第6話 「君は、本当に“人殺し”か?」
寮の長い廊下で、レナは包帯した腕で重そうな荷物を抱えて歩いていた。ちょうど向かいの部屋の扉が開き、レオンが顔を覗かせる。
「……なんでこの寮って男女混合なのよ」
レナは思わず眉をひそめて呟いた。苛立ちが隠せない。
レオンは薄く笑みを浮かべ、淡々と言い放つ。
「まとめて管理したほうが経費が浮くんだろ。身の安全は自分でしろってことだ」
その冷たい言葉に、レナは苦々しく息を吐く。
(なんでこんなところまで一緒なのよ……)
⸻
昼下がりの学院食堂。
レナは今日も、いつものように一人で静かにご飯を食べていた。
周りの楽しそうな声も、まるで別世界のことみたいに感じる。
(また、ひとりか……)
遠くからレオンはレナを見つめていた。
そこへ、数人のEクラスの生徒がレオンに近づく。
「なあ、あの子さ、いつも一人で飯食ってるよな」
「そうそう、しかも知ってるか?あいつ、人殺しなんだぜ」
ニヤリと笑いながら、そんな話を持ちかける。
「……人殺し?」レオンは眉をひそめた。
(人殺し……?)
頭の中に浮かぶのは、あの無邪気に猫を撫でて笑うレナの顔。
(一体どこが人殺しなんだ?)
実技演習の前に見せた、あの無垢で馬鹿みたいな笑顔が胸に刺さる。
(…ただの噂だな)
レオンは涼しい顔を装いながら、心の中で自分にそう言い聞かせた。
実技授業が始まる少し前。訓練場の片隅で、レオンが不意にレナへと近づいた。
「……おい。お前、人を殺したことあるのか?」
レナは目をぱちくりとさせて、ぽかんとした顔になる。
「は? あるわけないでしょ」
即答だった。
けれどレオンは、表情ひとつ変えず、さらに問いを重ねる。
「じゃあ……なんで、いつも一人でいるんだ?」
その声音はあくまで冷静。でも、どこか引っかかるような、気にしている色が混じっていた。
レナは、ふっと肩をすくめて、どこか困ったように笑う。
「うーん……この学院の実技って、死亡率高いでしょ? 前にね、私と組んだ子が討伐実習で……私を庇って、死んじゃったの」
「……」
「それから。私と組むと死ぬって、そんなふうに思われてるみたい。呪われてるとか、そういうやつ」
語尾は軽く整えているのに、どこか寂しげで、どこか割り切ったような声色だった。
ほんの少しだけ、滲んでいた悲しみ。
レオンはそれを見逃さなかった。
「……そうか」
それだけ言い残して、レオンは訓練場の中央へと歩き出した。