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第7話・姫殿下第2の願い

「そして、このまま2つ目の願いといこう。そうだな……なんらかのステータスが私に追いつくまでの間、私とお前のステータス上昇に補正を掛けよう」


 俺を指差しながらクローディアが言う。鋭く薄い唇が微かに吊り上がり、得意げな面持ちが様になっている。


「たんまたんま! わたし! わたしもわたしも! 経験値バフはえぐい!」


 ティファが右手をピンと上げながら割り込んでくる。確かに、ひとつの願いで複数人に恩恵を振り分けられるというのは有難い話だ。クローディアも納得したようで、俺を指差していた手を3本指に変更する。


「では、どちらかの何かが私のステータスに到達するまで、私、勇者、悪魔のステータス上昇に補正を掛けよう」


 その提案と共に、脳内に声が響く。


『クローディア・A・ゴルバトフ、第2の願いを受理。内容:特定条件達成まで、対象3名のステータス上昇を補正する。承認しますか?』


「承認する」


『承認を確認。顕現内容の精査を開始。異常無し。残存魂の査定を開始。――異常発生。願いの権限を中断します』


 そして、声が終わった。


 数秒待つが、続きは無い。


「…………え?」


 音量が小さいのか思いと脳内に集中するが、やはり声は続いていない。中断され、終わったらしい。


 楽しみそうに俺を見る2人が、しかし、俺の顔を見て少しずつ険しい表情に変わっていった。


「どうした、何があった」と、何かを察したらしく訝しむクローディアと、


「顔色悪いよ? 大丈夫?」と、俺の心配をするティファ。


 俺はひとつ深呼吸をしてから、クローディアのほうを見ながら答えた。


「願いが中断されました。残存魂の査定を開始した所で異常が発生。この3人のステータス補正をひとつの願いとして実行する事は難しいそうです」


 その言葉に、クローディアは右手で口元を覆いながらしばし思考する。俺とティファを交互に見て、上目遣いで俺を睨みながらこう言った。


「悪魔の願いだからなんでも叶うと思ったのだが、意外とケチなのだな」


 そう言われると心苦しい。


 俺は提案する。


「それか、俺、ティファ、姫殿下の3人が特殊過ぎて、補正を掛けるのも大変なのかもしれません。顕現内容の精査、つまり実行可能か否かは問題無く通過していましたから、人数を俺と姫殿下に絞ってもう1度チャレンジしませんか」


「え!? 私、経験値バフのチート、貰えないの……?」


「ごめん、ティファ。どうやら無理みたいだ」


「許せ、勇者。元より、成長しても私に逆らえない縛りは悪魔にしか課していないから、リスクがあるとは思っていたんだ。悪魔を強くするという事で、勘弁願う」


「むむー」


 リスのように頬を膨らませ、不機嫌を示すティファ。


「それなら、ティファも自分の願いで強くなったらどうだ?」


 取り繕うようにそう提案すると、ティファは不機嫌な状態から脱して、普通の表情に戻った。しかし、あっけらかんとしてこう言う。


「私、記憶が曖昧なんだけど、悪魔に願いごと、した事がある気がするんだよね。もし2つの願い事をしてもらってたとしたら、ここでピッピに願い事するの、危険が危ないかなって」


 頭痛が痛いみたいな言い回しで冗談めかしてはいるが、成程、それは確かに危ない。なんにせよ、俺が強くなったなら俺が守れば良いのだし、ひとまずはクローディアの次の願いが叶う事を祈るしか無い。


「それじゃあ、改めて、いきましょう、姫殿下」


「了解した」


 そしtえ、願いが展開する。


『クローディア・A・ゴルバトフ、第2の願いを受理。内容:特定条件達成まで、対象2名のステータス上昇を補正する。承認しますか?』


 うむ、間違いなく第2の願いだ。さっきの中断された願いも1回扱いされて今回で3回目だから魂徴収、なんて事になったら大変だ。


「承認する」


『承認を確認。顕現内容の精査を開始。異常無し。残存魂の査定を開始。異常無し』


 さっきの問題点、クリアだ。


『取引成立。ここに、悪魔の契約を締結する』


 そしtえ、声が終わる。


「…………」


 脳内の声に集中していたため、聞こえなくなっていた音が耳に流れ込む。風が草を撫でる音、少し向こうで訓練に励む騎士達の声。


 俺は無事に達成した事に安堵し、ため息をひとつ吐いてからクローディアを見た。


「成功です。これから、経験値補正が入るようになると思います」


「うむ。まぁ、どの程度の補正なのかはゆっくりと試すとして……」クローディアは俺とティファを交互に見る。「その悪魔の力を、今後どう活用していくか、だ。戦闘のステータスが低いうちは魔王との戦争に駆り出すわけにはいかないし、勇者には申し訳ないが、内政に携わってもらう他にないだろう」


 との事。確かに、俺とティファのこのステータスで魔王との戦闘に駆り出されるというのは非現実的というか――なんだって?


「…………まおう?」


 聞き馴染みはあるのに、実感は無い。そんな単語が聞こえた気がして、聞き返す。するとクローディアは少し驚いてからティファを見て、「話していなかったのか?」と確認する。ティファは苦笑して頭を掻きながら答える。


「あはは、実際私もよく解ってなかったから、いつかクローディアに説明お願いしよーって思ってたんだよね。難しい話は私からしないほうがいいよ!」


 との事。弁えるのは大事だが、弁えすぎはダメだぞ……報連相、大事。


 右手を額に当て、小さく呻いたクローディアと、唐突な前提条件の変化、思わず天を仰ぎ見る俺。数日の間平和だったもんだから平和な世界なのかと思っていたが、思えば平和な世界で姫殿下本人が騎士なんてやってるわけが無いのである。


 クローディアが俺のほうを見る。俺もクローディアのほうを見る。


 そして、クローディアのその言葉を、しかと聞き届けるのである。


「――この世界は現在、魔王率いる魔王軍と人類で、戦争状態にある」


 と。

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