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第三十三話 星座作成プロジェクト2

 会議室の近くにある自販機の前に行くと、ユリアンさんがぼぉっと自販機を眺めているのを見つけた。どれを買うか悩んでいるのか、それとも疲れているのかな。ユリアンさんの名前を呼ぶと、彼はびくりと肩を震わせて僕を見た。


「あぁ、何だ。永夢くんか」

「ぼーっとしてるけど、どうしたの?」


 問いかけると、ユリアンさんは眉を下げて困ったように笑った。そのまま、自販機の一番下の右から二番目の飲み物を指さした。缶には宇宙味のジュースと書かれていた。具体的にどんな味なのかは、実際に飲んでみないと判らなさそうだ。


「これ、どんな味なんだろうね?」

「買ってみる?」

「…………どうしようかなぁ」


 彼は顎に手を添え、考えるそぶりを見せた。確かにいざ買ってみて好みの味じゃなかったらと思うと買うのを躊躇ってしまうだろう。食べ物は無駄にしたくないしね。


「それじゃあ僕が買うから、それを味見する?」

「良いのかい? 僕としてはありがたいけれど……」


 ということで、僕は宇宙味のジュースと麦茶を、ユリアンさんはレモンティーを購入した。

 会議室へ戻ると、アワネちゃんと心春さんがスマホを見ながら会話をしていた。どうやら使い方を教えているようで、心春さんは真剣にアワネちゃんの話を聴いていた。


「お、永夢クンにユリアンくん! 一緒に居たんすね……って、それは?」


 アワネちゃんは僕の持っている缶を指さした。教えると、彼女は目を輝かせて「どこで売ってたっすか!?」と問いかける。


「近くの自販機に売ってたよ」

「ありがとうございます! 行ってくるっす!」


 彼女は会議室を出て、一分程度で戻って来た。頬を紅潮させ、肩で息をしている。ここから自販機までそんなに離れていないはずだけど……早く飲みたかったのかな。

 ユリアンさんにジュースを渡す。一口飲んだ彼は目を丸くし、口が半開きになった。理解できないものに直面したときの顔、と言えば判るだろうか。


「甘い……いや苦い……? どろっとしてるのは判る……何か粒みたいなのが入ってる……のかな……なにこれ……本当に何これ……?」


 アワネちゃんのほうを見ると、彼女も同じような表情になっていた。そんなに変な味なんだ、これ……。

 ユリアンさんから返されたジュースを飲む。そして2人の反応の真意が判った。

 まず、どんな味なのか判らない。というのも、甘いと思ったら苦くなって、苦くなったと思ったら酸っぱくなる。味が一定じゃないのだ。そして食感も不思議で、ドロっとしてて少し砂粒のようなザラっとした感じがする。

 ここまで聞くと美味しくないように感じるかもしれないけれど、めちゃくちゃ美味しいんだ、これ。全ての味が通り過ぎていった後に残る感情は、"美味しかった"。だからだろう。ユリアンさんは気味悪そうな顔で口元を手で覆っている。


「ユリアン? どうしたんですか、そんな顔をして」

「アワネちゃんもすごい顔してる。フレーメン反応……?」


 戻ってきた三人は揃って首を傾げている。そりゃそうだ。四人中三人が微妙な顔をして方針していたら誰だって疑問に思う。

 心春さんが事の経緯を説明していたら、休憩時間が終わった。僕たちは早速星座作りに取り掛かろうとしたが、アワネちゃんとユリアンさんが微妙な顔のまま動かなくなってしまい、タイヤンが進行することになった。


「あー、それじゃあ、次作る星座のことなんだが」


 タイヤンは頭をガシガシと掻きながらスケッチブックを見る。簡単な話し合いの結果、チェスの駒はユリアさんが描くことになった。


「えっとじゃあ、どんな構図にします?」


 ペンを回しながらユリアさんが質問をする。各々が意見を出し、タイヤンが意見をまとめた紙を僕らに見せてきた。

 彼はその中からナイトの駒を描くことにしたらしい。一番判りやすいからと。確かにチェスの駒と言われて思い浮かぶのはナイトかもしれない。

 ユリアさんは真剣な表情で点と点を繋いでいく。緊張しているのか手が震えていた。


「……これでどうですか?」


 不安げな様子の彼は僕たちに完成品を披露する。そこにあったのは__ハリネズミみたいな形をした何かだった。

 沈黙が流れる。聴こえるのは、ほかのテーブルの人たちの会話だけ。


「な、なんか言ってくださいよ」

「えっと、これはハリネズミか……?」

「ウニ……」

「ハリモグラにも見える……」

「フグ……」

「可愛いヤマアラシだね」

「ハリセンボン……」

「アワネさんは何なんですかさっきから!!」


 上からタイヤン、アワネちゃん、憂病さん、アワネちゃん、僕、アワネちゃん、ユリアさんだ。アワネちゃんはカラカラと笑い、ユリアさんは怒鳴ったことを反省しているかのように両手で顔を覆った。


「ユリアさんは絵が得意じゃないの?」


 ユリアンさんが強く推すからてっきり絵が上手いのかと……と心春さんは口にする。


「絵を見るのは好きなんですけどね……」


 ユリアさんは薄らと涙を浮かべながら苦笑する。少し可哀想になってきたな……。


「それよりさ、そろそろ残り十分だけど、どうするの?」


 空気を入れ替えるようにユリアンさんが手を上げる。変な状態から回復したらしい。


「どれを打ち上げるかそろそろ決めたほうが良い時間だな……」

「私たちが作ったのは五個かぁ。この中から一個選ぶ必要があるんだったよね?」

「そうですね。多数決にしますか?」

「確かに、そのほうがいいかも」

「じゃあ、省くやつを多数決で決めよっか」

「迷うなぁ……」

「じゃあいっせーのーせで決めましょ!」


 いっせーのーせ! という合図で僕たちはそれぞれ省くものを指さす。僕は戦士を連れたキングライオンを指さした。


「おっと、戦士を連れたキングライオンが一番多いっすね! じゃあ打ち上げるのはこれで問題ないっすか?」


 アワネちゃんはぐるりと僕たちを見る。意見がないことを確認すると、腕を組んで眠っているケラヴノスさんに声をかけた。何も言わないなと思ってたら寝てたのか、このヒト……。


「んうぇ!? あー、もう終わりか?」

「もう少しで終わりっす。打ち上げるものも決まったので、一応報告を」

「なーるほどな。じゃあ決めたやつを__」


 ケラヴノスさんはタッチパネルを操作して範囲選択で星座を選び、左上にあるメニューから名前をつけて保存をタッチした。


「タイトルは何にするか決めたか?」

「タイトルいるんすか?」

「一応な。テキトウでも良いが、HPに載せるときタイトルも一緒に記載されるから"あああ"とかはやめてくれると」


 過去に居たのかな、星座にあああってタイトルをつけた人が。


「つっても、タイトルなんてどうつけりゃいいんだ」


 タイヤンが頭をガシガシと掻きながらぼやく。


「別に凝ったタイトルにしなくてもいいんじゃないかな。戦士を連れたキングライオン……とか」

「確かにそうっすね! 心春チャンのタイトル、良いと思います!」


 心春さんが人差し指を立てながらそう言った。自信がなくなってきたのか、語尾がだんだんと小さくなっている。その様子を見てか、アワネちゃんが満面の笑みで親指を立てた。他の人たちも異論は無いようで、肯定するように首を上下に振った。


「じゃあ、従者を連れたキングライオンで良いな?」


 ケラヴノスさんが確認するようにテーブルをぐるりと見回した。みんな頷くと、彼女は「よし」と言ってタイトルを打ち込んだ。

 確認が終わると、ケラヴノスさんは用があるからと去っていく。出来上がるまで自由にしても良いとのことなので、僕たちはそろってお土産を見に行った。


《_星座玉が完成しました。星座作成プロジェクトに参加している方はセンターホールにお集まりください》


 三十分くらい経っただろうか。アナウンスが流れたのでホールに行くと、すでに他の人達が揃っていた。僕で最後だったようで、スタッフさんに案内され宇宙センターの裏手にある広場に来た。広場の中心に三本の筒が並んでおり、その周りではスタッフらしきケルベロスたちが忙しそうに動き回っていた。


「もう少しで打ち上げますので、皆さんはコーンの外側でお待ちください」


 と言われたので、僕たちは少し離れた場所で打ち上がるのを待つことにした。というのも、限界が来たのかユリアさんが小刻みに震え始めたからだ。


「その、大丈夫ですか……?」

「……………………」


 ユリアさんは震えたまま首を横に振った。心配になるほど青ざめており、ユリアンさんが背中をさすっていた。


 ヒュ~__ドン!


「あ」


 花火が打ち上がる音が聴こえて空を見る。ブーケに、テニスラケットに、キングライオンが空に浮かぶ。花火と違うところは、このまま黄泉の国の空に残り続けることだ。少し気恥しいけれど__僕が……僕たちが居た証を残せたのだと思うと、このイベントに誘ってくれたアワネちゃんには感謝の気持ちでいっぱいだ。


 ・


「ありがとう、アワネちゃん。誘ってくれて」


 帰り道。家が近い僕とアワネちゃんは一緒に帰路についていた。


「いえいえ! こちらこそ永夢クンと一緒に星座作れて楽しかったっすよ!」


 彼女は満面の笑みでそう言うと、上を向いた。


「ワタシたちが作った星座は冬に現れるんすよね」

「そうだね。今は初夏だから……実際に見るのはしばらく後になるね」

「冬になったら今日来たみんなで一緒に見たいっすよね! ……」


 アワネちゃんは立ち止まる。空に目を向けたまま、口を開いた。


「冬まで皆一緒だったら良いな」


 そう呟いた彼女の眼は、どこか寂し気だった。

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