青い果実
いらっしゃいませ。
ついに始まった!!
雲たなびく青空!!
桜吹雪く通学路!!
高校入学だーーーーっ!!
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きーんこーんかーんこーん・・・
「はぁ・・・」
大きくため息をつく。
ついさっきまで「高校デビュー!!」が頭を占拠していたのに、よもや跡形もなくなった。
え?なぜかって?
うーん・・・あんまり言いたくないんだよなぁ・・・
「・・・友達ができなかったからでしょ?」
そう、そうなんだよ・・・って
「すい・・・心の声聞こえるのかよ??」
「え?うん」
この「当然ですが?」という顔で嘘をついている女子生徒は、我が幼なじみである五瀬水帆だ。黒い髪ショートヘアで、前髪の左側(すいから見て)に水玉模様のマストの髪飾りをしている。「すい」と呼んでいるのは「水」の音読みだ。
だがそれよりも気になるのは・・・
確かに刺さる視線。
クラス中の、特に男子からの視線が痛い。
「なんであいつに・・・?」
という嫉妬と羨望の声が聞こえる気がする。
「どうしたの?ぼーっとしちゃって」
自分がそんなことを考えているのを知ってか知らずか、すいは声をかけてくる。
水帆は家は若干離れているものの、本当に昔から家族ぐるみで交流がある。
それこそ世の「幼馴染」の典型例だ。
そこまでは特に問題はないのだが・・・
とにかく水帆は可愛すぎるのだ。
まずプロポーションがいい。
背丈は俺よりも小さいぐらいだが、遠目にはそう思えないほどにスタイルはいい。
そして・・・ツンデレだ。
ツンデレなんてあればあるほどいい、なんてことはよく聞くが、それには同意せざるを得ない。
そういえば今のツンデレは元の意味とは違っているんだとか噂話で聞いたが、今の意味のツンデレの方が嬉しい。
いつもは「そんなに興味ない」「ただの幼馴染」感を漂わせる動きをするが、それは表面上の話であって決してそれが本心ではない・・・と思っている。
人がいなくなったりすると、急に指を絡めてきたり。
いや、もしかしたら水帆の親愛を示すサインなだけで恋愛感情などないかもしれないが・・・。
とはいっても、それをされて何も思わないっていうのも無理なわけで。
ああああああああああ!!!と叫びたくなるほど最高なのである。
「・・・いや、なんでもない」
そう言うと水帆はそう、と興味なさげに言った。
その夜、自分は湯船にぷっかりと浮かびながら考えていた。
「・・・どうすれば話しかけてもらえるんだろ」
決して人と話すのが嫌いなわけではない。
実際、中学校では友人は多くいた。
しかし高校となれば話は違う。
高校は中学校より広い地域から生徒が集まる。
当然、知らない人も増える。
そうなると、昔からのつるみとか、よしみとかはなくなってしまうのだった。
そんなことを悩みながら、自分はいそいそと布団に潜り込んで・・・・・・
眠りに落ちる直前、あることを思いついた。
次の朝。
とりあえず新学期だからな・・・と早起きをし、食パンを頬張り、早々と家を出て・・・
「?!」
見ると、家の前に水帆らしき人影がある。
そして、こちらに気づいたのかぱっと振り返ると、満面の笑顔で「おはよー!」と言った。
手には食べかけのあんぱんがある。
「・・・・・・・・・朝からあんぱんなんか食べてたら太るぞ?」
「そんなことないし!っていうか太ってないし!!」
「太ってるとはいってないが」
「うっ」
まさかまさかの想定外な状況に一瞬驚きはしたが、ややあって元の調子を取り戻す。
「・・・というかこんな早くからどうしたんだよ?」
「えっ?一緒に行こうと思って」
「・・・あのなぁ・・・」
水帆と一緒に学校に行くことが嫌なわけではない。
照れくさくはあるが、幼なじみだし、家も隣だし、特に不思議すぎることはない・・・
が、つっこみたいのはそこではない。
『何でこんな時間に家の前にいるのか』である。そもそも・・・
「・・・どうせ『何でこんな時間に家の前にいるのか』とか考えてるんでしょ?」
「え?」
「図星かな?」
こいつはなんて人の気持ちを読むのが上手いのだろうか。
到底追いつけそうもない。
「んー、まあゆーちゃんの考えてることなんてお見通しだしね?幼なじみだし・・・」
「・・・・・・そんなもんか?」
「・・・さぁ?でも多分だけど『新学期だから気合いを入れて早く登校するぞ!』的な感じでしょ」
「・・・・・・・・・やっぱりすいにはかなわんなぁ・・・」
「ふふん」
自慢げに・・・いや、誇らしげに胸を張っている。可愛い。
が、ここまでやられっぱなしというのも癪なので・・・・・・
「・・・・・・つまりすいは、『俺のことを好きだから』そんなにわかるってことか?」
「・・・・・・ん・・・・・・!!///」
瞬間、水帆は顔をぱっと赤くして、俯いて言った。
「・・・・・・べ、別に!?ゆーちゃんが好きだからじゃないし!幼なじみだからだし?!」
あたふたしながら必死に弁明している。非常に可愛い。
ふと水帆は落ち着いた様子になって、
「・・・あれ?もしかしてそんな風に誤解しちゃうってことはー・・・ゆーちゃんもあたしのこと好きなんじゃない・・・?」と言った。
してやったりとイタズラ顔でいる水帆だが、一つ『大きな』ミスがある。
「・・・・・・・・・『も』・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
水帆は顔をさらに真っ赤にして顔を手で覆った。
「・・・・・・ま、とりあえず学校行くか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
しばらく並んで歩いていると、水帆はようやく落ち着いたのかやっと顔を上げる。
ちらっと水帆の顔を見ようと目を横に向けると、水帆も同じくこちらを見ていた。
目が合う。
・・・・・・・・・気まずい・・・・・・・・・
二人はほぼ同時にぱっと目を背けた。
そして、そのまま、学校につくまで一言も発さなかった。
「・・・・・・・・・ね、ゆーちゃん」
「・・・・・・ん?」
水帆の席は自分の真後ろだ。まあそれは苗字が「暁音」と「五瀬」だからなので、中学のときも後ろの席だったためによくちょっかいをかけられることが多かった。
「・・・・・・・・・友達・・・・・・はどうするの」
「うぐっ」
突然の刺し攻撃に息が詰まる。
しかし、水帆は真面目そうだったので、慌てて真顔に戻って正直に打ち明ける。
「・・・・・・・・・正直無理に作らなくてもいいかな、って思ってる」
「・・・・・・ふーん・・・・・・そっか・・・・・・」
少し嬉しそうな感じがしたのは気のせいだろう。
「・・・・・・でも、学校生活で困るんじゃない?」
それは確かに水帆の言う通りかもしれない。
いくら幼なじみが二人いるとはいえ、それ以外に友人がいないのは浮くに決まっているし、グループ活動とかでも支障が出るかもしれない。
「まあすいとヒラちゃんがいればいいか」
「・・・・・・ふふっ、なんかゆーちゃんっぽいね」
「・・・どう言う意味?」
「そのまんまだよ」
水帆はたまにこういう揶揄うようなことを言うのが玉に瑕・・・いや、それも良さの一部かもしれないが・・・・・・とにかくなんというか、不愉快というにはプラスな気分になって、とても気恥ずかしいのだ。
「・・・友達がいないってことか、ひどいなこりゃ」
「ふふ」
水帆は楽しそうに笑っている。
・・・・・・この笑顔が一番好きなんだよな・・・・・・
そう無自覚に思いながら、水帆との会話に心を弾ませるのだった。
他愛無いことを話していると、徐々にクラスに人が増えてきて、騒がしくなってきた。
決して意識をしているわけではないのだが、たまに「五瀬」とか「暁音」とかの言葉が聞こえると意識がそちらに飛んでしまう。
「・・・・・・聞いてる?」
水帆が訊ねてくる。
「・・・・・・あ、ああ、ごめん」
「・・・・・・はぁ・・・いまあたしと話してるんだよね・・・?」
「・・・・・・ハイ」
「・・・・・・・・・・・・・・・そんなに私との話って退屈?」
「・・・・・・・・・いえ・・・」
「・・・・・・・・・・・・あたしとっても悲しいなー」
わざとらしく言ってはいるものの、多分本音でもあるのだろう。
「・・・・・・ごめん、ちゃんと聞くから」
「でも傷ついちゃった乙女の心は戻らないんだよ・・・?」
「うっ・・・」
「どう責任とってくれるのかなー?」
水帆はとても楽しそうだが、自分からすれば地雷原に投げ込まれたような気分だ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・まあいいや、あたしなりにちゃんと責任は取らせるから。」
そう言った水帆の目は据わっている。
これは非常にまずい。
「そ、それよりも今日の放課後の話だけど」
「クレープ屋さんに行く話だっけ?うん、クレープを二人で食べて、甘い感触に浸っている間に家に連れ込んで・・・・・・」
「ちょちょちょっと?!急にえげつないこと言わないで?!」
その話を聞いていた女子の顔が驚きで固まる。
「え?じゃあゆーちゃんは嫌なんだ?」
「・・・そういうわけじゃないけど」
「じゃあいいよね?」
こうなった水帆を止めるのは非常に難しい。
それこそ止められるのは・・・
「お?今日もイチャついてんのか?」
うん。ちょうどいいところに来た。
「・・・・・・うげ、さねひらじゃん」
「ナイスさねちゃん」
「ちょっと?」
こいつは俺のもう一人の幼なじみの三戸実平だ。
お調子者・・・というのだろうか、中学校のときもネタキャラとして定着していた。
そして、自分は毎度思っているのだが、
「何でこの三人がこの学校に来ているのか?」という疑問が頭にもたげる。
というのも、この学校・・・東雲高等学校は私立の高校だ。
受験や推薦なしでは入れないし、レベルも決して低くはない。
自分と水帆は学業について困ることはなかったから、それこそ特別に勉強を詰め込んだりはしなかったが、実平は中学校で赤点以上平均以下をうろうろしていたようなやつだ。それなのに———同じ高校に行こうなどと誘った覚えもないが———なぜかこいつもこの学校に進学してきた。
まあ自分的には知り合いが多いだけありがたいのだが。
「・・・さねひらはさっさとどっか行ってよ、今ゆーちゃんと大事な話をしてるの」
水帆が少し不機嫌そうにいう。
「その割には惚気てたけどな?あー、デートの約束か。」
「そうね」
「違うよ?!」
実平の茶化すような物言いは当事者でなければ面白いのだが、ね。
「そうかそうか、まあ仲がいいのはいいことだな、感心感心」
「お前はどこ目線なんだよ!!」
「上だが?」
「冗談は顔だけにしろよ!」
「あ?」
そんな風に喧嘩に発展しそうな雰囲気になったところで、水帆が水を差した。
「ちょっと、勝手に盛り上がらないでもらえる?」
「なんだよ、別にいいだろ?すい?」
「あんたにその呼ばれ方をする筋合いないんだけど?」
言葉からしてもかなり水帆が不機嫌なことが窺える。
しかし自分はそれを止められる技量はなく・・・・・・。
「こいつと同じ幼なじみだぜ?筋合いありまくりじゃねぇか」
「それはゆーちゃんだからいいのであってあんたには許してないから」
「はー、どんだけこいつが好きなんだか?」
「あんたの100万倍・・・・・・いや0に何かけても0ね、比較できない」
「こういう生意気な女子を堕とすのがいいんだよなぁ」
「真面目にめっちゃキモいから二度と姿見せてこないで?」
「ふっ、暴言も愛のうちってか?」
「キモ」
ツン水帆・・・・・・あ、ツンツンしている水帆のことを俺はそう呼んでいるのだが、
ツン水帆のチクチク・・・いやグサグサ言葉と、実平のセクハラ変態発言の応酬はまさに見るに耐えない。
周りの女子と男子も目を逸らしたりそそくさと席を離れたりしている。
「・・・・・・ま、まあまあ二人とも」
「「なに?」」
「・・・・・・・・・何でも無いです・・・」
一応止めようと試みるが、二人からの敵意マシマシの返事に断念した。
その後朝礼がかかるまで続いた暴言と変態発言のオンパレードは、その後一週間クラス内の話題の一つとなるのだった。
お久しぶりです!!
いなとゆいです。
更新が大幅に……って更新じゃなくて新規でしたね。
とつまらない茶番は置いといて、今回もお読みいただきありがとうございました!
どんどん続きを書いていきますのでどうぞよろしくお願いします!




