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五ノ話・十
すでに、信長方の警護の者は大方討ち取られていた。
「弓を寄越せ」
信長は近習に命じると長槍を置き、一人が急ぎ持ってきた弓を手にした。
轟声を上げ、明智の兵が迫った。いずれも信長の首を取ろうと、血気に逸っていた。
信長は次々と矢を放った。
断末魔の悲鳴がこだまのごとく連なり、たちまち死体が積み上がった。
だが、まだ多くの矢を残しているうちに、信長が手にしていた弓の弦は切れてしまった。
言葉を発する間も惜しみ、信長は長槍を手にすると、襲いかかる兵を次々刺殺した。
辺りを見れば、織田方、明智方、両軍入り乱れ戦っていた。
信長は少しも手を緩めず、耳がつんざけんばかりの大声を発し、さらに槍を突いた。
しかし、明智方の兵は信長方と比するに圧倒的な数だった。