコしていた。


「…え、なんで叩かれたと思う…?」


石見さんはそう訊かれてもしばらくニコニコしたままでいた。


そうしてふと真顔に戻ると、さぞかし当たり前かというように、「まあそれは…別れ話の定番だからじゃないですか?」と言った。


「…ごめんどゆこと?」


しかしそんなことを言われても全くもって訳がわからない。


なぜに急にビンタされたのか??


「…えー、まあ、ちょっと、先輩、今の自身の行動を振り返ってみては…?」


振り返ってもわからないってのに…などと思いながら、さっきまでの行動、というか出来事を

思い出す。


「まず、なぜか石見さんが………いやまずここがおかしいんだよな、どういうことなんだ…?」


そう呟くと石見さんは


「まあいいじゃないですか」


と言う。


何がいいのかさっぱりだが…


「うーん…じゃあ次に、その未遂現場をすいが目撃した…」


石見さんは少し怪訝そうにした後、煮え切らない口調で、「すい…って五瀬さんのことですか?」と訊ねてきた。


「えー、あぁ、そうだね」


そう聞いてもなお石見さんは何かに悩んでいるようだったが、とりあえず続ける。


「んでなんやかんや君らが揉めて、なぜかすいも同じことをしようとして…あ」


ここでようやく気づいた。


石見さんのときには声を出さずにいるのに、水帆のときになって声を出したということは、捉え方を変えれば、石見さんならいいけど水帆はだめ、ひいては石見さんの方が好き、っぽくなってしまうのでは?!ということだ。


「…あぁ…やば」


そう後悔と早く訂正しなければという焦燥感に駆られていると、石見さんの隣から注がれるニコニコとしている目線が刺さる。


「…なんでそんなニコニコしてんの…?」


石見さんは少し目を大きくして、しかしまだニコニコしたまま、「愛の告白って嬉しいですよね」と言った。


「…え?」


まさか、この娘も水帆と全く同じ感性をしてるのか…?


「…っていうか、別に石見さんは僕のことは好きじゃないんじゃないか…?演奏は好き、だとは言ってた気がするけど」


自分で言うのもなんとも気恥ずかしい話だが。


石見さんは呆れたような顔でこちらをみている。


「…いやいや、ちょっと考えてみてください」


「え?」


「たとえば、ここにAという曲があったとします。」


「全くひねりもない曲名だな」


石見さんが、別にいいんですよ、名前は、と言って続ける。


「先輩はこのAという曲に恋をしています」


「……は、はぁ」


曲に恋をしたことがないがためにあまりよくわからない感覚だが。


「じゃあこのAの演奏者とか作曲者にも恋をすると思いませんか?」


「…え?」


「思いませんか?」


「……思わないかなぁ…」


石見さんはさぞかし驚いたように目を大きく見開いた。


「えっ?」


「だってさ、その理論だと」


続けて、なんとなく想像するように伝える。


「たとえば仮に君がAさんを好きだとして」


「名前のセンスないですね」


石見さんがあっけらかんと言う。



「君に言われたくないよ?!」


「そうですか…?」


石見さんは全く悪びれもせずむしろ何を言ってるのかと言わんばかりである。


「まあ、それで、君のその理論だと」


「はい」


「君はAさんのご両親にも恋をしてることになるのでは…?」


「…あ」


石見さんはそのまましばらく少し下を見ていたが、顔をばっと上げて突然言った。


「…じゃあ私は単純に先輩のことが好きなんですか?」


「…は?」


「え、だって実際好きなんですよ」


「…はぁ」


まあ確かによく考えたらそうか。


となるとこれはかなりのノンデリ発言…??


「えーー…っ」


石見さんは顔を赤らめて、しかし何かを言いたげに口をぱくぱくさせている。


「…あの〜ぉ」


「…ん?」


「…あと、先輩、私のこと、石見さん、じゃなくて、未来(みく)って呼んでくれませんか?」


「え?」



(いやー、あんまり後輩のことを下の名前で呼ばないんだよなぁ…)



渋っている自分を見て、石見さんは可愛らしい声で「だめ、ですか?」と言った。


しかし自分は、水帆のいつもの攻撃で耐性がついているので…


「だめじゃないです」


あれ?


おかしいな。


「よ、よかった…です」


未来さんは恥ずかしそうにしている。



ようやくここで、自分がそういうのへの耐性が全くついてない、ということに気づいた。



「…じゃあとりあえず未来さん、あの」


「未来さん、じゃなくて未来です。ちゃんと私は敬称まで指定したじゃないですか、『「石見さん」じゃなくて「未来」』って」


「あー…」


流石にそれは厳しいかもしれない。


年下の女子を下の名前で呼んだことなどほぼない。というかない。それこそ妹ぐらいである。


「…だめですか?」


「大丈夫です」


自分が落としに弱すぎてなんとも泣けてきた。


「じゃあ、未来、そろそろ授業始まっちゃうんじゃないかな?」


「え、あ、いや、昼休みだからっ、あ、やっぱり大丈夫です…っ」


石見さんは顔を真っ赤にして、そのまま保健室から駆け出していってしまった。


と、その入れ替わりのように保健室の先生が戻ってきて、怪訝そうにこちらを見た。


「…どういうこと?」


「あっ、いえ、その…」


そうして、自分はあたふたしながら、昼休み中ずっと(ところどころぼかしながら)事情を説明する羽目になったのだった。


いかがでしたでしょうか?

今回も相変わらずの内容ですが、お読みいただきまして本当にありがとうございます。

もし、お気に召していただけましたらぜひ!感想もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。