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Fated Oath ─ 呪われた血の少女と偽りの名の守護者 ─  作者: りんごあめ
第一部 一章 絡まる運命 ─ Entwined Fates
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第5話 仮面の下

「……ふぅん」


 レオンが、口を開く。


「意外と頭は回るんだな。結界の綻びを利用して押し込むとは」


 レオンは想定外のような声を出した。

 

「……っ、いい加減にしてください!」


 レナは怒りと恐怖で声を震わせた。


「いくら実力を試すためって……魔物を呼ぶなんて、正気じゃない……パートナーなんて……破棄したいくらいです」


 レオンは眉ひとつ動かさない。


「パートナー破棄は規則上できない」


「それなら退学します。貴方とは絶対にパートナーを組みたくないです!」


 勢いで言葉が飛び出した。自分でも分かっている。退学なんて、できない。寮も支給金も、ここを出たら終わる。分かっていて、口が勝手に逃げ道を作った。


 レオンは短く鼻を鳴らす。


「……それは困る。俺の進級が遅れる」


 淡々とした声。怒りでも、焦りでもない。事務的な結論だけが落ちた。


 それなのに――次の瞬間、ほんの僅かに、口元が緩む。


 笑ったというより、形だけの変化だった。けれどレナには、それが一番気味が悪かった。


「もう試すような真似はしない」


 宥めるような声色だった。柔らかいのに、薄い。人を安心させるための音だけが乗っている。


 レナは返事ができなかった。


 緊張がほどけたせいか、足から力が抜けた。膝が床につく。屋上の冷たい石が、皮膚越しに体温を奪う。


 堪えていたものが、遅れて溢れた。


 涙が一滴、二滴。音もなく落ちる。怒りの涙なのか、恐怖の涙なのか、自分でも分からない。ただ、止められない。


 レオンはその姿をしばらく黙って見下ろしていた。


 手を差し伸べもしない。背を向けもしない。

 ただ、観察するように、何かを測るように。


 風が吹き、レナの頬の涙を冷やした。



***



 屋上での魔物騒動以降。

 レオンの態度は、目に見えて変わった。


 無用な挑発も、あからさまな敵意も見せない。あの薄い笑いも、刺すような言葉も、必要な場面以外では消えた。効率が悪いからだ。


 実技の授業前には、淡々と簡潔な確認だけを寄こす。


「今日は防御から入る」


「連携のタイミングを変える。合図は俺が出す」


 それだけ。命令に近いのに、不思議と“試す”感じがない。少なくとも、屋上の時みたいな乱暴さはない。


 レナはその変化に戸惑っていた。


 以前のように刃のような視線は消えた。見られてはいる。だが、刺されない。

 授業の合間に同じ机を囲んで課題を解く時間も増えた。会話は必要最低限だったが、“最低限”の中身は変わりつつあった。


「レオンさん、聞きたいんですけど、この魔術って……」


 レナが言いかけた瞬間、隣のレオンは手を止めずに、軽く首を傾けた。


「お前、いつまで敬語なんだ? レオンでいい。敬語もいらない」


 その一言で、ほんの少しだけ削れた気がした。


「……れ、レオン」


 レオンは特に反応を見せず、視線だけで続きを促す。


「それで? その魔術がどうした」


「……詠唱の省略、どうやってるのかなって。本当はもっと長いよね?」


「順序を削ってるだけだ。まず基礎式を――」


 レオンが短く説明を始めた、その途中で、鐘が鳴った。

 

 実技訓練の開始を告げる合図。教室の空気が一斉に動き、椅子の脚が床を擦る音が重なる。


「続きは歩きながらでいい」


 レオンが紙をまとめる。レナも慌てて教本を閉じ、二人は人の流れに混じって教室を出た。


 実技訓練室へ向かう廊下を、レオンとレナの二人は歩いていた。

 説明は途切れず、レオンの声だけが続く。


「……要は、結び目を作る前に流れを決めろ。お前は最初から詰め込みすぎる」


「……うん」


 レナは頷きながら、ふと視線を横に逸らした。廊下の端をのそのそ歩く小さな影に気付く。


「最近この辺に住み着いてるみたいだよ」


 レナはしゃがみ込む。


「誰か餌あげてるのかな、人に慣れてる。かわいい」


 差し出した手に、猫は警戒もせず額をすり寄せてきた。レナはふにゃっと笑い、その頭を撫でる。


 レオンは、説明の途中で口を止めた。

 その横顔を、じっと見た。


「……お前、そんな風に笑えるんだな」


「え?」


「俺といるとき、そんな顔、見たことがないぞ」


 あまりにあっさりした物言いに、レナは一瞬驚きながら肩をすくめる。


「……そうかな? まあ、そうかも。命の危険がなければ、多少は笑えるよ」


 レオンは、思わず短く息を吐いた。


 猫は二人の間をするりと抜け、どこかへ消えていった。



 ***



 その夜。街はずれの建物の裏口。扉の先は別世界だった。

 金で動く者たち。情報を売り買いする者たち。命を賭ける者たちが集う。


 その中に、一人の少年がいた。フードのついた漆黒の服を纏い、金の髪は布の奥へ隠している。


「……用件は」


「仕事だ。標的はこれだ。軍の実験から逃げ出した魔術師。昨晩目撃された」


 少年は書類を受け取り、写真を一瞥する。


「場所は?」


「地下水路の旧魔導路。お前なら間に合う」


 軽く顎を上げ、背中の剣に指をかける。


「先払いだ。信用はしない」


「……相変わらずだな、ヴァレント」


 テーブルに置かれた金貨の入った袋を確認し、少年は何も言わず席を立った。


 夜風に紛れて裏口を抜ける。地図に書かれた経路を頭の中で折り畳み、足を地下へ向けた。準備は移動中に終える。剣の位置、魔術陣の型、逃走経路。考えることはそれだけだった。


 地下水路へとたどり着く。静寂の中に足音だけが響く。湿った石の匂いが肺に刺さる。


 標的はすでに逃げていた。少年は無言で魔術陣を展開し、詠唱を始めた。


「──穿て、絶氷の杭」


 氷の魔術が標的の足元を凍らせた。動きが止まる。次の瞬間、少年は剣を抜き、寸分の狂いもなく喉元を裂いた。標的は叫ぶ間もなく崩れ落ちる。


 床に零れた血を見下ろしながら、彼の目には一切の感情はなかった。刃についた赤を、布で一度だけ拭う。処理はそれで終わりだった。



 ***



 この学院に、裏社会で“処刑人”として動く生徒がいることなど、誰も知らない。


 だが彼は夜明け前には帰ってきて、朝には平然とEクラスの席に座っている。

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― 新着の感想 ―
無理です(´Д` ) レオンが好きです(´Д` ) ツンデレ男子最高すぎます……
こんにちは!この度はXでの私の企画に参加してくださりありがとうございます!とりあえずここまで拝読した感想を送信させていただきます! 一話からいきなり暗い描写から入り、レナとレオンとの間は過去から今へ…
読みやすくてサクサクここまで読めました。 レオン君、なんだかんだ面倒見が良いですね。 この後二人の関係がどのように変化していくのか楽しみです。 また続き読んだら感想書きに来ますね。
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