第四十話 家族と一緒に遊ぼう
ケイウ街のバス停に降りて人を探すために辺りを見渡す。今日は紗夢さんと奈子さん、そして、僕の母親である紗雪という人と遊ぶ予定だ。所謂、家族と遊びに出かける……って感じになるんだと思う。
どうしてこうなったのかと言うと、最近、エルさんが転生のために頑張ろうとしているから、僕もそろそろ転生のことを考えたほうが良いかもしれないと思うようになったからだ。未練を解消するにはきっと、家族と向き合う必要があると思ったから。
「あ、永夢……だよね?」
バス停のすぐ近くのベンチにて。黒髪の女性が僕に気が付き手を振る。
「そうですけど……えっと」
「あぁ、初めまして……って言えば良いかな。アタシは朔間紗雪。一応、アンタの母だよ」
「……そうなんですね」
「敬語じゃなくてもいいよ。アンタにとっては他人かもしれないけど、アタシにとっては腹を痛めて産んだ子供だからさ。他人行儀はよしとくれ」
「えっと、じゃあ……そうする」
「うん。ありがとう」
紗雪さんは微笑んで隣に座るよう促す。お言葉に甘えて隣に座り、紗夢さんと奈子さんが来るのを待つ。待っている間、紗雪さんはこの国での生活を根掘り葉掘り聞いてきた。たぶん、母親としてはここで楽しく暮らしているのか気になるのだろう。
質問に答えていると、二人がやってきた。
「紗雪さん、お久しぶりです」
奈子さんが丁寧にお辞儀をする。奈子さんは僕の父親である人と幼馴染だから、その妻である紗雪さんとも面識があるのだろう。
「久しぶり、奈子ちゃん。……なんて言うか、ありがとう。歩夢の我儘を聞いてくれて」
「いえいえそんな。……むしろ、ごめんなさい。歩夢の自殺を止められなくて」
「いいんだよそれは。いや良くないか。でも奈子ちゃんのせいじゃない」
紗雪さんは笑って手を振る。その言葉に、奈子さんは喜びと罪悪感、少しの悲しみが混ざったような表情で頷いた。
「それより」紗夢さんが手を叩く。少ししんみりとした雰囲気を吹き飛ばすような明るい声だ。「全員揃ったし、そろそろ動き始めようよ。永夢はどこか行きたい場所はある?」
「実は、特に考えてないんだ。がっちり予定を決めるより自由に見て回ったほうが楽かなって思って」
「そうなのね。じゃあ、テキトウに見て回りましょうか」
紗夢さんの言葉に二人とも意義はないらしい。僕たちは大通りの散策を始めた。
アパレルショップを見て回り、昼食をとり、昼過ぎ。僕たちは前に来店した魔術商店の前を通った。
「あ、ここ……」
「紗夢は来たことがあるの?」
紗夢さんが立ち止まる。紗雪さんの問いに、彼女は肯定の意味を込めて頷いた。
「どんな店だったんだい?」
「なんというか、オカルト系って言えばいいのかな。不思議な道具とか食材が売ってる店だよ」
「へぇ、不思議な食材か……」紗夢さんは顎に手を添え、考えるそぶりを見せる。「気になるし、行ってみてもいいかい?」
目を輝かせて言う紗雪さんに、僕たちは全員同意して魔術商店に来店する。以前来た時より店内が広くなってる……気がする。
「いらっしゃ~い……ってあら! この前来てくれたお客さんじゃないか! 食材が美味しかったから買いだめに来たのかな? それは光栄_」
「あれが美味しいと感じるのは貴女たち魔女だけでしょ? 勘違いしないほうが良いわよ」
「あっちょっ白狐! 急に出てこないでよ! あと別に普通の人間も美味しいって言ってるから~!」
「はん、どうかしら」
「しゃ、喋る白い狐……?」
白髪の美少女_魔術商店の店長が手を振ると同時に、カウンターの下から白い狐が顔を出す。奈子さんは驚いているのか口をポカンと開けている。獣人などは見てきたけれど、人型じゃない獣の姿で喋るところは僕も一回くらいしかないから、驚くのは判る。
白狐と呼ばれた狐はカウンターの上に飛び乗り、お辞儀をする。九本はあるであろう尻尾がゆらゆらと揺れていた。
「ようこそお客様。閑古鳥が鳴いている魔術商店へ」
「閑古鳥は鳴いてないです~! 一応黒字なんだからね! 店内も改築して広くなったし!」
唇を尖らせる店長。次に口を開いたのは紗雪さんだった。
「ここって何が売ってあるんですか?」
「あぁ、ここに来るのは初めてかな? ここでは漢方の材料だったり、錬金術に必要な素材の他、コスプレ系のものだったり、魔女たちが食べている……世間的には珍しい食材だったりが置いてあるよ。食材は前、そこのお嬢さんが一通り買ってたから感想を聞いてみるのがはずれが無くて良いと思う!」
「へぇ、いろいろあるんだね」
紗雪さんは近くの棚を眺める。錬金術の素材が置かれていて、値札にはレシピが書かれている。
「これってアタシたち一般人が買っても問題ないやつなの?」
「良いよ〜! ただし、これも一緒に買ってもらう必要があるけどね!」
紗雪さんの疑問に、店長は笑顔で空中に花丸を作ると1冊の本を取り出した。
「それは?」
「錬金術初心者のための説明書! 心得とか必要な道具とか、初心者におすすめのレシピとか色々収録されてるから買っておいて損はないよ! あ、あとちなみに、素材は食材にも使えるよ。味は保証しないけどネ☆」
ウィンクをする店長に白狐さんが鼻で笑う。店長が文句を言うが、彼女は素知らぬ顔である棚の前に行くと、ちょいちょいと手招きをされた。
「わたくしのおすすめはこの月光樹の枝ね。月光にかざすととっても綺麗なの♡」
月光樹の枝と呼ばれたその白い枝は、キラキラと輝く粒子をまとっていた。広く平たい葉っぱも、桜に似た花も、白く輝いている。
「これも錬金術の素材なんですか?」
「いいえ。これは、魔法の杖に使うものね。でも、インテリアにしても良いわよ」
「たしかに……綺麗だから、部屋に飾ったら気分が上がりますね」
値札を見ると59クルミと、結構高い値段だった。でも、余裕で買える。
「これってどこに生えてるんですか?」
「これはね、サバト……魔女集会のときにしか生えない、とっても珍しい木なの♡ 一度見せてもらったことがあるのだけど……とっても、綺麗だったわ」
うっとりとした声を出す白狐さん。その時のことを思い出しているのだろう。そこまで言われると……自分も、実物を見たくなってきた。
「おっと、月光樹の話題かな!? 残念なことに、サバトには私たち魔女か、白狐みたいな神霊しか招待できないから実物を見せてあげることはできないんだ」
「そうなんですね……」
「でもでも!」と店長さんが人差し指を立てる。「写真なら、見せてあげることができるよ!」
両手を前に出し、どこか不思議な、聞いたことのない言語_おそらく呪文を唱え始める。店長の周囲が光りだし、どこからともなく風が吹いてくる。
「っし、《投射》!」
カッと両目を開いた店長。次の瞬間には、冷気と一緒に真っ白な大樹がカウンターの真上に立った。全長……おそらく3m。周辺が雪のようにキラキラと輝いている。桜に似た白い花が咲き誇り、花びらがひらりひらりと落ちていく。そのあまりに神秘的な光景に、店にいる全員声が出なかった。
「これが月光樹です! 本物じゃないけど、その場にあるみたいだろ? どう? どう?」
「す」
「す?」
「すっ……ごく綺麗ですね……」
返答に満足したのか店長は目を輝かせて「そうだろう、そうだろう!」と僕の背中を叩いた。
「私たちはこの木が好きでね。初めてこの木を発見した時に"この木が生える時期をサバトの日にしよう!"ってなったんだ」
「そうなんですね」
月光樹の話を聞いていると、誰かが来店する音が聞こえた。それと同時に月光樹も霧散する。
「てんちょぉ〜、新しいアーティファクトの鑑定して〜」
茶髪の、丸いサングラスをかけた女性が気怠げに叫ぶ。茶色いアンティーク系のトランクを両手に持っている。店長はすぐに女性からトランクを受け取りカウンターの奥に消えていった。
「あれ、祝福少女と一緒にいた子じゃないか」
「え? えっと……」
話しかけられ、言葉に詰まっていると女性は苦笑して手を振った。
「ほら、フリマの」
「……あ、アーティファクト専門店の!」
「そう! あれから祝福少女の様子はどう?」
「あぁそれなら」
僕はエルさんが転生するために色々と頑張っていることを話す。すると、女性は「そうか……」と1粒の汗を流す。
「こりゃまずい。早く祝福を解除する方法を見つけないとだ」
「何がまずいんですか?」
「あー、妖精からの祝福って、転生しても消えることは無いんだよ」
女性はボリボリと頭を掻き、ため息を吐く。
「というか、これで転生なんかしちゃったら……アタシたちと同じ、魔女になる。別にそれでもいいならいいんだけど……少女は祝福を"呪い"だと認識している。つまり、普通になりたいってことだろ? だから少し心配なんだよ」
「……」
何も言う言葉がなくて黙っていると、「ごめんね、こんな話して」と苦笑する。
「あ、そうだ。良かったら少女の連絡先を教えてくれないかな? こっちのは渡してるんだけど……今の話を伝えておかないといけないからさ」
「僕がエルさんに連絡するよう伝えるのでも良いですか?」
「うん、いいよ。伝えられたらそれでいいからさ」
ということで僕がエルさんに連絡すると、すぐに既読がつき、そして数秒後に軽快な音楽が鳴った。彼女はポケットからガラケーを取り出した。
「ありがとね。じゃ」
と、店の外に出ていく。声が聴こえてくるのを見るに、エルさんと喋っているのだろう。
手持ち無沙汰になった僕は、奈子さんの近くに行った。彼女はキラキラとした瞳で魔法書を見ていた。
「魔法って本当にあったんだ……」
「ね。びっくりするよね」
「ひゃっ」
肩を跳ねさせ、奈子さんは僕を見る。少し顔が紅潮している。
「どんなものを見てたの?」
「え、えっと……魔力がない人でも使える魔法書ってやつ」
そう言って中身を見せてくれたので読んでみると、ポップなイラストが入っていたりどう言う仕組みでこの魔法が使えるのかなど、オカルトに否定的な人でもとっつきやすかったり納得できる(かもしれない)内容になっていた。なんて言うか、魔法というよりか化学実験みたいだな。
「あら、それを手に取るなんてお目が高い」
白狐さんが僕たちの間に割って入る。
「それに書かれている魔法_厳密には魔法ではないのだけど、まるで本当に魔法を使っているような体験ができるの」
「あ、魔法じゃないんですね……」
奈子さんが少ししょんぼりした顔でつぶやく。
「なになに、なんの話し?」
紗夢さんが後ろから尋ねる。魔法書のことを言うと、「あー」と頷いた。
「でも、魔力がない人でも使える魔法って書いてあるけど……」
「普通、魔法は魔力がある人_魔女しか使えないの。魔法が神秘とするなら、この魔法書に書かれているのは化学よ。現在の技術で説明できるけど、まるで魔法のように見える。これを書いた魔女はきっと、人間にも魔法を身近に感じてもらいたかったのかもね?」
「魔法を身近に?」
「えぇ。人間にもあるでしょ? そう言うの」
「確かに……」
白狐さんはふふんと笑うと尻尾を揺らしながら紗雪さんのところまで歩いていった。僕と紗夢さんも、それについていく。
紗雪さんは食材コーナーを見ていたようで、カゴの中にたくさんの食材が入っていた。
「あら、貴女は食いしん坊さんなのね?」
「見たこともない食材ばかりだからね。どうせなら全部買って試してみようと思ったんだ。冷凍保存もできるみたいだし」
「それならこのレシピ本もおすすめよ。ここにある食材の調理方法が書かれているの。調理の方法を知らなくても害がない食材しか置いてないけど、せっかく買ったのに不味い仕上がりになったら落ち込んでしまうもの」
「おぉ、ありがたい! じゃあこれも買っておこうか」
あらかた入れ終わったようで、ウキウキでレジに行く紗雪さん。だが、気になるものがあったのか横に逸れていった。
「紗雪さん、どれだけ買うんだ……?」
「お母さん、買い物好きだからこの店にある商品を片っ端から買いそうで少し心配だわ……」
紗夢さんが頭を抱える。苦労してるんだな……。
それからも、紗雪さんは全てのコーナーで大量の商品をカゴに入れ、お会計をする頃には千クルミ越えとなかなか見ない金額になっていた。この国ってどれだけ多く買い物しても三桁には収まると思っていたのだけど、どうやら認識を変えなければいけないみたいだ。
「お母さん買いすぎ」
魔術商店を出る頃には夕方になっていて、紗夢さんはジト目で紗雪さんを睨む。
「あ、はは……ごめんなさい」
両手に紙袋を抱え、苦笑する紗雪さん。「この国って単価安いしお金も手に入りやすいからつい買いすぎちゃうんだよ」と言い訳をしている。彼女の言い訳を聞きながらバス停まで向かっていると、誰かに声をかけられた。
「おぉい、ちょっとそこの、大量の紙袋を抱えているお嬢さん」
「……ん? アタシかい?」
振り返ると、金と青のツートンカラーに丸いサングラスをつけた男性……天上院エンマが立っていた。
「ん? おぉ、なんや全員揃っとるんか。ちょうどえぇわ」
「えぇと、確か……」
「天上院エンマ。別に覚えなくてもえぇで。それより伝えたいことがあるんやけど」
「伝えたいこと?」
「キミの旦那さんがこの国に移住することになったから、それの報告やね。詳しい日付はまた後で連絡するわ。そんじゃな~」
それだけ言って彼は人込みの中に消えていった。僕を含めた全員、茫然とした顔で天上院さんが消えた場所を見つめている。
「……旦那って、歩夢のことだよね?」
「歩夢のことだと思うけど……」
「お父さんがここに来るってこと?」
「……お父さんが」
上から、紗雪さん、奈子さん、紗夢さん、僕の順だ。もう少し説明が欲しかった、というか……言うだけ言ってすぐに帰るのは可笑しいんじゃないかとか、いろいろ思うところがあるけれど……きっと、僕より紗雪さんや奈子さんのほうが仰天してるだろう。
「……そうか、あいつがねぇ」
紗雪さんがぽつりと呟く。お父さん_歩夢のことを考えているのか、紗雪さんと奈子さんは家に着くまで無言だった。
お読みいただいてありがとうございます。
これからもがんばって続きを書いていきますので、ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。
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