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変の後・三
山崎の戦いにおいて豊臣軍に敗れましたる光秀公は、居城である坂本城を目指し、わずかの手勢とともに人目を避けつつ進んでおりました。
「それは真の話か?光秀さまは無事でおられるのか?」
精気が抜け落ちたようだった利光の顔は、修羅ノ介のこの言葉を聞いた途端に変わった。
人二人がどうにか向かい合って座れるほどの狭いこの部屋で、修羅ノ介は本能寺での御伽語りとは異なり、だいぶ小さな声で話していた。
問うた利光の声も同様で、囁くようなものだった。
修羅ノ介は問いには答えず、話を続けた。
光秀公は百人ばかりの兵を引き連れ、勝龍寺という寺に逃げ込まれましたが、秀吉方はそこをぐるりと囲みました。
無論、その数は立て籠もった明智方の兵に比べ、圧倒的でございました。
利光は、「ああ」と落胆の声を上げた。